新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第14回をご覧いただきありがとうございます。
ストックオプションの制度設計では、
「ストックオプションプールは何%程度が適切か」
「役員と従業員への配分はどのように設計すべきか」
といったご相談をIPO準備企業から多くいただきます。
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。
2026年第14回目の事例は、梅乃宿酒造株式会社です。
この度の上場を心よりお祝い申し上げます。
会社概要
新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Iの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下の通りです。
| 社名 | 梅乃宿酒造株式会社 |
| コード | 559A |
| 業種 | 食料品 |
| 市場 | 東京証券取引所スタンダード市場 |
| 主幹事 | SMBC日興証券 |
| 承認日 | 2026年3月25日 |
| 公開日 | 2026年4月24日 |
| 事業内容 | 日本酒・梅酒をはじめとする酒類の製造および国内外での販売 |
| 会社設立年月日 | 1950年5月18日(創業1893年3月) |
| 監査法人 | 太陽有限責任監査法人 |
| 公開価格 | 600円 |
| 初値 | 900円 |
| 時価総額(公開) | 3,614百万円(約36.1億円) |
| 時価総額(初値) | 5,421百万円(約54.2億円) |
1950年5月の設立から約75年11か月での上場となっています。なお、前身の「吉田熊太郎商店」は1893年3月の創業で、130年以上の歴史を持つ老舗酒蔵のIPOです。
沿革からは2021年PEファンドである日本成長投資アライアンス株式会社が運営するファンドが資本参加してから5年でIPO実現しており、PEファンドの支援を受けながら成長した事例と考えられます。
ストックオプション導入状況
当社は上場申請時点において、残存するストックオプション(新株予約権)はありません。
ただし、過去に第1回新株予約権を1本発行しており、2023年12月18日に付与対象者である経営層によってその全株が行使されています。
上場申請時点では権利行使済みのため、有価証券届出書(Iの部)の新株予約権等の状況欄は「該当事項はありません」と記載されています。
本稿では、財務諸表注記(ストック・オプション等関係)に記載された行使済ストックオプションの内容を再構成して解説します。
なお、当社は2025年4月17日を効力発生日として1株につき20株の株式分割を実施しています。本稿の数値は特段の断りがない限り上場申請時点(分割後)の数値で統一しています。
潜在株比率(行使済ストックオプション比率)
上場申請時点で残存するストックオプションはなく、上場後の希薄化(ダイルーション)は発生しません。上場申請時点における残存SO比率は0%です。
行使済ストックオプションにより交付された株式数は分割後で903,640株です。現行の発行済株式総数(6,023,920株)に対する割合は15.0%となっておりました。
IPO準備企業では、希薄化後ベースで10%前後に設計される事例が比較的多く見られます。本事例の15.0%は付与対象者が経営層のみ2者に限定された有償ストックオプションであり、その全額がIPO前に行使済みという点で、通常のSO潜在株比率とは性質が異なりますが、平均よりは高水準の数値であったといえます。
なお、本稿では行使済SO株数÷現行発行済株式総数(希薄化後ベース相当)で算定しています。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
発行本数は第1回新株予約権の1本のみで、上場申請時点でその全株が行使済みです。
ストックオプション発行内容(行使済)
行使済ストックオプションの内容は財務諸表注記(ストック・オプション等関係)の記載に基づき、以下の通り再構成しています。
読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。
| 回号 | 第1回新株予約権 |
|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 有償ストックオプション |
| 決議年月日 | 2022年6月30日 |
| 付与対象者の区分及び人数 | 当社取締役の資産管理会社 1社 当社取締役 1名 |
| 新株予約権の数(個) | 45,182個(注) |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株) | 普通株式 903,640株(注) 〔全株行使済〕 |
| 新株予約権の行使時の払込金額(円) | 6,510円(分割後325.5円)(注) |
| 新株予約権の行使期間 | 2022年7月1日〜2032年6月30日 |
| 権利確定条件 | 新株予約権割当契約書に定めるところによる |
| 対象勤務期間 | 対象期間の定めはありません |
| 実際の行使日 | 2023年12月18日(全株行使) |
| 株価算定方法 | 独立した第三者機関によるDCF法(本源的価値評価) |
(注)2025年4月17日付株式分割(1:20)前の数値です。分割後の株式数は903,640株、行使価格は1株当たり325.5円です。
権利行使価額について
第1回新株予約権の権利行使価額は6,510円(2022年6月30日決議時点、株式分割前の金額)で、2025年4月の株式分割を反映すると325.5円となります。
有価証券届出書の関連当事者情報の記載によれば、新株予約権の発行価額および権利行使価額はいずれも独立した第三者機関の評価を参考に決定されており、DCF法による株価算定が行われたとされています。
権利行使条件について
権利行使条件は「新株予約権割当契約書に定めるところによる」とのみ記載されており、詳細な条件は公開情報では確認できません。また、対象勤務期間の定めはなく、権利確定後すぐに行使可能な設計となっています。
実際の行使日(2023年12月18日)は、権利行使期間の開始(2022年7月1日)から約1年5か月後であり、上場申請(2026年3月)の約2年3か月前に相当します。
上場前の早期段階で全株行使が行われた珍しいケースです。
付与対象者別付与状況
付与対象者の構成
開示資料から判明している付与内容を整理すると、以下の通りです。
付与対象者は取締役の資産管理会社1社および取締役1名の計2者のみであり、従業員への付与は行われていません。
| 付与者数 | 行使済株式数(分割後) | 発行済株式数に対する比率 | |
|---|---|---|---|
| 取締役の資産管理会社 | 1社 | 843,360株 | 14.0% |
| 取締役 | 1名 | 60,280株 | 1.0% |
| 合計 | 2者 | 903,640株 | 15.0% |
(注)財務諸表の関連当事者情報および「特別利害関係者等の株式等の移動状況」によれば、取締役の資産管理会社(グッドフィールド・ビーチサイド株式会社、代表取締役が議決権の100%を保有)の行使株式数は843,360株(取引金額274,513千円)、取締役1名の行使株式数は60,280株(取引金額19,621千円、いずれも2024年6月期)です。
従業員への付与状況
本事例では従業員へのストックオプション付与は行われておらず、付与対象者は経営層(取締役とその資産管理会社)のみに限定されています。
近年のIPO企業では、従業員の採用・リテンションを目的としてSOを活用するケースが一般的であり、本事例は人的資本へのインセンティブ付与よりも経営陣への成果報酬的な性格が強い設計であると考えられます。
一方で従業員に対するインセンティブは持株会を通じた設計を実施しています。
従業員持株会の上場申請時の持株比率が2.69%(上位5位株主)であること、ストックオプション付与対象外であった取締役・執行役員6名が0.18~1.33%の持株を保有していることからもこの考え方が裏付けられています。
当社のストックオプションの特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。
上場申請時点で残存SOゼロ:IPO前に全株行使済
付与対象は経営層のみ
(従業員向けには従業員持株会を活用)
有償ストックオプションによる発行
上場申請時点で残存SOゼロ:IPO前に全株行使済
最大の特徴は、上場申請時点においてストックオプションが一切残存していない点です。発行された第1回新株予約権は、上場申請(2026年3月)の約2年4か月前である2023年12月18日に全株が行使されています。
多くのIPO企業では上場申請時点にSOが残存しており、上場後の権利行使を見据えて設計されます。一方、本事例のようにIPO前に全株行使済みとなるケースは非常に珍しく、当シリーズの過去事例でも初めて登場するパターンです。
付与対象は経営層のみ
付与対象者は取締役の資産管理会社1社および取締役1名の計2者に限定されており、一般従業員への付与は行われていません。
IPO準備企業においては、従業員の定着やモチベーション向上を目的として広くSOを付与するケースが一般的です。本事例のように経営層のみへの限定付与は、SO制度を経営者へのインセンティブ付与(またはIPO前の持分最適化)として活用している点が特徴的です。
また、付与対象者の一者が「取締役の資産管理会社」という法人格であることも特徴的です。
資産管理会社を通じたSO受領は、経営者が個人で受領する場合と比較して、税務上の取り扱い(個人の所得税課税ではなく法人税優遇や損益通算の活用など)や、組織設計上の柔軟性が異なる場合があります。特にPEファンドが関与するM&Aやキャピタルゲイン対策を視野に入れた設計では、非常に高度な事前スキーム構築が求められるため、専門家への相談が特に重要なケースといえます。
従業員向けには従業員持株会
ストックオプションの付与は経営層に限定する一方で、従業員向けのインセンティブとしては従業員持株会を活用しています。
有償ストックオプションによる発行
権利行使済の新株予約権は有償ストックオプションと推定されます(執筆者推計)。
有償ストックオプションは、受益者がオプション取得時に対価(発行価額)を支払う構造です。税制適格ストックオプションの各種要件(行使価額・行使期間・権利者資格など)に縛られないため、設計の自由度が高いという特徴があります。また、株式報酬費用計上不要となるケースも多く、損益への影響を抑えつつインセンティブを付与できるメリットがあります。
一方、受益者がオプション取得時に対価を支払う必要があるため、無償ストックオプションと比べて付与対象者の初期負担が生じます。本事例のように経営層(役員・資産管理会社)への限定付与であることと整合する設計といえます。
以上のような特徴はPEファンド伴走型のIPOであることと関連していると考えられます。
PEファンドは1社で株式の多くを取得しスピード感を重視して経営する傾向があるといわれています。
当社においても日本成長投資アライアンス株式会社が運営するファンドが上場申請時点の筆頭株主(持株比率45.68%)となっています(なお、上場に伴う売出しにより、上場後の保有比率は低下しています)。
経営陣に対して集中的にストックオプションを付与し、インセンティブ効果の極大化を目指したのではないかと推定されます。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、その後の従業員モチベーションやIPO審査に直接影響します。
制度発行後の変更は容易ではないため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
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を実施しています。
≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
- 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
- 「税制適格SOと有償SOのどちらが適切か」
- 「退職者にも権利行使可能とするべきか」
など、初回相談で整理可能です。
制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次回第15回も、新たな事例を取り上げる予定です。お楽しみに。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプションとは→こちら
7 ストックオプション発行会社の会計・税務→こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)
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