ストックオプション発行会社の会計・税務処理完全ガイド|税制適格・非適格・有償SOの仕訳と実務対応【非上場・IPO準備企業向け】

「スタートアップのためのストックオプション入門シリーズ」第7回をご覧いただき、ありがとうございます。

本コラムでは、スタートアップやIPO準備企業におけるストックオプション制度について、実務の観点から解説しています。

第7回では、ストックオプション(SO)を発行した会社側の会計処理・仕訳・税務処理を解説します。

これまでのシリーズでは付与対象者(受益者)側の税務を中心に解説してきました。今回は視点を変えて、発行会社側の処理に絞って解説します。

「SOを発行した後、自社の帳簿でどう処理するのか」
「税務上どのような対応が必要となるか」

こういった疑問は、実務担当者から最も照会が多いテーマのひとつです。本記事では仕訳例を交えてこれらをできる限り体系的かつ具体的に解説します。

ストックオプションの基本から理解したい方は、第1回「ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由」もあわせてご覧ください。


目次
  1. 免責事項
  2. この記事でわかること
  3. ストックオプションの会計処理・税務処理の全体像|種別×タイミング別一覧表
  4. 株式報酬費用とは何か|上場・非上場企業の違いと本源的価値特例
    1. 株式報酬費用の基本的な考え方
    2. 上場企業における税制適格SOの費用計上
    3. 非上場企業では、本源的価値特例を採用すれば費用計上が不要になる場合がある
    4. 本源的価値の計算方法
  5. 1円ストックオプション(セーフハーバー)の株式報酬費用と会計処理
    1. セーフハーバー(特例方式)の概要
    2. 株式報酬費用が発生する理由
    3. ストックオプションの株式報酬費用の計上方法|費用計上期間・方法
  6. 税制適格ストックオプションの仕訳例|付与時・権利行使時・失効時の会計処理
    1. 付与時の会計処理
    2. 権利行使時の会計処理
    3. 失効時の会計処理
    4. 税制適格SOの税務処理と損金不算入の取扱い
  7. 税制非適格ストックオプションの会計処理・税務処理|損金算入と源泉徴収の実務
    1. 付与時の会計・税務処理
    2. 権利行使時の会計処理
    3. 権利行使時の税務処理|損金算入額の計算方法
    4. 失効時の会計・税務処理
  8. 有償ストックオプションの会計処理・仕訳・税務処理
    1. 有償SOの会計上の位置づけ
    2. 付与時の会計処理
    3. 権利行使時の会計処理
    4. 失効時の会計処理
    5. 有償SOの税務処理
  9. ストックオプション発行会社の税務署への調書提出義務|種類・期限・注意点
    1. 調書提出が必要な場面の全体像
    2. 税制適格SOの付与調書
    3. 税制非適格SOの源泉徴収票・支払調書
    4. 役員・従業員が株式売却した際の調書提出義務
    5. 調書管理の実務ポイント
  10. IPO準備時に注意すべきストックオプションの実務ポイント
  11. ストックオプションの会計・税務処理 よくある質問
    1. Q1 有償SOの付与時の払込金額は課税対象ですか?
    2. Q2 セーフハーバー(特例方式)を使って権利行使価額を決めれば、株式報酬費用の計上は不要ですか?
    3. Q3 税制適格SOの株式報酬費用は、法人税の計算上も損金算入できますか?
    4. Q4 税制非適格SOの権利行使時に、従業員が現金を受け取っていなくても源泉徴収は必要ですか?
    5. Q5 税制適格SOの付与調書を提出し忘れた場合、そのSOは税制適格性を失いますか?
  12. まとめ
  13. まずは専門家に相談してください
    1. Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
    2. 30分無料相談を実施しています
  14. スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

免責事項

本記事は一般的な解説を目的としており、個別事案への適用については必ず税理士・公認会計士にご相談ください。
税制は改正されることがあり、本記事の情報が最新でない場合があります。
特に税務処理については、会社の状況・資本構成・付与対象者の属性等により結論が異なる場合があります。
本記事の内容は情報提供を目的とするものであり、税務上の保証やアドバイスを提供するものではありません。


この記事でわかること

  • 税制適格・非適格・有償SOの会計処理(付与・行使・失効)は種別ごとに相違する
  • セーフハーバー(特例方式)利用時には株式報酬費用が発生する場合が多い
  • 税制適格SOの株式報酬費用は会計上は費用・税務上は損金不算入(永久差異)となる
  • 税制非適格SOの権利行使時に損金算入と源泉徴収義務が発生する
  • 発行会社が税務署に提出すべき各種調書の種類・期限・注意点
  • IPO審査で指摘される実務論点(調書提出義務・源泉徴収漏れ等)

ストックオプションの会計処理・税務処理の全体像|種別×タイミング別一覧表

発行会社がSOに関して処理を行う主なタイミングは、「付与時」「権利行使時」「失効時」の3時点です。売却時は原則として発行会社側に直接の処理は発生しません。

まず結論から申し上げると、SOの処理は「種別×タイミング」で整理すると理解しやすくなります。
以下の表で全体像を確認しておきましょう。

SO種別付与時会計権利行使時会計付与時税務権利行使時税務調書提出
税制適格SO条件による(※1)資本振替損金不算入損金不算入あり
税制非適格SO条件による(※2)資本振替原則なし
(行使時算入)
損金算入あり
有償SO払込金額処理資本振替原則なし原則なし条件による

※1 税制適格SOでも、セーフハーバー(特例方式)利用時など、会計上の公正価値が行使価額を上回る場合は株式報酬費用の計上が必要です。
※2 有利発行に該当する場合は株式報酬費用の計上が必要です。

会計処理と税務処理は全く別の論点

特に税制適格SOでは「会計上は費用計上が必要でも、税務上は損金不算入」という乖離が生じます。この点が実務上最も誤解されやすいポイントです。各章で詳しく解説します。


株式報酬費用とは何か|上場・非上場企業の違いと本源的価値特例

株式報酬費用の基本的な考え方

会社がSOを役員・従業員等に付与した場合、その経済的価値に相当する金額を株式報酬費用として計上することが求められます。
(企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」)

SOとは、あらかじめ決められた価格(権利行使価額)で自社株式を取得できる権利です。

税制適格SOは無償で付与するものですが、「無償=価値がない」ではありません。

将来の株価上昇を見込んだ経済的価値があるからこそ、インセンティブとして機能します。
この経済的価値を費用として認識するのが株式報酬費用の考え方です。

上場企業における税制適格SOの費用計上

上場企業の場合、SOの費用計上はブラック・ショールズ・モデル等による公正価値(本源的価値+時間的価値)で行います。
SOは株式を購入する権利ですので、通常は公正価値がプラスとなります。

そのため上場企業では、原則として株式報酬費用の計上が必要です。

非上場企業では、本源的価値特例を採用すれば費用計上が不要になる場合がある

非上場企業は株価データ等の入手が困難なケースが多いです。
そのためストックオプションの公正価値算定が難しいという実務上の課題があります。

そこで「本源的価値特例」(企業会計基準適用指針第11号における未公開企業の特例)が認められており、時間的価値を除いた本源的価値のみで費用計上額を算定することが実務上一般的です。

本源的価値特例を採用した場合、行使価額と株価(会計上の時価)が一致すれば本源的価値はゼロとなり、費用計上は不要です。

なお、本源的価値特例はあくまでも選択適用であり、公正価値による評価も可能です。
どちらを採用するかは監査法人との協議の上で決定してください。

また上記説明は日本の会計基準についての説明になります。

国際財務報告基準(IFRS)にはこのような特例は存在しない点に注意が必要です。

費用計上の基準税制適格SO(行使価額=株価)の場合
上場企業公正価値
(本源的価値+時間的価値)
時間的価値がプラス → 費用計上必要
非上場企業本源的価値のみ
(特例採用時)
本源的価値ゼロ
→ 費用計上不要

ただしこれは「非上場企業のSOは常に費用計上不要」という意味ではありません。

後述するセーフハーバー(特例方式)を利用した場合など、行使価額が会計上の公正価値を下回るケースでは、非上場企業でも費用計上が必要です。

本源的価値の計算方法

本源的価値(1株当たり)= 株価(会計上の公正価値)- 権利行使価額

株式報酬費用(総額)= 本源的価値 × 対象株式数(× ベスティング率)

「株価(会計上の公正価値)」はDCF法・類似会社比較法等による株価算定を実施して決定することが一般的です。

この株価と権利行使価額の差額が本源的価値となり、費用計上額の基礎になります。

本源的価値がゼロ(行使価額=公正価値)または負の場合は費用計上不要です。
プラスとなる場合のみ費用計上が必要です。

1円ストックオプション(セーフハーバー)の株式報酬費用と会計処理

2023年(令和5年)7月、国税庁は租税特別措置法関係通達(措通)29の2-1を創設し、税制適格SOの権利行使価額(税務上の時価)の算定方法を明確化しました。

これがいわゆるセーフハーバールール(特例方式)です。詳細は第4回のコラムで解説していますが、ここで改めて要点を整理します。

セーフハーバー(特例方式)の概要

取引相場のない株式(非上場株式)については、
財産評価基本通達に基づく純資産価額方式・配当還元方式等によって算定した価額以上の金額を権利行使価額とすれば、税制適格の要件(行使価額≧契約締結時の1株当たりの価額)を満たすものとして取り扱う
という行政上の取扱い指針です。

純資産価額が低いスタートアップ等においては権利行使価額を1円に設定するケースも見られます。(純資産価額方式・配当還元方式等の評価結果による)

株式報酬費用が発生する理由

【税務上の評価(セーフハーバー等)】
財産評価基本通達による算定 → 行使価額の設定基準(例:1円)

       ≠(一致しない)

【会計上の評価(公正価値)】
DCF法・オプション評価モデル等 → 株式報酬費用算定の基準(例:100円)

       ↓

差額(100円 - 1円)= 1株当たり本源的価値(×対象株式数 = 株式報酬費用総額)

セーフハーバー(特例方式)は税務上の行使価額の最低限度を確認するための算定方法と位置付けられています。
会計上の株価(公正価値)は、これとは別に一般的にはDCF法等によって算定されます。

スタートアップのDCF法等による公正価値は、財産評価基本通達による税務上の時価を大きく上回ることが一般的です。

そのため、セーフハーバー(特例方式)を利用してSOを発行した場合、通常は以下の関係が成立します。

会計上の公正価値(DCF等) > 権利行使価額(特例方式による税務上の時価)

この差額が本源的価値となり、株式報酬費用の計上が必要です。
この点は国税庁Q&Aにも明記されており、特例方式を用いた場合であっても、会計上算定した株価が権利行使価額を上回る場合には、その差額を株式報酬費用として処理します。

ストックオプションの株式報酬費用の計上方法|費用計上期間・方法

費用計上のタイミングは、権利確定条件(ベスティング条件)の有無によって異なります。ベスティング条件の詳細については第3回のコラムをご参照ください。

税制適格要件として権利行使期間の始期が付与決議の日後2年を経過した日からとされているため、実務上は監査法人と協議の上で、付与から権利行使可能となるまでの2年間にわたって費用を按分計上するケースもあります。

取扱いの詳細は個別判断となるため、監査法人との事前協議が不可欠です。


税制適格ストックオプションの仕訳例|付与時・権利行使時・失効時の会計処理

付与時の会計処理

税制適格SOの付与時会計処理は、本源的価値がゼロか否かで結論が分かれます。

本源的価値がゼロの場合(行使価額=会計上の公正価値)

一般的には仕訳は発生せず、費用計上も不要とされます。

ただし仕訳がないからといって、何もしなくてよいわけではありません。
新株予約権の発行にあたっては、株主総会決議等の会社法上の手続きが必要です。

本源的価値がプラスの場合(セーフハーバー利用等で行使価額 < 会計上の公正価値)

本源的価値がプラスになるため、株式報酬費用を計上します。
費用は権利行使条件の有無に応じて期間按分で計上するのは前章でご説明したとおりです。
取扱いの詳細は個別判断となるため、監査法人との事前協議が不可欠です。

【付与時(各期末仕訳)】

借:株式報酬費用  ○○円 / 貸:新株予約権  ○○円

※期間按分で計上

権利行使時の会計処理

役員・従業員等が権利を行使して株式を取得した場合、払込金額(行使価額×行使株数)と新株予約権の帳簿価額の合計を資本に振り替えます。

貸方の「新株予約権」勘定に残高が生じるのは、付与時に株式報酬費用を計上した場合(本源的価値がプラスの場合)に限られます。
本源的価値がゼロで費用計上していないケースでは新株予約権勘定の残高はゼロのため、権利行使時の仕訳は払込金額のみを資本に計上する形です。

【権利行使時(株式報酬費用を計上していた場合)】

借:現金預金   (行使価額×行使株数)
借:新株予約権  (帳簿価額)
    / 貸:資本金    ○○円
    / 貸:資本準備金  ○○円

【権利行使時(株式報酬費用を計上していない場合=本源的価値ゼロ)】

借:現金預金(行使価額×行使株数)
      / 貸:資本金    ○○円
      / 貸:資本準備金  ○○円

※資本金・資本準備金への按分は会社法第445条に従い決定します。
※自己株式を交付する場合は、貸方が「自己株式」「その他資本剰余金」等になります。

失効時の会計処理

権利が行使されずに失効した場合、計上していた新株予約権残高を「新株予約権戻入益」として取り崩します。
付与時の本源的価値が0の場合には新株予約権勘定残高は0ですので、仕訳は発生しません。

【失効時】

借:新株予約権 ○○円 / 貸:新株予約権戻入益 ○○円

税制適格SOの税務処理と損金不算入の取扱い

税制適格ストックオプションでは、発行会社側に税務上の損金算入は認められていません。

その理由は、税制適格SOが付与対象者の課税を繰り延べる優遇措置であり、発行会社側での損金算入を認めない仕組みとなっているためです。
付与時・権利行使時ともに発行会社への課税がないことが特徴ですが、その裏返しとして損金算入も不可となっています。

税制適格SOの税務処理

  • 付与時:税務上の処理なし(会計上の費用は全額損金不算入)
  • 権利行使時:税務上の処理なし、株式報酬費用は損金不算入
  • 失効時:新株予約権戻入益は益金不算入(付与時の株式報酬費用が損金不算入であることと対応)

会計処理と税務処理の間には株式報酬費用損金不算入という重要な乖離が生じます。

株式報酬費用は会計上の費用だが税務上は損金不算入|永久差異の取扱い

セーフハーバー利用等により株式報酬費用を会計上で費用計上している場合でも、税制適格SOに係る株式報酬費用は、法人税法第54条の2第2項の規定により、税務上は損金の額に算入されません。

この乖離は一般的には永久差異として整理され、繰延税金資産(将来の税金を減らす効果を持つ資産)は計上されません。


税制非適格ストックオプションの会計処理・税務処理|損金算入と源泉徴収の実務

付与時の会計・税務処理

税制非適格SOについては、まず有利発行に該当するか否かを判定します。

  • 有利発行に該当しない(行使価額≧会計上の公正価値)場合:費用計上不要・仕訳なし
  • 有利発行に該当(行使価額<会計上の公正価値)の場合:本源的価値に基づき株式報酬費用を計上

【付与時(有利発行に該当する場合)】

借:株式報酬費用 ○○円 / 貸:新株予約権 ○○円

税制非適格SOの株式報酬費用は損金算入が可能(役務対価性が前提)ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 損金算入が可能となるのは権利行使時であり、付与時には損金不算入となります。
  • 損金算入金額は付与時の金額とは一致しないのが一般的

つまり、損金計上の時期と金額は、会計と税務で一致しないということです。

権利行使時の会計処理

会計上の仕訳について基本的な考え方は税制適格SOと同様です。

【権利行使時(株式報酬費用を計上していた場合)】

借:現金預金   (行使価額×行使株数)
借:新株予約権  (帳簿価額)
    / 貸:資本金    ○○円
    / 貸:資本準備金  ○○円

会計処理は同じであっても、税務処理は税制適格SOと根本的に異なります。以下で詳しく確認してください。

権利行使時の税務処理|損金算入額の計算方法

税制非適格SOでは、権利行使時に発行会社側で損金算入が認められます。
ただし損金算入には役務対価性が前提です。

また、役員に対する付与の場合には、事前確定届出給与該当性の検討が必要です。
事前確定届出給与として届け出ていない場合、損金算入が認められないリスクがありますので、付与設計の段階から税理士との確認が必要です。

税制非適格SOを役員・従業員等に付与している場合、権利行使時に付与対象者には給与所得として課税されます(行使価額と時価の差額が給与所得)。
これと表裏の関係として、発行会社側では付与時に計上した株式報酬費用を損金算入することが認められます。

権利行使時の公正価値(時価)の決め方

非上場企業の場合、権利行使時点における公正価値を確定することが必要です。
DCF算定価額等を用いることが実務上多くなっていますが、どの価額を採用するかについては、第三者による算定報告書等で根拠を明確にしておく必要があります。
算定根拠の記録・保存は税務調査対応上も重要となります。

損金算入の時期は権利行使日の属する事業年度です。

税制非適格SO行使時の源泉徴収義務|IPO審査での指摘事項に注意

税制非適格SOの権利行使時には、発行会社に源泉徴収義務が発生します。

権利行使日に「(時価 ― 行使価額)× 行使株数」に対して所得税の源泉徴収を行う必要があります(一般的な取扱いです)。

住民税は源泉徴収の対象外であり、翌年の特別徴収にて対応します。

株式取得時点では現金収入が発生しないにもかかわらず多額の源泉徴収が必要となるケースもあり(いわゆる「ドライクロージング」問題)、対象者への事前説明と対応策の検討が重要です。

源泉徴収漏れはIPO審査において重大な指摘事項となる場合もあります。過去のSO処理についても必ず確認してください。

ドライクロージングへの対応

会社側は、あらかじめ権利行使時に給与から天引きする、あるいは本人から納税資金を預かるなどの運用ルールを定めておくことが肝要です。
実務上は、制度設計の段階からこの資金繰りリスクを考慮しておくことが重要です。

失効時の会計・税務処理

失効時には計上していた新株予約権残高を「新株予約権戻入益」として取り崩します。

新株予約権戻入益は益金不算入として取り扱うのが整合的です。(付与時の株式報酬費用が損金不算入であることと対応)。

【失効時】

借:新株予約権 ○○円 / 貸:新株予約権戻入益 ○○円


有償ストックオプションの会計処理・仕訳・税務処理

有償SOの会計上の位置づけ

有償SOは付与対象者が適正な対価を払い込んで取得するSOであるため、有利発行には該当しません。

この取扱いは実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(2018年)により明確化されています。

ただし、払込価額が公正価値を下回る場合は、その差額について費用認識が必要となる点に留意が必要です。払込額が著しく低額である場合や、実質的に有利発行と判断される場合は費用計上が必要となるリスクがあります。有償SOの詳細は第5回のコラムをご覧ください。

付与時の会計処理

【付与時(払込受入時)】

借:現金預金(払込額) / 貸:新株予約権 ○○円

権利行使時の会計処理

【権利行使時(新株発行の場合)】

借:現金預金   (行使価額×行使株数)
借:新株予約権  (帳簿価額)
    / 貸:資本金    ○○円
    / 貸:資本準備金  ○○円

失効時の会計処理

【失効時】

借:新株予約権 ○○円 / 貸:新株予約権戻入益 ○○円

有償SOの税務処理

  • 付与時:払込金額は新株予約権として資本に計上(益金算入なし)
  • 権利行使時:原則として損金算入なし。有償で適正な対価を収受しているため、税制非適格SOのような給与所得課税が生じず、損金算入も認められません。
  • 失効時:新株予約権戻入益は益金算入

ストックオプション発行会社の税務署への調書提出義務|種類・期限・注意点

SOの発行・権利行使に際しては、会計・税務処理に加えて、税務署への各種調書の提出義務が発生します。提出漏れはSO税制の適格性に影響したり、IPO審査での重大な指摘事項になることがあります。制度導入時から漏れなく管理する体制を整えることが重要です。

調書提出が必要な場面の全体像

調書の種類提出タイミング対象SO種別
特定新株予約権等の付与に関する調書付与した年の翌年1月31日まで税制適格SO
新株予約権の行使に関する調書権利行使翌年の1月31日まで税制非適格SO
給与所得の源泉徴収票同上税制非適格SO(役員・従業員)
報酬・料金等の支払調書同上税制非適格SO(社外役員等)
非上場株式等の譲渡に関する調書譲渡翌年の1月31日まで全種別(条件あり)

税制適格SOの付与調書

税制適格SOを付与した場合、発行会社は「特定新株予約権等の付与に関する調書」を税務署に提出しなければなりません。

  • 提出先:発行会社の所轄税務署
  • 提出期限:SOを付与した年の翌年1月31日
  • 記載内容:付与対象者の氏名・住所、付与数量、権利行使価額、付与日、行使期間等

税制非適格SOの源泉徴収票・支払調書

税制非適格SOの権利行使時には、給与所得として課税されることから、以下の書類の提出が必要です。

  • 役員・従業員への付与:「新株予約権の行使に関する調書」、権利行使による経済的利益を給与として含む「給与所得の源泉徴収票」を発行・提出
  • 社外の業務委託先(顧問・アドバイザー等、事業所得・雑所得扱いの場合): 「新株予約権の行使に関する調書」、「報酬・料金等の支払調書」を提出
    ※社外取締役は役員であり、通常は給与所得として源泉徴収票の対象となります。
  • 提出期限:権利行使があった年の翌年1月31日
  • 提出先:発行会社の所轄税務署(及び市区町村)

役員・従業員が株式売却した際の調書提出義務

付与対象者が株式を売却した場合、一定条件のもとで発行会社や証券会社に報告義務が発生することがあります。

非上場株式の売却については取引実態に応じた対応が必要です。詳細は専門家にご確認ください。

調書管理の実務ポイント

  • SO付与・権利行使のたびに、調書提出スケジュールを管理簿に記載し確認する体制を構築しましょう
  • IPO準備時には過去の調書提出漏れがないか遡って確認することが必要です(ショートレビューでの主要チェック項目です)
  • 提出漏れが発覚した場合は速やかに所轄税務署に相談し、期限後申告・修正申告等の対応を検討してください

IPO準備時に注意すべきストックオプションの実務ポイント

IPO審査においてSO関連は必ずと言っていいほど確認される項目です。「問題が起きてから対処する」ではなく、早期から整備を進めることが審査をスムーズに進める上で不可欠です。

  • 過去のSO発行時の処理の洗い出し:創業初期から現在までに発行したすべてのSOについて、会計処理・税務処理が適切に行われているかを確認します。ショートレビューや会計監査の早期開始が有効です。
  • セーフハーバー利用時の株式報酬費用計上漏れ:1円SOをはじめとするセーフハーバー利用のSOについて、会計上の公正価値(DCF等)と比較した株式報酬費用が正しく計上されているか確認してください。計上漏れは監査で指摘されます。
  • 源泉徴収漏れの確認:税制非適格SOの権利行使が発生している場合、源泉徴収の実施及び納付の有無を確認します。未納がある場合は早急に対応が必要です。
  • 調書提出漏れの確認:税制適格SO付与調書・源泉徴収票・支払調書等、年度ごとに提出すべき調書が漏れなく提出されているか確認します。
  • 株価算定根拠のエビデンス保存:費用計上額・損金算入額・行使価額の根拠となった株価算定報告書・計算根拠資料を整備・保存してください。税務調査においても重要な証拠資料です。
  • 監査法人・主幹事証券への早期相談:SOの会計処理方針(特に費用計上方法)は監査法人との合意が必要です。IPO申請の2〜3年前には相談を開始することをお勧めします。

ストックオプションの会計・税務処理 よくある質問

Q1 有償SOの付与時の払込金額は課税対象ですか?

A1 いいえ。

有償SOの払込金額は資本取引として処理されるため、発行会社の収益には計上されません。払込を受けた金額は貸方「新株予約権」として計上され、益金算入の対象外です。

Q2 セーフハーバー(特例方式)を使って権利行使価額を決めれば、株式報酬費用の計上は不要ですか?

A2 いいえ。

会計上の公正価値はDCF法等によって別途算定する必要があります。スタートアップでは会計上の公正価値が特例方式による行使価額を大きく上回ることが一般的なため、その差額が本源的価値となり株式報酬費用の計上が必要です。

Q3 税制適格SOの株式報酬費用は、法人税の計算上も損金算入できますか?

A3 いいえ。

税制適格SOに係る株式報酬費用は、会計上は費用計上されますが、税務上は損金不算入です。
この乖離は永久差異として処理するため、繰延税金資産も計上しません。法人税申告書(別表四)での加算調整が必要です。「会計上費用に計上したから税務上も損金になる」と思い込むと申告誤りにつながります。
詳細につきましては税理士にご相談ください。

Q4 税制非適格SOの権利行使時に、従業員が現金を受け取っていなくても源泉徴収は必要ですか?

A4 はい。

税制非適格SOの権利行使時は、株式という現物を取得した時点で給与所得として課税されます。
対象者には事前に納税資金の準備を促すか、給与天引き等の実務フローを構築しておく必要があります。

Q5 税制適格SOの付与調書を提出し忘れた場合、そのSOは税制適格性を失いますか?

A5 適格性を否認されるリスクがあります。

税制適格SO付与調書(特定新株予約権等の付与に関する調書)の提出は税制適格SOの要件確認上重要な手続きです。
提出漏れが発覚した場合は、速やかに所轄税務署に相談し、期限後提出の対応をとることが必要です。
提出漏れ自体が直ちに適格性喪失を意味するものではありませんが、実務上は税務当局との折衝が必要となる重大な論点です。IPO準備段階では過去分の提出漏れも含めて確認することが不可欠です。


まとめ

本記事では、非上場・IPO準備企業向けに、税制適格・非適格・有償SOの発行会社側の会計・税務処理について解説しました。

SO種別付与時費用会計費用の税務上の取扱い行使時損金算入源泉徴収主な調書
税制適格(行使価額=公正価値)不要なし税制適格SO付与調書
税制適格(セーフハーバー利用)必要永久差異・損金不算入不算入なし税制適格SO付与調書
税制非適格必要(有利発行時)差額は永久差異算入可(時価-行使価額)あり源泉徴収票等
有償SO原則不要原則不算入なし条件による

特に多い誤りは次の2点です。

・セーフハーバー(特例方式)利用時の税制適格SOにおける株式報酬費用の計上漏れ

・税制非適格SOの権利行使時における源泉徴収漏れ

いずれも、早期発見・早期対応がIPO審査におけるリスク回避に繋がります。SOの会計・税務処理は種別や設計内容によって結論が大きく異なるため、早期に専門家と連携し正確な処理体制を構築することをお勧めします。

次回(第8回)では、ストックオプションの設計実務――行使価額・行使期間・ベスティング条件の設計ポイントについて解説予定です。


まずは専門家に相談してください

ここまでお読みいただき、次のような不安や疑問を感じられた方も多いのではないでしょうか。

・1円ストックオプション(セーフハーバー)を設計したいが株式報酬費用の取扱いがわからない
・セーフハーバー利用時の株式報酬費用を最小化したい
・IPO審査に耐えるSO設計・会計処理の整備を行いたい

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・圧倒的な算定実績:累計1000件超、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。IPO準備企業特有の複雑な資本政策にも精通したエキスパートが直接対応します。

・上場審査を見据えた品質:2014年以降、累計30件超の新規IPOに関与。監査法人レビューにも多数対応しており、算定を実施した案件について責任をもって最後まで対応します。

・最新税制への完全対応:ストックオプションのセーフハーバールールなど、最新の税制改正を踏まえた最適なアドバイスが可能です。

Gemstone石割公認会計士事務所ではストックオプション発行のための株価算定サービスを実施しております。

30分無料相談を実施しています

ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

セーフハーバー利用時の株式報酬費用の考え方・最小化の検討

行使価額設定のための株価算定

有償ストックオプション評価額(公正価値)の考え方・実務上の留意点

IPO審査を見据えた過去SO処理の整備・遡及対応

『まだ具体的なスケジュールが決まっていない』『概算費用だけ知りたい』という段階でのご相談も歓迎です。


スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格SO・信託型SO →こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務 →今回です

8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)

9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)

10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。