新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第16回をご覧いただきありがとうございます。
IPO準備企業では
・ストックオプションは何回発行すべきか
・有償SOは毎年発行してよいのか
・IPOだけでなくM&Aにも対応できる権利行使条件はどう設計するのか
といった疑問が多くあります。
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
第16回の事例は、LiNKX株式会社です。
この度の上場を心よりお祝い申し上げます。
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。
会社概要
新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Iの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下の通りです。
| 社名 | LiNKX株式会社 |
| コード | 584A |
| 業種 | 情報・通信業 |
| 市場 | 東京証券取引所グロース市場 |
| 主幹事 | 野村證券 |
| 承認日 | 2026年5月21日 |
| 公開日 | 2026年6月23日 |
| 事業内容 | 金融分野を中心とした基幹システム等のモダナイゼーション事業 |
| 会社設立年月日 | 2020年7月15日 |
| 監査法人 | ESネクスト有限責任監査法人 |
| 公開価格 | 790円 |
| 初値 | 1,075円 |
| 時価総額(公開) | 5,362百万円 |
| 時価総額(初値) | 7,296百万円 |
LiNKX株式会社は、製造業向け設計開発ソリューションを提供するプログレス・テクノロジーズ株式会社の新規事業として2019年にスタートしました。その後、金融分野を中心とした基幹システムのモダナイゼーション事業へと軸足を移し、2020年7月に同社からスピンアウトする形で独立しました。
2020年7月設立(前身事業は2019年に開始)から約5年11か月というスピードでの上場となっています。
ストックオプション導入状況
当社は新株予約権を第1回から第6回まで全6本発行しており、いずれも上場申請時点において残存しています。
以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベースで7.65%です。
IPO準備企業では、希薄化後ベースで10%前後に設計される事例が比較的多く見られます。本事例の7.65%は、一般的なIPO準備企業と比較するとやや低めの水準です。
なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
発行本数は全6本であり、上場申請時点でいずれも残存しています。ただし、第4回は当初発行数2,375個のうち60個(6,000株)が、第5回は当初発行数2,210個のうち2,165個(216,500株)が退職等により消滅(失効)しており、上場申請時の残存数は第4回2,315個(231,500株)、第5回45個(4,500株)となっています。
第1回〜第5回は有償ストックオプションと推定されます(以下「有償SO」。公開資料を踏まえた執筆者推計)。第6回は有価証券届出書の記載に基づき、税制非適格ストックオプションとして設計されたものと考えられます。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。
読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。
| 回号 | 第1回新株予約権 | 第2回新株予約権 | 第3回新株予約権 |
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 有償ストックオプション | 有償ストックオプション | 有償ストックオプション |
| 決議年月日 | 2020年12月11日 | 2021年12月13日 | 2022年12月12日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社従業員 26名 | 当社従業員 30名 | 当社従業員 32名 |
| 新株予約権の数(個)〔 〕上場申請時 | 165個〔165個〕 | 350個〔350個〕 | 560個〔560個〕 |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株)〔 〕上場申請時 | 普通株式 16,500株〔16,500株〕 | 普通株式 35,000株〔35,000株〕 | 普通株式 56,000株〔56,000株〕 |
| 新株予約権の行使時の払込金額(円)〔 〕上場申請時 | 19,465円/個〔195円/株〕 | 20,000円/個〔200円/株〕 | 20,000円/個〔200円/株〕 |
| 新株予約権の行使期間〔 〕上場申請時 | 2020年12月19日〜2030年12月18日 | 2021年12月18日〜2031年12月17日 | 2022年12月17日〜2032年12月16日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)〔 〕上場申請時 | 発行価格 19,815円/個〔198.50円/株〕 資本組入額 9,908円/個〔99.25円/株〕 | 発行価格 20,320円/個〔203.20円/株〕 資本組入額 10,160円/個〔101.60円/株〕 | 発行価格 20,335円/個〔203.35円/株〕 資本組入額 10,168円/個〔101.68円/株〕 |
| 有償SOオプション料(円) | 350円 | 320円 | 335円 |
| 新株予約権の行使の条件 | |||
| ①継続勤務条件 | 条件付き | 条件付き | 条件付き |
| ②上場条件 | あり(条件付き) | あり(条件付き) | あり(条件付き) |
| ③相続人行使条件 | 不可 | 不可 | 不可 |
| ④株価条件 | あり | あり | あり |
| ⑤その他 | 筆頭株主株式売却時 | 筆頭株主株式売却時 | 筆頭株主株式売却時 |
| 回号 | 第4回新株予約権 | 第5回新株予約権 | 第6回新株予約権 |
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 有償ストックオプション | 有償ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2023年12月4日 | 2024年11月29日 | 2026年4月23日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社取締役 1名 当社監査役 1名 当社従業員 21名(計23名) | 当社従業員 40名 | 当社従業員 28名 |
| 新株予約権の数(個)〔 〕上場申請時 | 2,375個〔2,315個〕 | 2,210個〔45個〕 | 2,030個〔2,030個〕 |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株)〔 〕上場申請時 | 普通株式 237,500株〔231,500株〕 | 普通株式 221,000株〔4,500株〕 | 普通株式 203,000株〔203,000株〕 |
| 新株予約権の行使時の払込金額(円)〔 〕上場申請時 | 65,000円/個〔650円/株〕 | 92,000円/個〔920円/株〕 | 公開価格 |
| 新株予約権の行使期間〔 〕上場申請時 | 2023年12月9日〜2033年12月8日 | 2024年12月7日〜2034年12月6日 | 公開日から付与決議日より10年を経過する日まで |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)〔 〕上場申請時 | 発行価格 66,090円/個〔660.90円/株〕 資本組入額 33,045円/個〔330.45円/株〕 | 発行価格 93,750円/個〔937.50円/株〕 資本組入額 46,875円/個〔468.75円/株〕 | 発行価格:公開価格 資本組入額:会社計算規則第17条第1項による |
| 有償SOオプション料(円) | 1,090円 | 1,750円 | 該当なし |
| 新株予約権の行使の条件 | |||
| ①継続勤務条件 | 条件付き | 条件付き | 条件付き |
| ②上場条件 | あり(条件付き) | あり(条件付き) | あり(条件付き) |
| ③相続人行使条件 | 不可 | 不可 | 不可 |
| ④株価条件 | あり | あり | あり |
| ⑤その他 | 筆頭株主株式売却時 | 筆頭株主株式売却時 | 筆頭株主株式売却時 |
※第6回の行使期間は、公開日(2026年6月23日)から、付与決議日(2026年4月23日)の10年後(2036年4月22日)までとなります。
権利行使価額について
各回の権利行使価額(株式分割等遡及後)と算定根拠は以下の通りです。
| 回号 | 権利行使価額(株式分割等遡及後) | 算定根拠 |
| 第1回 | 195円/株 | DCF法による算定価格を基礎に、直近資金調達価格等を総合的に勘案(推定) |
| 第2回 | 200円/株 | DCF法による算定価格を基礎に、直近資金調達価格等を総合的に勘案(推定) |
| 第3回 | 200円/株 | DCF法による算定価格を基礎に、直近資金調達価格等を総合的に勘案(推定) |
| 第4回 | 650円/株 | DCF法による算定価格を総合的に勘案(有価証券届出書記載) |
| 第5回 | 920円/株 | DCF法による算定価格を総合的に勘案(有価証券届出書記載) |
| 第6回 | 公開価格(790円) | 後決め型(公開価格を権利行使価額とする設計) |
いずれも決議時点の価額です。
有価証券届出書には、第4回・第5回の権利行使価額について「DCF法による算出した価格を総合的に勘案して、決定しております」(有価証券届出書記載の原文ママ)との記載があります。
第1回〜第3回については届出書上に算定根拠の明示的な記載はありませんが、同様の方法により決定されたものと推定されます。
第6回は公開価格を権利行使価額とする、いわゆる後決め型の設計となっています。
また第4回・第5回の行使価額は直近の第三者割当増資(普通株式)発行価格とも一致しております。有償ストックオプションの権利行使価額は、付与時点の株式の公正価値を適切に反映するよう設定する必要があります。外部からの直近ファイナンスが実施されている場合には、その発行価格が時価の客観的な根拠となり得るため、第4回・第5回ではDCF法に加えてその増資価格も参照されたものと考えられます。
権利行使条件について
継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件
全回号で統一された条件となっています。
継続勤務条件:条件付き
上場条件:あり(条件付き:後述)
相続人行使条件:不可
株価条件
第1回~第5回に株価条件が設けられています。
読みやすいよう、但し書き等を一部省略して記載します。
新株予約権の割当日から行使期間の満了日までに次のいずれかの事由が生じた場合は、残存する全ての新株予約権の行使をすることができない。
a.92,000円を下回る価格を対価とする普通株式の発行が行われたとき。
b.92,000円を下回る価格を行使価額とする新株予約権の発行が行われたとき。
c.本新株予約権の目的である普通株式が日本国内のいずれかの金融商品取引所にも上場されていない場合であって、92,000円を下回る価格を対価とする売買その他の取引が行われたとき。
d.本新株予約権の目的である普通株式が日本国内のいずれかの金融商品取引所に上場された場合であって、上場日以降、当該金融商品取引所における普通株式の普通取引の終値が92,000円を下回る価格となったとき。
※引用中の「92,000円」は新株予約権1個(普通株式100株)当たりの金額であり、1株当たりに換算すると920円となります。これは第5回の権利行使価額(920円/株)と一致します。なお、本条件は第5回のものを例示しており、他の回号では対応する権利行使価額が異なります。
株価条件は、有償SOのオプション料(プレミアム)を引き下げる効果があると推定されます。オプション料はブラック・ショールズモデル、モンテカルロシミュレーション等を用いて算定しますが、「株価が一定水準を下回った場合は行使不可」という条件を設けると、オプションが行使される可能性のある株価の範囲が狭まり、理論上の価値(プレミアム)が低下します。その結果、付与対象者がSOを取得する際に支払うオプション料を適正に抑えることができます。
その他の条件
具体的に権利行使条件を確認します。
4.本新株予約権の行使の条件は次のとおりであります。
(1)以下の①から③のいずれかの条件を満たすこと。
①普通株式が日本国内のいずれかの金融商品取引所に上場されていること。
②筆頭株主がその保有する普通株式の全部又は一部を第三者に対して売却すること。(上場されることに伴い売却されることを除く。)
③合併その他の組織再編により筆頭株主がその保有する普通株式の全部又は一部と引き換えに他の財産等の交付を受けること。
①②③のいずれかで行使が可能となっております。
①は通常の上場条件です。
②は筆頭株主の株式売却、③は合併その他の組織再編によって、筆頭株主が保有株式と引き換えに他の財産等の交付を受ける場面を想定しており、いずれもM&Aを念頭に置いた条件と解されます。
すなわち上場もしくはM&Aのいずれかが発生した場合に行使可能とする条件設定になっています。
IPOとM&Aの双方をEXITとして想定するスタートアップにとって、非常に参考となる設計事例です。
付与対象者別付与状況
階層別の付与数状況
開示資料から付与内容の判明している対象者について整理すると、以下の通りです。
| 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 | 1人当たり潜在株数 | 1人当たり潜在株式比率 | |
| 代表取締役 | 2 | 68,000 | 0.95% | 34,000 | 0.48% |
| 取締役 | 2 | 6,000 | 0.08% | 3,000 | 0.04% |
| 従業員 | 55 | 469,500 | 6.57% | 8,536 | 0.12% |
代表取締役1人当たり平均0.48%、取締役1人当たり平均0.04%、従業員平均0.12%となっています。代表取締役グループへ厚く配分しつつ、従業員にも広くインセンティブを付与する設計といえます。
取締役2名への付与数が従業員平均を下回っていますが、取締役2名はいずれも社外取締役であることが要因と推定されます。
なお、第4回において監査役1名への付与が確認されていますが、上場申請時点の新株予約権の残存状況をみると同監査役分は残存していないため、退職等により消却されたものと推定されます。
付与のばらつき状況
ばらつき状況については、従業員のうちその他に含まれる15名への配分状況が不明のために推計不能です。
在職者に対する付与割合
「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」は、IPO準備企業から非常によくいただくご質問です。
在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。
| 人数(SO保有) | 総数(在職者) | 比率 | |
| 代表取締役 | 2 | 2 | 100.00% |
| 取締役 | 2 | 3 | 66.67% |
| 従業員 | 55 | 109 | 50.46% |
※従業員の在職者数109名は2026年4月30日現在の数値(有価証券届出書記載)に基づきます。代表取締役・取締役の在職者数は役員名簿(有価証券届出書記載)に基づきます。
代表取締役は2名中2名(100%)、取締役は3名中2名(66.67%)がSO保有となっています。なお、筆頭株主かつ取締役である小西祐一氏はSO未保有であるなど、すでに多くの株式を保有する大株主へのSO付与は行わず、インセンティブとしてのSOの効果が見込める対象者に絞って付与する設計となっています。
従業員50.46%という水準は、全従業員の約半数にインセンティブを付与するもので、本シリーズで取り上げた他のIPO事例と比較しても比較的高い水準です。
全従業員への付与は義務ではありませんが、採用競争力の強化や人材定着を重視する企業では、このように広範な付与を選択するケースも見られます。
LiNKXのストックオプションの特徴
LiNKX株式会社のストックオプションの特徴は以下の通りです。
有償ストックオプションを毎年1回発行
M&Aを意識した権利行使条件(筆頭株主の株式売却)
公開価格を権利行使価額とする後決め型のストックオプション(第6回)
有償ストックオプションを毎年1回発行
当社は設立初年度(2020年12月)から2024年11月まで、5年連続で毎年1回ずつ有償ストックオプション(第1回〜第5回)を発行しています。付与対象者は全て従業員(及び一部の取締役・監査役)であり、インセンティブ付与を継続的・定期的に実施する姿勢がうかがえます。
有償ストックオプションとは、付与対象者がオプション料(プレミアム)を支払って取得するタイプのストックオプションです。
無償のストックオプション(税制非適格)と異なり、有償SOは付与対象者がオプション料(公正価値相当額)を支払って取得するため、適切な評価(ブラック・ショールズ式等による公正価値算定)が行われている限り、給与所得課税が生じないという特徴があります。
毎年発行することにより、以下の効果が期待されます。
・新入社員へ毎年付与できる
・評価制度と連動できる
・SOプールを柔軟に運用できる
・企業価値上昇を反映できる
実際に当社の権利行使価額は、第1〜3回の195〜200円から第4回の650円、第5回の920円へと大幅に上昇しており、業績成長に伴う企業価値の上昇を反映した設計となっています。
加えてM&A発生も想定し、M&A時の対応力が強い点も有償ストックオプション採用の一因になったと想定されます。
毎年発行することのデメリットとして、都度の株価算定コストや事務負担が発生する点も念頭に置く必要があります。本事例のように採用・定着を重視する成長フェーズの企業にとっては、継続的な発行のメリットがコストを上回ると判断されたケースといえるでしょう。
本事例は、設計上の一貫性・採用競争力・M&A対応力を重視し、有償SOの毎年発行が合理的に機能した事例といえます。自社でも同様の設計が適切かどうかは、フェーズ・規模・EXIT戦略によって異なるため、専門家との事前検討をおすすめします。
有償ストックオプションについて詳しく知りたい方は、スタートアップのためのストックオプション入門シリーズコラム第5回「有償ストックオプション」をご参照願います。
M&Aを意識した権利行使条件(筆頭株主の株式売却)
当社発行の全ストックオプションには、通常の継続勤務条件・上場条件・株価条件に加えて、「筆頭株主が株式を売却した場合」にも権利行使が可能となる条件が設けられています。
上場申請時点の筆頭株主である小西祐一氏は発行済株式総数の約74.5%を保有しており、同社の実質的な支配株主です。
この条件は、IPOに限らず、M&Aや経営権の移転(例:スポンサーによる株式取得等)によって筆頭株主が持株を売却した場合にも、ストックオプション保有者が権利行使できるよう設計されているものと解されます。
スタートアップにおいては、必ずしもIPOが唯一の出口(エグジット)戦略ではなく、M&Aによる売却もリアルな選択肢となります。
IPOだけを権利行使の前提にした場合、M&Aで会社が売却されてもストックオプション保有者が利益を得られないケースが生じます。
この条件を設けることで、従業員はIPOの成否にかかわらず、経営権の移転という出口イベントにおいてもインセンティブを得られる仕組みが担保されています。
このように、IPOに加えてM&Aを意識した権利行使条件を設けることは、従業員のモチベーション維持の観点からも、また会社の出口戦略の柔軟性を確保する観点からも、実務上重要な設計ポイントといえます。
公開価格を権利行使価額とする後決め型のストックオプション(第6回)
第6回ストックオプション(2026年4月23日決議)は税制非適格ストックオプションであり、権利行使価額が「公開価格」と設定されています。
上場承認直前の2026年4月に決議されており、公開価格(790円)が確定した後に権利行使価額が決まる「後決め型」の構造となっています。
この設計の場合、ストックオプション保有者は公開価格での株式取得権利を得ることになります。本事例では公開価格790円に対して初値が1,075円(騰落率+36.1%)となったため、上場初日時点で潜在的な含み益が生じています。
ただし、行使期間は「公開日から付与決議日より10年を経過する日まで」と設定されており、その他の行使条件もあることから、上場直後の即時行使は想定されていない点に留意が必要です。
執筆者の知る限りでは、現時点では非常に珍しい設計であり、株式報酬費用の計上要否や公正価値の算定方法など、なお検討すべき論点が残っています。
(以下は会計実務に関する専門的な論点です。)
本新株予約権の付与決議(2026年4月23日)は上場承認前であるため、会計基準上、未公開企業に認められる「本源的価値特例」の適用対象となる可能性があります。
もっとも、実務上は「特例が適用された場合でも、付与時点の時価を(まだ確定していない未来の)公開価格とみなすことが可能か」という点で議論が生じる余地はあります。仮に、行使価額となる公開価格(790円)を付与時の時価とみなすことができれば、付与時点での費用計上(本源的価値)はゼロと処理できる余地があります。
しかし、本源的価値特例を採用した場合、上場日以降は「株価変動に伴う本源的価値の変動額」を認識し、費用計上していく必要があります。
最初から「公正価値評価」を用いて費用総額を固定するアプローチを採るのか、あるいは「本源的価値特例」を用いて上場後の株価連動リスクを受け入れるのか。CFOや上場準備担当者にとっては、実務上の判断基準や今後の開示(短信や有価証券報告書)における具体的な会計処理が非常に注目されるポイントです。
また今後、同様のスキームを採用する企業が増えるか注目されます。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、その後の従業員モチベーションやIPO審査に直接影響します。制度発行後の変更は容易ではないため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。
特に有償ストックオプションでは、公正価値評価・税務・会計・会社法を横断した検討が必要となるため、制度設計前の専門家への相談が重要です。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
・2025年有償SO設計実績19件
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- 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
- 「税制適格SOと有償SOのどちらが適切か」
- 「退職者にも権利行使可能とするべきか」
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制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次回第17回は、ネイス(589A)を取り上げる予定です。お楽しみに。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプションとは →こちら
7 ストックオプション発行会社の会計・税務 →こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項 →こちら
9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
こちらもご覧ください。



