新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第13回をご覧いただきありがとうございます。
ストックオプションの制度設計では、
「ストックオプションプールは何%程度が適切か」
「役員と従業員への配分はどのように設計すべきか」
といったご相談をIPO準備企業から多くいただきます。
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。
2026年第13回目の事例は、犬猫生活株式会社です。
この度の上場を心よりお祝い申し上げます。
会社概要
新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Iの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下の通りです。
| 社名 | 犬猫生活株式会社 |
| コード | 556A |
| 業種 | 小売業 |
| 市場 | 東京証券取引所グロース市場 |
| 主幹事 | SBI証券 |
| 承認日 | 2026年3月23日 |
| 公開日 | 2026年4月23日 |
| 事業内容 | ペットフードをはじめとしたペット関連商品の企画・製造・販売 |
| 会社設立年月日 | 2018年5月30日 |
| 監査法人 | OAG監査法人 |
| 公開価格 | 2,990円 |
| 初値 | 3,500円 |
| 時価総額(公開) | 7,822百万円 |
| 時価総額(初値) | 9,156百万円 |
2018年5月の設立から約7年10か月でのスピード上場となっています。
ZOZO創業者である前澤友作氏が率いる「前澤ファンド」が筆頭株主(主要株主)として出資していることでも大きな話題を集めました。
ストックオプション導入状況
当社は新株予約権を第1回・第2回の計2本発行しており、上場申請時点でいずれも残存しています。
なお、同社は2025年1月31日付で1株につき10株、2026年1月1日付で1株につき200株の株式分割を実施しており、累積で1株が2,000株に分割されています。
そのため、本稿における各種数値は、すべて上場申請時点(分割後)の基準に統一して解説します。
以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース10.74%です。
IPO準備企業では、希薄化後ベースで10%前後に設計される事例が比較的多く見られます。
本事例の10.74%は、一般的なIPO準備企業と比較すると標準的な水準です。
なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。
実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
発行本数は第1回・第2回の2本で、上場申請時点でいずれも有効です。シンプルな2本構成となっています。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。
読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。
| 回号 | 第1回新株予約権 | 第2回新株予約権 |
|---|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 税制適格ストックオプション | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2022年5月16日 | 2025年1月15日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 取締役 2名 従業員 16名〔15名〕 | 取締役 3名 従業員 35名〔34名〕 |
| 新株予約権の数 〔 〕上場申請時 | 69個 〔67個〕 | 707個 〔705個〕 |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数〔 〕上場申請時 | 普通株式690株 〔134,000株〕 | 普通株式707株 〔141,000株〕 |
| 新株予約権の行使時の払込金額〔 〕上場申請時 | 110,000円 〔550円〕 | 150,000円 〔750円〕 |
| 新株予約権の行使期間 | 2024年5月17日〜2032年5月16日 | 2027年1月16日〜2035年1月15日 |
| 新株予約権の行使の条件 | ||
| ①継続勤務条件 | あり | あり |
| ②上場条件 | あり | あり |
| ③相続人行使条件 | なし(行使不可) | なし(行使不可) |
| ④その他 | 新株予約権割当契約に定めるところによる | 新株予約権割当契約に定めるところによる |
なお、開示資料上は税制適格/非適格の区分が明示されていませんが、行使価額や行使条件等から、上表の通り税制適格ストックオプションを前提とした設計と推定しています。
権利行使価額について
第1回:110,000円(株式分割後550円)
第2回:150,000円(株式分割後750円)
いずれも決議時点(株式分割前)の価額です。
有価証券届出書(Iの部)によれば、第2回の権利行使価額の根拠について「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して、決定しております。」と記載されています。
価格水準からも第1回も同様の決定方法によるものと推定されます。
税制適格ストックオプションでは、権利行使価額が契約締結時の株式時価以上であることが要件とされています。
非上場企業では、DCF法・類似会社比較法・純資産法等による株価算定を実施し、その結果を参考に権利行使価額を設定するケースが一般的です。
なお、公開価格(2,990円)と各回の権利行使価額(分割後)を比較すると、第1回は約5.4倍、第2回は約4.0倍の理論的なリターン可能性があります。
権利行使条件について
継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件
全回号で統一された条件となっています。
継続勤務条件:あり
上場条件:あり
相続人行使条件:なし(行使不可)
上場条件が発行要項に明記されている点は、IPO準備企業にとって重要な設計ポイントです。
上場前は権利行使を禁止し、上場後に初めて行使可能とすることで、インセンティブとしての機能を上場達成に直結させています。
相続人による行使は認めないと明示されており、SO保有者が死亡した場合には権利が消滅する設計となっています。
その他の詳細な条件については、新株予約権割当契約に委ねる設計となっています。
発行要項をシンプルに保ちつつ、人材の定着度に応じた権利確定(ベスティング)や、一定期間内の行使を制限する期間(クリフ)を柔軟に設定するため、実務上もこれらの詳細条件は割当契約側に落とし込むケースが一般的です。
付与対象者別付与状況
階層別の付与数状況
開示資料から付与内容の判明している対象者について整理すると、以下の通りです。
なお、代表取締役(佐藤 淳氏)は、募集・売出前時点で自身で36.16%の株式を保有する大株主であり、SOの付与は受けていません。
| 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 | 1人当たり潜在株数 | 1人当たり潜在株式比率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 1 | — | — | — | — |
| 取締役 | 3 | 86,600 | 3.38% | 28,867 | 1.13% |
| 従業員 | 36 | 188,400 | 7.36% | 5,233 | 0.20% |
代表取締役へのSO付与はなく、取締役3名に平均1.13%、従業員36名に平均0.20%の配分となっています。
取締役への付与は比較的均等で、従業員にも広くインセンティブを付与する設計となっています。
付与のばらつき状況
役職別についてばらつき状況を確認してみます。
取締役では最大付与数と最小付与数には約1.1倍の差があります。取締役間の付与はほぼ均等な設計です。
| 取締役 | 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 1 | 30,000 | 1.17% |
| 中央値 | 29,200 | 1.14% | |
| 最小値 | 1 | 27,400 | 1.07% |
従業員では最大付与数と最小付与数には約8.2倍の差があります。
| 従業員 | 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 1 | 16,400 | 0.64% |
| 中央値 | 3,200 | 0.12% | |
| 最小値 | 複数 | 2,000 | 0.08% |
役割・期待貢献度に応じて、メリハリのある付与設計が採用されていることが分かります。
在職者に対する付与割合
「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」
は、IPO準備企業から非常によくいただくご質問です。
在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。
| 付与人数 | 在籍総数 | 付与比率 | |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 0 | 1 | 0.0% |
| 取締役 | 3 | 4 | 75.0% |
| 従業員 | 36 | 57 | 63.2% |
代表取締役はSO付与なし。取締役4名のうち3名(75%)、従業員57名のうち36名(63.2%)に付与されています。
全従業員への付与ではなく、ポジションや貢献度に応じた選択的な付与が行われていることが確認できます。
当社のストックオプションの特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。
2本のシンプルな発行構成
代表取締役へのSO付与なし
従業員への広い付与
2本のシンプルな発行構成
前述の通り、犬猫生活のSOは第1回(2022年)・第2回(2025年)の2本のみとシンプルな構成です。
IPO準備企業の中には、設立初期から複数回にわたって細かくSOを発行するケースも多く見られますが、同社は2本という非常にシンプルな本数に集約された設計となっています。
特に第2回は上場申請直前(2025年1月)の発行であり、取締役3名・従業員35名という大規模な付与となっています。
シンプルな構成のメリットとして、管理負担の軽減、行使条件等の統一管理が容易になる点が挙げられます。
代表取締役へのSO付与なし
代表取締役(佐藤 淳氏)はSOの付与を受けていません。
これは、佐藤氏が自身で36.16%という高比率の株式を保有する大株主であることが背景にあると考えられます。
株式を多く保有している創業者・代表取締役にとっては、株価上昇によるキャピタルゲインは既存株式から十分に得られるため、追加的なSOによるインセンティブを付与する必要性が低いという判断が多くみられます。
従業員への広い付与
従業員57名のうち36名(63.2%)にSOが付与されており、比較的広い範囲に付与されています。
スタートアップ・IPO準備企業の中には、全従業員にSOを付与する企業もあれば、一部のキーパーソンのみに限定する企業もあります。
当社は6割超という高い付与率を採用し、従業員への帰属意識向上と上場に向けた動機付けを図る設計となっています。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、その後の従業員モチベーションやIPO審査に直接影響します。
制度発行後の変更は容易ではないため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
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を実施しています。
≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
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30分無料相談を実施しております
ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
- 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
- 「税制適格SOと有償SOのどちらが適切か」
- 「退職者にも権利行使可能とするべきか」
など、初回相談で整理可能です。
制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次回第14回は梅乃宿酒造を取り上げる予定です。お楽しみに。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプションとは→こちら
7 ストックオプション発行会社の会計・税務→こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)
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