新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第17回をご覧いただきありがとうございます。
ストックオプションの制度設計では、「ストックオプションプールは何%程度が適切か」「役員と従業員への配分はどのように設計すべきか」といったご相談をIPO準備企業から多くいただきます。
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)のストックオプション実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。
2026年第17回目の事例は、ネイス株式会社です。
この度の上場を心よりお祝い申し上げます。
会社概要
新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Ⅰの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下の通りです。
| 社名 | ネイス株式会社 |
| コード | 589A |
| 業種 | サービス業 |
| 市場 | 東京証券取引所グロース市場 |
| 主幹事 | 岡三証券 |
| 承認日 | 2026年5月27日 |
| 公開日 | 2026年6月30日 |
| 事業内容 | 子ども向け体操教室の運営(直営及びフランチャイズ方式)及び、児童発達支援・放課後等デイサービス施設の運営(直営方式) |
| 会社設立年月日 | 2010年9月1日 |
| 監査法人 | そうせい監査法人 |
| 公開価格 | 1,320円 |
| 初値 | 1,476円 |
| 時価総額(公開) | 5,412百万円 |
| 時価総額(初値) | 6,052百万円 |
2010年9月設立から約15年9か月での上場となっています。
現代表取締役社長の南友介氏が、現役体操選手時代に培ったノウハウを活かして体操教室を開業するために設立した会社です。子ども向け体操教室「ネイス体操教室」は2026年4月末現在、直営49店・フランチャイズ128店(加盟社数34社)の計177店舗を全国展開しています。また、発達障害のある子どもを対象とした運動療育施設「ネイスぷらす」(直営11店)も運営しています。
資本政策面では外部株主を一切入れることなく、創業者(および資産管理会社)・役員・従業員のみが株式を保有する珍しい事例です。
ストックオプション導入状況
当社は新株予約権を第1回の1本のみ発行しており、上場申請時点でも残存しています。
なお、当社は2024年6月3日付で普通株式1株につき10,000株の株式分割を、2026年3月1日付で1株につき2株の株式分割をそれぞれ実施しており、合計で1株が20,000株に分割されています。本稿の数値は上場申請時点(分割後)の数値で統一しています。
以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース8.48%です。
IPO準備企業では、希薄化後ベースで10%前後に設計される事例が比較的多く見られます。
本事例の8.48%は、一般的なIPO準備企業と比較するとやや低めの水準です。
なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。
実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
第1回新株予約権のみ発行されています。
行使条件や内容は以下の通りです。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。
読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。
| 回号 | 第1回新株予約権 |
| ストックオプション種類(執筆者推定) | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2024年6月3日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社従業員 55名(注)退職等による失効を経て、本書提出日時点では従業員40名・取締役2名(計42名)が権利を保有 |
| 新株予約権の数(個)〔 〕上場申請時 | 201,200個〔187,400個〕 |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株)〔 〕上場申請時 | 普通株式 402,400株〔374,800株〕 |
| 新株予約権の行使時の払込金額(円)〔 〕上場申請時 | 552円〔276円〕 |
| 新株予約権の行使期間〔 〕上場申請時 | 2026年6月4日〜2034年6月3日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)〔 〕上場申請時 | 発行価格 552円〔276円〕 資本組入額 276円〔138円〕 |
| 新株予約権の行使の条件 | |
| ①継続勤務条件 | 条件付き(取締役会が正当な理由があると特に認める場合は例外あり) |
| ②上場条件 | あり |
| ③相続人行使条件 | なし(行使不可)(ただし取締役会が認めた場合はこの限りではない) |
| ④その他 | なし |
第1回は開示資料上明示されていませんが、行使価額や行使条件等から、税制適格ストックオプションを前提として設計されている可能性が高いと考えられます。
権利行使価額について
第1回:552円(2026年3月1日付の株式分割後276円)
決議時点(株式分割前)の価額です。
権利行使価額の根拠について、開示資料上「株式の発行価額及び行使に際して払込をなすべき金額は、DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)により算出した価格を総合的に勘案して、決定しております。」と記載されています。
税制適格ストックオプションでは、権利行使価額が契約締結時の株式時価以上であることが要件とされています。
非上場企業では、DCF法・類似会社比較法・純資産価額法等による株価算定を実施し、その結果を参考に権利行使価額を設定するケースが一般的です。
権利行使条件について
継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件
継続勤務条件:条件付き(取締役会が正当な理由があると特に認める場合には、その認める範囲において行使可能)
上場条件:あり
相続人行使条件:なし(行使不可)(ただし取締役会が認めた場合はこの限りではない)
上場条件が発行要項に明記されている点は、IPO準備企業にとって重要な設計ポイントです。
上場前は権利行使できない設計とし、上場後に初めて行使可能とすることで、インセンティブとしての機能を上場達成に直結させています。
相続人による行使は原則不可とされていますが、取締役会が承認した場合には例外を認める柔軟な設計となっています。
継続勤務条件についても、取締役会の判断で例外を認めることができる設計となっており、実情に応じた柔軟な運用が可能です。
付与対象者別付与状況
階層別の付与数状況
開示資料から付与内容の判明している対象者について整理すると、以下の通りです。
なお、代表取締役(南友介氏)は自身で36.61%の株式を保有するほか、保有会社(株式会社みなみの島)が54.91%の株式を保有する筆頭株主であり、SOの付与は受けていません。
| 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 | 1人当たり潜在株数 | 1人当たり潜在株式比率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 1 | — | — | — | — |
| 取締役 | 2 | 176,000 | 4.03% | 88,000 | 2.01% |
| 従業員 | 40 | 194,800 | 4.46% | 4,870 | 0.11% |
代表取締役へのSO付与はなく、取締役2名に平均2.01%(各88,000株)、従業員40名に平均0.11%(1人当たり4,870株)の配分となっています。
取締役への付与は均等であり、従業員は役割・貢献度に応じた配分設計となっています。
付与のばらつき状況
役職別のばらつき状況を確認します。
取締役では2名とも88,000株(2.01%)と均等配分となっており、最大/最小の差はありません。
| 取締役 | 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 1 | 88,000 | 2.01% |
| 中央値 | — | 88,000 | 2.01% |
| 最小値 | 1 | 88,000 | 2.01% |
従業員では最大付与数と最小付与数には3.0倍の差があります。
| 従業員 | 人数 | 潜在株式数 | 潜在株式比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 1 | 8,400 | 0.19% |
| 中央値 | 4 | 4,400 | 0.10% |
| 最小値 | 1 | 2,800 | 0.06% |
役割・期待貢献度に応じて、メリハリのある付与設計が採用されていることが分かります。
在職者に対する付与割合
「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」——これはIPO準備企業から非常によくいただくご質問です。
在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。
| 付与人数 | 在籍総数 | 付与比率 | |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 0 | 1 | 0.0% |
| 取締役 | 2 | 5 | 40.0% |
| 従業員 | 40 | 334 | 12.0% |
代表取締役はSO付与なし。取締役5名のうち2名(40.0%)、従業員334名のうち40名(12.0%)に付与されています。
全従業員への付与ではなく、貢献度・役割に応じた選択的な付与が行われていることが確認できます。
従業員への付与率が12.0%と比較的低い水準ですが、当社は体操教室の直営・フランチャイズ展開という業態上、多数の現場スタッフを抱えており、SO付与対象は主に本部機能を担うコアスタッフに絞られていると考えられます。
当社のストックオプションの特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。
①1本のシンプルな発行構成(55名への一括付与)
②代表取締役へのSO付与なし(大株主のため)
③従業員として付与された2名が後に取締役へ就任
④外部株主が存在しない資本政策を前提としたSO設計
1本のシンプルな発行構成(55名への一括付与)
ネイスのSOは第1回(2024年6月)の1本のみというシンプルな構成です。
IPO準備企業の中には、設立初期から複数回にわたって細かくSOを発行するケースも多くありますが、当社は2024年6月に従業員55名へ一括で付与するというシンプルな設計を採用しています。
1本のシンプルな構成のメリットとして、管理負担の軽減、行使条件等の統一管理が容易になる点が挙げられます。
さらに上場予定のおよそ2年前という、IPO準備が本格化するタイミングでSOを付与することで、インセンティブ効果を増大させる狙いもあったと推定されます。
一方で、付与タイミングが一時点に集中するため、その後採用する人材への追加インセンティブ付与が必要な場合は、追加発行が必要となります。
代表取締役へのSO付与なし
代表取締役(南友介氏)はSOの付与を受けていません。
これは、南氏が自身で36.61%という高比率の株式を保有し、さらに保有会社(株式会社みなみの島)を通じて54.91%を保有する筆頭株主であることが背景にあると考えられます。
株式を多く保有している創業者・代表取締役にとっては、株価上昇によるキャピタルゲインは既存株式から十分に得られるため、追加的なSOによるインセンティブを付与する必要性が低いという判断が多くみられます。
従業員として付与された2名が後に取締役へ就任
当初、第1回SOは全員従業員として55名に対して付与されましたが、開示注記によると付与対象者のうち2名が2024年9月1日および2024年11月29日に取締役に就任しています。
このように、従業員の段階でSOを付与し、その後昇格・昇任によって取締役となるケースは実務上よく見られます。取締役就任後も、従業員として受けたSOはそのまま継続保有することが一般的です。
当社の場合、税制適格SOの付与条件(勤務形態等)が変化していないかについては、就任後も継続して確認が必要となります。
外部株主が存在しない資本政策を前提としたSO設計
ネイス株式会社は、VC(ベンチャーキャピタル)や事業会社などの外部株主を受け入れることなくIPOを実現した点が特徴です。
一般的なスタートアップでは、IPOまでの資金調達に伴ってVC等へ株式を発行することが多く、創業者持分、投資家持分、ストックオプションプールのバランスを考慮した資本政策が求められます。
一方、当社では創業者グループが株式の大半を保有した状態で上場しており、ストックオプションについても、外部株主との希薄化調整を意識する必要性は比較的小さかったものと考えられます。
このように、ストックオプションの制度設計は、単独で検討するものではなく、資本政策や資金調達計画と一体で設計されることが重要であることを示す事例といえるでしょう。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
今回のネイス株式会社の事例のような税制適格SOであっても、権利行使価額の根拠となる非上場株式の株価算定(DCF法等)や税制要件のクリアには専門的な判断が欠かせません。さらに、有償ストックオプション等を組み合わせる場合は、公正価値評価・税務・会計・会社法を横断した検討が必要となるため、制度設計前の専門家への相談が重要です。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
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・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
- 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
- 「税制適格SOと有償SOのどちらが適切か」
- 「退職者にも権利行使可能とするべきか」
など、初回相談で整理可能です。
制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次回第18回は、チャットプラス(598A)を取り上げる予定です。お楽しみに。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプションとは →こちら
7 ストックオプション発行会社の会計・税務 →こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項 →こちら
9 ストックオプション発行の実務プロセス→こちら
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
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