新規IPO企業のストックオプション事例コラム第20回をご覧いただきありがとうございます。
IPO準備企業では、次のような疑問が多くあります。
- 上場直前にストックオプションを発行してよいのか
- 社外の協力者や顧問にもストックオプションを付与できるのか
- ストックオプションの権利行使価額が、IPOの公開価格を上回ることはあるのか
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
第20回の事例は、株式会社ビーエイブルです。
この度の上場を心よりお祝い申し上げます。
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。
会社概要
新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Ⅰの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下のとおりです。
| 社名 | 株式会社ビーエイブル(旧 株式会社エイブル) |
|---|---|
| コード | 604A |
| 業種 | 建設業 |
| 市場 | 東京証券取引所スタンダード市場 |
| 主幹事 | みずほ証券 |
| 上場承認日 | 2026年6月25日 |
| 上場日 | 2026年7月29日 |
| 事業内容 | ・原子力発電所の廃炉作業(福島第一原子力発電所)を中核とする工事事業 (プラント建設・定期点検、耐震補強、鉄骨・一般構造物工事等を含む) ・木質バイオマス発電、太陽光発電等の再生可能エネルギー事業(開発・運営・O&M) ・健康事業、料飲事業等のその他事業 |
| 会社設立年月日 | 1991年3月14日 |
| 監査法人 | 栄監査法人 |
| 公開価格 | 700円(仮条件660円〜700円の上限で決定) |
| 初値 | 1,016円 |
| 時価総額(公開) | 7,123百万円 |
| 時価総額(初値) | 10,338百万円 |
株式会社ビーエイブル(旧 株式会社エイブル)は、福島第一原子力発電所の廃炉作業を中核とする工事事業を主力とし、木質バイオマス発電・太陽光発電等の再生可能エネルギー事業、健康事業・料飲事業を展開する企業です。
1991年3月14日の設立から2026年7月の上場まで、約35年4か月を要しています。本シリーズで取り上げてきた設立から5〜10年で上場するスタートアップとは異なり、長期にわたる事業基盤の蓄積を経てのIPOとなりました。
公開価格は仮条件660円〜700円の上限である700円で決定され、初値は1,016円(騰落率+45.1%)となりました。初値ベースの時価総額は103億円です。
なお、発行済株式総数10,175,000株には自己株式2,877,500株が含まれています。また、2026年3月4日付で普通株式1株につき5株の株式分割を実施しています。
ストックオプション導入状況
当社は新株予約権を第3回から第6回まで計4本発行しており、いずれも上場申請時点において残存しています。
4本はいずれも2025年6月24日と2025年10月24日に決議されたもので、上場承認日(2026年6月25日)の約1年前から約8か月前という、上場前の短期間に集中して決議されている点が特徴です。
有価証券届出書(Ⅰの部)では、第3回・第4回は当事業年度の末日(2025年7月31日)現在、第5回・第6回は新株予約権付与日(2025年10月31日)現在の内容が記載され、〔 〕内に提出日の前月末(2026年5月31日)現在の数値が併記されています。〔 〕内には2026年3月4日付の1対5の株式分割が反映されています。
本稿では、特に断りのない限り〔 〕内の分割後ベースで記載します。
以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は、希薄化後ベースで8.11%です(潜在株式644,800株÷株式の総数7,942,300株)。
ここでいう株式の総数7,942,300株は、発行済株式総数10,175,000株から自己株式2,877,500株を控除した7,297,500株に、潜在株式644,800株を加えた数値です。
なお、自己株式を含む発行済株式総数10,175,000株を分母とすると6.34%となります。自己株式を多く保有している会社では、どの株式数を分母に置くかで比率が大きく変わるため、他社比較の際には注意が必要です。
IPO準備企業では、上場前の段階で一定規模のストックオプションを発行する事例が多く見られます。本事例の潜在株比率8.11%は、本シリーズでこれまで取り上げた事例と比較しても、比較的抑えられた水準といえます。
回号別の内訳は以下のとおりです。
| 回号 | 潜在株式数 | 構成比 | 潜在株比率(希薄化後) |
|---|---|---|---|
| 第3回 | 489,000株 | 75.8% | 6.16% |
| 第4回 | 27,100株 | 4.2% | 0.34% |
| 第5回 | 120,700株 | 18.7% | 1.52% |
| 第6回 | 8,000株 | 1.2% | 0.10% |
| 合計 | 644,800株 | 100.0% | 8.11% |
第3回が潜在株式全体の75.8%を占めており、上場を見据えた最初の一括付与が中心となっていることが分かります。
なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
発行本数は第3回から第6回までの計4本であり、上場申請時点でいずれも残存しています。
4本について、いずれも無償ストックオプションとして整理します(執筆者推計)。
なお、有価証券届出書では、役職員向けの第3回・第5回が「ストック・オプション」、社外協力者向けの第4回・第6回が「自社株式オプション」と区分して記載されています。本稿では、第4回・第6回も含めて「ストックオプション」と総称します。
このうち第3回・第5回は当社の取締役・監査役・従業員を対象としたもので、行使期間が付与決議日の2年経過後から10年以内に収まっていることから、税制適格ストックオプション(以下「税制適格SO」)を前提として設計されたものと推定されます。
ただし、第3回のうち監査役3名への付与分は、税制非適格ストックオプション(以下「税制非適格SO」)として取り扱われることになると考えられます。
第4回・第6回は社外協力者を対象としたもので、原則として税制非適格SOと推定されます。2019年度税制改正により、一定の要件を満たす社外高度人材もストックオプション税制の対象に加えられていますが、社外高度人材活用新事業分野開拓計画について認定を受けること等の手続を要します。有価証券届出書上、当該認定に関する記載は確認できませんでした。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容に関する開示資料は以下のとおりです。
読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。
| 回号 | 第3回新株予約権 | 第4回新株予約権 | 第5回新株予約権 | 第6回新株予約権 |
|---|---|---|---|---|
| ストックオプション種類 (執筆者推計) | 税制適格ストックオプション (監査役3名への付与分は税制非適格ストックオプション) | 税制非適格ストックオプション | 税制適格ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
| 決議年月日 (株主総会決議日) | 2025年6月24日 | 2025年6月24日 | 2025年10月24日 | 2025年10月24日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社取締役 8 当社監査役 3 当社従業員 152 (提出日前月末現在:取締役8名、監査役3名、従業員147名) | 社外協力者 6 | 当社取締役 8 当社従業員 78 (提出日前月末現在:取締役8名、従業員77名) | 社外協力者 3 |
| 新株予約権の数(個) 〔 〕提出日前月末 | 4,996〔4,890〕 | 271 | 1,222〔1,207〕 | 80 |
| 新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株) 〔 〕提出日前月末 | 普通株式 99,920 〔489,000〕 ※1個当たり20株→100株 | 普通株式 5,420 〔27,100〕 ※1個当たり20株→100株 | 普通株式 24,440 〔120,700〕 ※1個当たり20株→100株 | 普通株式 1,600 〔8,000〕 ※1個当たり20株→100株 |
| 新株予約権の行使時の払込金額(円) 〔 〕提出日前月末 | 5,583〔1,117〕 | 5,583〔1,117〕 | 5,583〔1,117〕 | 5,583〔1,117〕 |
| 新株予約権の行使期間 | 2027年6月25日〜 2035年6月24日 | 2027年6月25日〜 2035年6月24日 | 2027年10月25日〜 2035年10月24日 | 2027年10月25日〜 2035年10月24日 |
| 発行価格/資本組入額(円) 〔 〕提出日前月末 | 発行価格 5,583〔1,117〕 資本組入額 2,791.5〔558.5〕 | 発行価格 5,583〔1,117〕 資本組入額 2,791.5〔558.5〕 | 発行価格 5,583〔1,117〕 資本組入額 2,791.5〔558.5〕 | 発行価格 5,583〔1,117〕 資本組入額 2,791.5〔558.5〕 |
| ①継続勤務条件 | 有 権利行使時においても、当社又は当社子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員の地位を有していることを要する(任期満了による退任・定年退職、その他取締役会が正当な理由があると認めた場合を除く)。 | 有 左記に加え、顧問、社外協力者その他これに準ずる地位を有していることを要する。 | 有 第3回と同一。 | 有 第4回と同一。 |
| ②上場条件 | 有 当社普通株式がいずれかの金融商品取引所に上場すること。 | 有 同左 | 有 同左 | 有 同左 |
| ③相続人行使条件 | 無 相続人による権利行使は認めない(取締役会が認めた場合を除く)。 | 無 同左 | 無 同左 | 無 同左 |
| ④業績条件・株価条件 | なし | なし | なし | なし |
| ⑤その他 | なし | 同左 | 同左 | 同左 |
※第3回・第4回は当事業年度の末日(2025年7月31日)現在、第5回・第6回は新株予約権付与日(2025年10月31日)現在の内容です。〔 〕内は提出日の前月末(2026年5月31日)現在の内容で、2026年3月4日付の1対5の株式分割が反映されています。
権利行使価額について
全4回号とも権利行使価額は同一で、株式分割後ベースで1,117円(分割前5,583円)です。
公開価格・初値との関係は以下のとおりです。
| 項目 | 金額 | 権利行使価額(1,117円)との関係 |
|---|---|---|
| 権利行使価額(分割後) | 1,117円 | ― |
| 公開価格 | 700円 | 権利行使価額の62.7%(417円下回る) |
| 初値 | 1,016円 | 権利行使価額の91.0%(101円下回る) |
注目すべきは、権利行使価額1,117円が公開価格700円・初値1,016円のいずれをも上回っている点です。すなわち、上場時点では全4回号がアウト・オブ・ザ・マネー(権利行使しても利益が生じない状態)となっています。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
非上場会社のストックオプションの権利行使価額は、発行時点の株式価値を踏まえて設定されます。一方、上場時の公開価格は、類似会社比較法をベースに、ブックビルディングにおける機関投資家等の需要を踏まえて決定されます。両者は評価の時点・手法・前提が異なるため、乖離が生じることがあります。
本事例では、2025年6月および10月に決議された新株予約権について、2026年3月の株式分割後ベースで権利行使価額が1,117円とされている一方、2026年7月の公開価格は700円(仮条件660円〜700円の上限)となりました。なお、有価証券届出書の財務諸表注記(ストック・オプション等関係)では、ストックオプションの本源的価値の算定基礎となる自社の株式価値について、「DCF法により算定した価格を基礎として決定している」旨が開示されています(第3回・第4回に係る2025年7月期の注記)。
セーフハーバールールを含む権利行使価額の考え方について詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第4回「税制適格SOの行使価額とセーフハーバー|1円SOの条件と株式報酬費用」をご参照願います。
権利行使条件について
継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件
各回号の条件区分は以下のとおりです。
| 条件 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 |
|---|---|---|---|---|
| ①継続勤務条件 | 有 | 有 | 有 | 有 |
| ②上場条件 | 有 | 有 | 有 | 有 |
| ③相続人行使条件 | 原則不可(取締役会の承認で可) | 原則不可(取締役会の承認で可) | 原則不可(取締役会の承認で可) | 原則不可(取締役会の承認で可) |
| ④業績条件・株価条件 | なし | なし | なし | なし |
全回号で条件が統一されています。
継続勤務条件は、権利行使時においても当社又は当社子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員(第4回・第6回はこれに加えて顧問、社外協力者その他これに準ずる地位)を有していることを要するものです。ただし、任期満了による退任・定年退職、その他取締役会が正当な理由があると認めた場合は除かれます。
上場条件は、当社普通株式がいずれかの金融商品取引所に上場することを条件とするもので、全4回号に例外なく付されています。上場条件を設けずに業績条件等で代替する設計事例も見られますが、当社はオーソドックスに上場条件を付す設計を採用しています。
相続人行使条件は、新株予約権者が死亡した場合の相続人による権利行使を原則として認めないものです。ただし、取締役会が認めた場合はこの限りではないとされています。
業績条件・株価条件について
全4回号とも、業績条件・株価条件は設けられていません。権利行使の要件は「上場」と「在籍」のみという、シンプルな設計です。
無償ストックオプションでは、在籍条件や上場条件を中心としたシンプルな権利行使条件とする設計が多く見られます。一方、業績条件や株価条件を付すかどうかは、付与対象者へのインセンティブ設計のほか、会計上の評価や税務上の取扱いなども踏まえて検討する必要があります。
もっとも本事例では、結果的に上場時点の初値が権利行使価額を下回っており、株価の上昇が権利行使の前提となる状況になっています。
権利行使条件・取得条項の設計について詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第8回をご参照願います。
付与対象者別付与状況
はじめに、この章を読むうえでの注意点をお伝えします。
この章は、有価証券届出書の「第三者割当等の概況」に記載された取得者の概況(第3回から第6回までの各新株予約権の割当先一覧)に基づいて作成しております。同欄には、退職等により権利を喪失した者を除く割当先が全件記載されており、その合計は新株予約権等の状況に記載された潜在株式644,800株と一致します。
なお、【株主の状況】欄からも同様の集計は可能ですが、同欄では500株といった少額の保有者が個別に記載されず「その他41名」にまとめられるため、区分別の保有者数を正確に数えることができません。本稿では、保有者数まで把握できる取得者の概況を集計の基礎としています。
また、取締役でない執行役員については取得者の概況上も区分を特定できないため、本稿の「従業員」に含まれています。
階層別の付与数状況
区分別に整理すると、以下のとおりです。
| 区分 | 人数 | 潜在株式数 | 潜在株比率 | 1人当たり 潜在株式数 | 1人当たり 潜在株比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 1 | 0 | 0.00% | 0 | 0.00% |
| 資産管理会社 | 1 | 0 | 0.00% | ― | ― |
| 取締役(社長を除く) | 10 | 136,900 | 1.72% | 13,690 | 0.17% |
| 監査役 | 3 | 2,000 | 0.03% | 667 | 0.01% |
| 従業員 | 146 | 470,800 | 5.93% | 3,225 | 0.04% |
| 社外協力者 | 6 | 35,100 | 0.44% | 5,850 | 0.07% |
| 計 | ― | 644,800 | 8.11% | ― | ― |
最も大きな配分を受けているのは従業員146名の470,800株で、潜在株式全体の73.0%を占めます。次いで代表取締役社長を除く取締役10名の136,900株(同21.2%)となっており、役職員に広く配分されている設計です。
一方、代表取締役社長である佐藤順英氏は1,800,000株(発行済株式総数等に対する割合22.66%)を直接保有し、その資産管理会社であるエイブル興産株式会社が5,015,000株(同63.14%)を保有していますが、いずれも新株予約権は保有していません。
すでに十分な持株を有する創業家にはストックオプションを付与せず、インセンティブ効果が期待できる役職員に配分する設計となっています。
監査役3名にも新株予約権が付与されていますが、3名合計で2,000株(潜在株式全体の0.3%)にとどまります。
付与のばらつき状況
役職別にばらつきの状況を確認します。
まず取締役(社長を除く10名)です。
| 取締役(社長を除く10名) | 潜在株式数 | 潜在株比率 |
|---|---|---|
| 最大値 | 25,000 | 0.31% |
| 平均値 | 13,690 | 0.17% |
| 中央値 | 11,250 | 0.14% |
| 最小値 | 500 | 0.01% |
最大値25,000株に対し最小値は500株で、その差は50倍に達します。取締役の中でも、役割・在任期間・貢献度に応じた大きな差を設けていることがうかがえます。
次に従業員146名の分布です。
| 従業員(146名) | 潜在株式数 | 潜在株比率 |
|---|---|---|
| 最大値(個別記載110名) | 24,000 | 0.30% |
| 平均値(146名全体) | 3,225 | 0.04% |
| 中央値(個別記載110名) | 2,500 | 0.03% |
| 最小値(個別記載110名) | 1,000 | 0.01% |
【株主の状況】に個別記載のある110名に限ってみると、最大値と最小値の差は24倍と大きく、メリハリのある配分となっています。
また、個別記載110名の中央値2,500株に対し、従業員146名全体の平均値は3,225株です。一部の対象者に厚く配分される、右に裾を引いた分布であることを示しています。多くの従業員には1,000株〜2,500株程度を広く配分しつつ、キーパーソンには中央値の約10倍を配分する設計といえます。
在籍者に対するストックオプション付与割合
「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」は、IPO準備企業から非常によくいただくご質問です。
在籍者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。
| 区分 | SO保有者数 | 在籍者数 | 付与比率 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 0 | 1 | 0.0% |
| 取締役(社長を除く) | 10 | 10 | 100.0% |
| 監査役 | 3 | 3 | 100.0% |
| 従業員 | 146 | 218 | 67.0% |
※在籍者数は、取締役11名(うち代表取締役社長1名・社外取締役3名)、監査役3名(全員社外)、取締役でない執行役員11名、従業員218名(ほかに臨時従業員15名)に基づきます(いずれも2026年5月31日現在)。
※取締役でない執行役員11名は取得者の概況上「従業員」に区分されるため、上表の「従業員」に含まれています。
※上記のほか、社外協力者6名(法人1社・個人5名)が新株予約権を保有しています。
代表取締役社長を除く取締役10名の全員(100.0%)、監査役3名の全員(100.0%)に新株予約権が付与されており、従業員は218名のうち146名(67.0%)が保有しています。
従業員の約3分の2に付与するという水準は、本シリーズ第16回のLiNKX株式会社(従業員109名中55名・50.5%)を上回る水準で、本シリーズの過去事例の中でも比較的広く付与している部類といえます。
また、取締役10名には社外取締役3名が含まれており、いずれも第3回新株予約権の割当を受けています。社外取締役へのストックオプション付与は、独立性や業績連動報酬の是非という観点から慎重な検討を要する論点ですが、当社は付与対象に含めたうえで、社外取締役への付与を1名あたり500株〜4,000株とし、社内取締役(1名あたり10,000株〜25,000株)との間に明確な差を設けています。
監査役3名についても、3名全員が第3回新株予約権の割当を受けています。監査役は税制適格SOの付与対象に含まれないため(租税特別措置法第29条の2第1項)、この付与分は税制非適格SOとして取り扱われることになります。付与株数は1名あたり500株〜1,000株(3名合計2,000株、潜在株式全体の0.3%)と限定的です。
ビーエイブルのストックオプションの特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の3点です。
① 上場前1年余りで4本を集中発行し、役職員へ広く付与
② 社外協力者向け専用のストックオプションを発行(第4回・第6回)
③ 権利行使価額が公開価格・初値を上回る「アウト・オブ・ザ・マネー」での上場
① 上場前1年余りで4本を集中発行し、役職員へ広く付与
当社は2025年6月24日に第3回・第4回を、2025年10月24日に第5回・第6回を決議しており、4本すべてが、上場承認日である2026年6月25日の約1年前から約8か月前に決議されています。
設立から34年を経て、上場を具体的に視野に入れた段階で一気にインセンティブ制度を整備した形です。なお、当社は7月決算のため、第3回・第4回は直前期(2025年7月期)、第5回・第6回は申請期(2026年7月期)の発行にあたります。
付与規模も大きく、第3回では取締役8名・監査役3名・従業員146名、第5回では取締役8名・従業員76名に割り当てられています(いずれも退職等により権利を喪失した者を除く、取得者の概況ベース)。有価証券届出書の提出時点で新株予約権を保有する従業員は146名で、在籍従業員218名の67.0%に相当します。
このような「上場前の短期間での一括付与」には、次のようなメリットがあります。
- 上場(=上場条件の充足)までの見通しが立ちやすく、権利行使開始までのスケジュールも把握しやすい
- 上場に向けた士気向上・人材定着に直接的に働きかけられる
- 付与時点と上場時点が近い場合、企業価値や市場環境の変化による権利行使価額と上場後株価の乖離が、相対的に小さくなる可能性がある
一方で、次のような留意点もあります。
- ストックオプションの発行時期と権利行使価額設定方法によって、株式報酬費用の計上時期や金額が上場準備期間の損益に影響する可能性がある
- 後述のとおり、上場時の市場評価によっては、権利行使価額が公開価格を上回る可能性がある
- 上場準備において、付与対象者・付与基準・付与条件について、その合理性を説明できるよう整理しておく必要がある
ストックオプションを「いつ発行するか」は、単なるタイミングの問題ではなく、権利行使価額・費用計上・審査対応に直結する論点です。
② 社外協力者向け専用のストックオプションを発行(第4回・第6回)
当社は、役職員向けと社外協力者向けを別の回号に分けて発行しています。
| 回号 | 決議日 | 付与対象者 | 潜在株式数 | 税制上の取扱い (執筆者推計) |
|---|---|---|---|---|
| 第3回 | 2025年6月24日 | 取締役8名・監査役3名・従業員146名 | 489,000株 | 税制適格ストックオプション(監査役分は税制非適格ストックオプション) |
| 第4回 | 2025年6月24日 | 社外協力者6名 | 27,100株 | 税制非適格ストックオプション |
| 第5回 | 2025年10月24日 | 取締役8名・従業員76名 | 120,700株 | 税制適格ストックオプション |
| 第6回 | 2025年10月24日 | 社外協力者3名 | 8,000株 | 税制非適格ストックオプション |
第3回と第4回、第5回と第6回はそれぞれ同じ日に決議されています。同日決議でありながら、あえて回号を分け、社外協力者向けの専用回号(第4回・第6回)を設けている点が本事例の特徴です。有価証券届出書の「第三者割当等の概況」や財務諸表の注記(ストック・オプション等関係)でも、第4回・第6回は役職員向けの「ストック・オプション」とは区別され、「自社株式オプション」として記載されています。
社外協力者向けの潜在株式は第4回・第6回の合計35,100株で、潜在株式全体の5.4%を占めます。取得者の概況によれば、割当先は法人1社(コンサルティング会社)と個人5名(弁護士2名・公認会計士2名・元当社顧問1名)の計6名です。
回号を分けた理由は開示資料からは明らかではありませんが、実務上は次のような点が考えられます。
- 権利行使条件の文言が異なる:役職員向け(第3回・第5回)は「取締役、監査役、執行役員、従業員」の地位を要するのに対し、社外協力者向け(第4回・第6回)はこれに加えて「顧問、社外協力者その他これに準ずる地位」を要するものとされています。
- 税制上の取扱いが異なる:役職員向けは税制適格SOを前提とする一方、社外協力者向けは原則として税制非適格SOとなります。回号を分けることで、税制上の取扱いや権利行使条件の異なる新株予約権を区分して管理しやすくなると考えられます。
- 会計処理・開示上も区分して整理しやすい:回号ごとに付与対象者や権利行使条件が異なる場合、それぞれの条件を踏まえて会計処理や開示内容を整理できます。
社外協力者へのストックオプション付与にあたっては、次の点に留意が必要です。
- 税制適格SOの付与対象者は、原則として発行会社及びその子会社の取締役、執行役又は使用人(及びその相続人)に限られます(租税特別措置法第29条の2第1項)。監査役や社外協力者は含まれません。
- 2019年度税制改正により、一定の「社外高度人材」も税制適格SOの対象に加えられましたが、社外高度人材活用新事業分野開拓計画について認定を受けること等の手続が必要です。有価証券届出書上、当該認定に関する記載は確認できませんでした。
- 税制非適格SOでは、原則として権利行使時の経済的利益が課税対象となります。役職員については、その職務との関係等に応じて給与所得等として取り扱われ、社外協力者については、役務提供の実態等に応じて事業所得・雑所得等のいずれに該当するかを判断する必要があり、対象者への事前説明が欠かせません。
- 会社側では、社外協力者から受ける役務提供の対価としての費用計上の要否・金額を検討する必要があります。
取得者の概況によれば、社外協力者向けの割当先はコンサルティング会社1社と、弁護士2名・公認会計士2名・元当社顧問1名です。廃炉事業の技術面の協力先というよりも、法務・会計・経営管理の面で当社を支援してきた専門家が中心といえます。もっとも、有価証券届出書からは、社外協力者向けSOを発行した具体的な背景や意図までは確認できません。
自社の役職員だけでなく、顧問・業務委託先・外部アドバイザー等の外部人材を巻き込みたい企業にとって、参考になる設計事例です。
税制非適格ストックオプションについて詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第6回をご参照願います。
③ 権利行使価額が公開価格・初値を上回る「アウト・オブ・ザ・マネー」での上場
本事例で最も注目すべき点は、権利行使価額1,117円が公開価格700円・初値1,016円のいずれをも上回っていることです。
上場時点の初値1,016円は権利行使価額1,117円を下回っているため、全4回号がアウト・オブ・ザ・マネーの状態にあり、株価がこの水準にとどまる限り、権利行使による経済的利益は生じません。
実務上の留意点は次のとおりです。
- 税制適格SOでは、一定の要件のもと、1株当たりの権利行使価額を契約締結時における1株当たりの価額以上とする必要があり(租税特別措置法第29条の2第1項第3号)、株価算定結果を下回る水準に設定することは難しい
- 発行後に権利行使価額を引き下げる条件変更を行う場合には、税制適格要件を満たさなくなる可能性があり、慎重な検討が必要
- したがって「権利行使価額が公開価格を上回るリスク」は、設計段階で織り込んでおくべき事項
前述のとおり、非上場時の株価算定とIPO時の公開価格の間には乖離が生じることがあります。そのため、株価算定にあたっては、DCF法だけでなく類似会社比較法等の複数のアプローチを踏まえ、上場時の市場評価との乖離も意識することが重要です。
もっとも、権利行使開始は2027年6月25日(第3回・第4回)及び2027年10月25日(第5回・第6回)であり、行使期間は2035年まで約8年間残されています。初値1,016円から約9.9%の株価上昇で権利行使価額に到達するため、上場後の成長次第で十分にインセンティブとして機能する余地があります。
付与対象者に対しては、「上場したから直ちに利益が出るわけではない」という点を、付与時点で丁寧に説明しておくことが望まれます。
ストックオプションの種類と税金の違いについては、ストックオプション入門シリーズ第2回をご参照願います。
IPO準備企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、従業員へのインセンティブ設計だけでなく、上場準備における説明・確認事項にも関係します。ストックオプションの発行後に権利行使条件等を変更する場合には、税務・会計・会社法上の影響を慎重に検討する必要があるため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。
本事例のように上場の直前に発行する場合や、監査役・社外協力者など税制適格SOの対象外となる者を含めて設計する場合には、税務・会計・会社法を横断した検討が必要です。また、権利行使価額の基礎となる株価算定は、上場時の市場評価との乖離まで見据えて行うことが重要です。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式の株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援を専門とする事務所
・累計1,000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
有償ストックオプション評価・設計支援サービス
を実施しています。
≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
≫税制適格ストックオプション設計・評価サービス
≫有償ストックオプション設計・評価サービス
30分無料相談を実施しております
ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
- 「自社の場合、ストックオプションの潜在株比率はどの程度が適切か」
- 「税制適格SOと有償SOのどちらが適しているか」
- 「退職者にも権利行使を認める設計にすべきか」
など、初回相談で整理可能です。
制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次の事例(第21回)は「アイ・グリッド・ソリューションズのストックオプション事例|有償・信託型・税制適格SO併用・上場条件なし【2026年IPO㉑】」をご覧ください。
前回の事例は「ティアフォーのストックオプション事例|通算40件発行・USD建てSO【2026年IPO⑲】」をご覧ください。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けに、ストックオプションの種類、税務、株価算定、権利行使条件、発行手続などを体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項 →こちら
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
こちらもご覧ください。






