新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第19回をご覧いただきありがとうございます。
IPO準備企業では、次のような疑問が多くあります。
- ストックオプションは何回発行すべきか
- 海外子会社の役職員にはどのようにストックオプションを付与すればよいのか
- 退職者や死亡時の取扱いをどう設計すべきか
本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
第19回の事例は、株式会社ティアフォーです。2026年6月29日付で東京証券取引所グロース市場への上場が承認され、2026年7月22日に上場を果たしました。このたびのご上場、誠におめでとうございます。
※本コラムは、2026年7月22日の上場後に確定した公開価格・初値・時価総額等の情報を反映しています。ストックオプションに関する記載は、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年6月29日付。以下「Ⅰの部」といいます)に基づく上場申請時点の内容です。
株式会社ティアフォーの会社概要
新規上場(IPO)に際して提出されたⅠの部および公表情報に基づき、概要を整理すると以下のとおりです。
| 社名 | 株式会社ティアフォー(英訳名:TIER IV, Inc.) |
|---|---|
| コード | 593A |
| 業種 | 情報・通信業 |
| 市場 | 東京証券取引所グロース市場 |
| 主幹事 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券・モルガン・スタンレーMUFG証券・SMBC日興証券(共同主幹事) |
| 上場承認日 | 2026年6月29日 |
| 上場日 | 2026年7月22日 |
| 事業内容 | オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を活用した自動運転車両の開発・販売、実証・導入支援等 |
| 会社設立年月日 | 2015年12月 |
| 監査法人 | EY新日本有限責任監査法人 |
| 公開価格 | 1,085円 |
| 初値 | 1,009円(公開価格比▲7.0%) |
| 時価総額(公開) | 約689億円 |
| 時価総額(初値) | 約641億円 |
| 上場時発行済株式総数 | 63,524,090株(上場申請時46,074,490株+公募17,449,600株) |
※時価総額は、公募増資後の上場時発行済株式総数63,524,090株に基づいて算定しています。本コラム後段の潜在株比率は、上場申請時点の発行済株式総数46,074,490株を用いています。
同社は、名古屋大学発の技術をもとに「自動運転の民主化」を掲げて2015年12月に設立され、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の公開を出発点として、自動運転技術の社会実装に取り組んできました。設立(2015年12月)から上場日(2026年7月22日)までは約10年7ヶ月です。本シリーズで取り上げた他のIPO事例と比較しても、長期の準備期間を経た上場といえます。
ティアフォーのストックオプション導入状況
上場申請時点で残存する新株予約権は、第1回から第20回まで(各回で複数次にわたる発行を含む)通算40件、潜在株式数は合計6,133,000株にのぼります(このほかに、退職等により全数が消滅し、上場申請時点では残存していない回があります。詳細は後述します)。
これは、本シリーズでこれまで取り上げた企業の中で最多の発行件数です。
設立から約1年6ヶ月後の2017年6月に第1回新株予約権を決議して以降、直近の2026年4月まで約9年間にわたり継続的に発行を行っている点が大きな特徴です。
以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は、希薄化後ベース(発行済株式総数+潜在株式数を分母とする)で11.7%です(潜在株式数6,133,000株、発行済株式総数46,074,490株)。
なお、Ⅰの部では、「第一部」の記載として「発行済株式総数(46,074,490株)の13.3%に相当」(希薄化前ベース)とされる一方、「第四部【株式公開情報】第3【株主の状況】」の合計欄では希薄化後ベースの11.7%が示されています。本稿では他の回との比較のため、希薄化後ベース(11.7%)で統一して記載しています。
また、公募増資後の上場時発行済株式総数(63,524,090株)を前提とすると、潜在株比率は希薄化後ベースで約8.8%まで低下します。上場時の公募規模が大きい場合、申請時点の潜在株比率がそのまま上場後の希薄化率になるわけではない点にも留意が必要です。
IPO準備企業では、ストックオプションによる潜在株比率を一定の範囲に抑える設計が一般的ですが、適切な水準は企業の成長ステージや人員計画、今後の追加発行方針などによって異なります。本事例の11.7%はやや高めの水準ですが、これは2017年から約9年間にわたり継続的にストックオプションを発行してきた結果の積み上げであり、単年度の設計というより長期にわたる制度運用の帰結と捉えるべきでしょう。
ティアフォーのストックオプション発行回数・種類・内容
発行回数・種類
残存する発行件数は、第1回から第20回まで、各回における複数次(第1次、第2次…)の発行を含め通算40件にのぼります。いずれも無償ストックオプションですが、税制上の取扱いは、付与対象者の属性や権利行使条件等によって異なります。
同社および国内子会社の役職員(取締役・執行役員・従業員等)向けに発行された30件は、権利行使期間が「決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで」の範囲に設定され、権利行使価額も付与時点の株式価値を下回らない水準に設定されているとみられることから、税制適格ストックオプションに該当するものと考えられます。一方、残る10件は、次の理由から税制非適格ストックオプションと考えられます。
- 権利行使価額が米ドル建てで設定された7件(第9回、第11回第1次・第2次、第13回第1次・第2次、第17回第2次、第19回第1次):付与対象者が非居住者であり、税制適格ストックオプションの適用対象とならないため。なお、Ⅰの部上の付与対象者は「当社子会社の役員・従業員」とのみ記載されていますが、米ドル建てであることから、米国連結子会社であるTierIV North America Inc.の役職員向けと考えられます
- 社外協力者向けの2件(第4回第1次・第2次):付与対象者が同社またはその子会社の取締役・執行役・使用人のいずれにも該当せず、税制適格ストックオプションの対象外となるため
- 第20回新株予約権(第1次)の1件:権利行使期間の満了日が決議日から10年を超えており、税制適格ストックオプションの権利行使期間要件を満たさないため(詳細は後述)
なお、付与日時点で同社は未公開企業であったため、ストックオプションの公正な評価単価は本源的価値の見積りによっており、その基礎となる自社株式価値はDCF法により算定されています(Ⅰの部記載)。
発行状況一覧
決議日順に40件の発行状況を一覧にすると、以下のとおりです(行使価額は株式分割等遡及後・上場申請時点ベース)。
なお同社は、2026年1月16日開催の取締役会決議に基づき、2026年2月6日付で普通株式1株につき5株の割合による株式分割を実施しています。以下の行使価額は、この分割を遡及して調整した後の金額です(分割前の金額は、いずれも下表の5倍にあたります)。
| 回号 | 決議日 | SO種類 | 付与人数 | 行使価額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1回新株予約権(第1次) | 2017年6月23日 | 税制適格SO | 14名 | 2円/株 | |
| 第2回新株予約権(第1次) | 2017年6月23日 | 税制適格SO | 1名 | 2円/株 | |
| 第1回新株予約権(第2次) | 2017年7月28日 | 税制適格SO | 2名 | 2円/株 | |
| 第3回新株予約権(第1次) | 2017年11月29日 | 税制適格SO | 3名 | 60円/株 | |
| 第4回新株予約権(第1次) | 2017年11月29日 | 税制非適格SO | 1名 | 60円/株 | 社外協力者向け(継続勤務条件なし) |
| 第4回新株予約権(第2次) | 2017年12月21日 | 税制非適格SO | 1名 | 60円/株 | 社外協力者向け(継続勤務条件なし) |
| 第5回新株予約権 | 2018年10月19日 | 税制適格SO | 31名 | 400円/株 | |
| 第6回新株予約権(第1次) | 2019年2月15日 | 税制適格SO | 12名 | 400円/株 | |
| 第6回新株予約権(第3次) | 2019年4月19日 | 税制適格SO | 5名 | 400円/株 | |
| 第7回新株予約権(第1次) | 2020年1月24日 | 税制適格SO | 42名 | 800円/株 | |
| 第7回新株予約権(第2次) | 2020年4月17日 | 税制適格SO | 12名 | 800円/株 | |
| 第7回新株予約権(第3次) | 2020年7月17日 | 税制適格SO | 13名 | 800円/株 | |
| 第7回新株予約権(第4次) | 2020年12月18日 | 税制適格SO | 33名 | 800円/株 | |
| 第8回新株予約権(第1次) | 2021年4月16日 | 税制適格SO | 14名 | 800円/株 | |
| 第9回新株予約権 | 2021年4月16日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 2名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第8回新株予約権(第2次) | 2021年7月16日 | 税制適格SO | 16名 | 800円/株 | |
| 第8回新株予約権(第3次) | 2021年10月15日 | 税制適格SO | 7名 | 800円/株 | |
| 第8回新株予約権(第4次) | 2021年12月17日 | 税制適格SO | 29名 | 800円/株 | |
| 第10回新株予約権(第1次) | 2022年6月17日 | 税制適格SO | 26名 | 1,000円/株 | |
| 第10回新株予約権(第2次) | 2022年9月16日 | 税制適格SO | 7名 | 1,000円/株 | |
| 第11回新株予約権(第1次) | 2022年9月16日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 1名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第10回新株予約権(第3次) | 2023年2月17日 | 税制適格SO | 47名 | 1,000円/株 | |
| 第11回新株予約権(第2次) | 2023年2月17日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 1名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第12回新株予約権(第1次) | 2023年9月15日 | 税制適格SO | 30名 | 1,000円/株 | |
| 第13回新株予約権(第1次) | 2023年9月15日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 2名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第12回新株予約権(第2次) | 2024年3月15日 | 税制適格SO | 40名 | 1,000円/株 | |
| 第13回新株予約権(第2次) | 2024年3月15日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 3名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第12回新株予約権(第3次) | 2024年5月17日 | 税制適格SO | 11名 | 1,000円/株 | |
| 第14回新株予約権 | 2024年9月29日 | 税制適格SO | 1名 | 60円/株 | 取締役向け・継続勤務/相続条件は定めなし |
| 第15回新株予約権 | 2024年9月29日 | 税制適格SO | 2名 | 400円/株 | 取締役向け・継続勤務/相続条件は定めなし |
| 第16回新株予約権(第1次) | 2024年10月18日 | 税制適格SO | 55名 | 1,000円/株 | |
| 第16回新株予約権(第2次) | 2025年2月20日 | 税制適格SO | 1名 | 1,000円/株 | |
| 第16回新株予約権(第3次) | 2025年3月21日 | 税制適格SO | 41名 | 1,000円/株 | |
| 第16回新株予約権(第4次) | 2025年4月18日 | 税制適格SO | 2名 | 1,000円/株 | |
| 第17回新株予約権(第2次) | 2025年4月18日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 3名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
| 第16回新株予約権(第5次) | 2025年8月7日 | 税制適格SO | 40名 | 1,000円/株 | |
| 第18回新株予約権(第1次) | 2026年2月2日 | 税制適格SO | 76名 | 1,000円/株 | |
| 第20回新株予約権(第1次) | 2026年2月2日 | 税制非適格SO | 2名 | 1,000円/株 | 取締役・執行役員向け(注1) |
| 第18回新株予約権(第2次) | 2026年4月13日 | 税制適格SO | 39名 | 1,000円/株 | |
| 第19回新株予約権(第1次) | 2026年4月13日 | 税制非適格SO (USD建て無償SO) | 1名 | 7.6米ドル/株 | 米国子会社向け・USD建て |
(注1)第20回新株予約権(第1次)は、権利行使期間の満了日が決議日から10年を超えており、税制適格ストックオプションの権利行使期間要件を満たさないため、税制非適格ストックオプションと考えられます。なお、退職による無償取得条項が設けられていない点は、税制適格要件とは直接関係しませんが、他の回とは異なる特徴的な設計です(詳細は後述)。
※上表の「SO種類」欄は、Ⅰの部に記載された付与対象者の区分・権利行使期間・権利行使価額等から筆者が推定したものであり、開示資料上で税制適格・税制非適格が明示されているものではありません。
※上表では第6回(第2次)および第17回(第1次)が欠番となっていますが、これは誤植ではありません。Ⅰの部には「退職等の理由により権利を喪失した者につきましては、記載しておりません」との注記があり、両回は退職等による権利喪失で全数が消滅し、上場申請時点では残存していないものと考えられます。
上記のうち、7件(第9回、第11回第1次・第2次、第13回第1次・第2次、第17回第2次、第19回第1次)は、米ドル建てで権利行使価額が設定された税制非適格ストックオプションであり、前述のとおり米国連結子会社TierIV North America Inc.の役職員向けと考えられます。また、第4回(第1次・第2次)は社外協力者向けの税制非適格ストックオプション、第14回・第15回・第20回(第1次)は取締役・執行役員向けの例外的な条件となっており、詳細は後述します。
発行回数・潜在株式数の推移
発行年ごとの発行件数と、累計の潜在株式数の推移は次のとおりです。

発行年別に見ると、2017年から2026年まで毎年最低でも1件が発行されており、最も多い2017年と2024年は年6件にのぼります。累計の潜在株式数も右肩上がりで増加しており、継続的な発行が制度として定着していることがうかがえます。
権利行使価額について
円建てのストックオプションについて、権利行使価額(株式分割等遡及後、上場申請時点ベース)の推移を見ると、次のとおりです。

権利行使価額は、株式分割調整後のベースで、2017年の2円/株から2022年以降の1,000円/株へと500倍に上昇しています。これは、発行時期ごとの株式価値の上昇を反映したものと考えられます。
なお例外的に、2024年9月に決議された第14回新株予約権(60円/株)・第15回新株予約権(400円/株)は、同時期の他の回(1,000円/株水準)と比較して低い水準に設定されています。両回はいずれも取締役向けの発行です。後述のとおり、継続勤務条件・相続人行使条件のいずれについても定めがないという他回とは異なる設計になっており、特定の取締役に対して、他回とは異なる条件で設計されたものとみられます。権利行使価額の算定根拠そのものは公開資料から確認できません。
もっとも、この権利行使価額の水準については、税制適格ストックオプションの権利行使価額要件との関係で、いわゆるセーフハーバー・ルールを活用している可能性が考えられます。税制適格ストックオプションでは、権利行使価額を「契約締結時における1株当たりの価額」以上とする必要がありますが、非上場株式については、租税特別措置法関係通達29の2-1により、財産評価基本通達に準じて算定した価額によることが認められています。
同族株主以外の少数株主に該当する場合には配当還元方式による評価が可能となり、DCF法により算定した株式価値と比較して大幅に低い水準となることがあります。第14回・第15回はいずれも付与人数が1名・2名と限定されており、権利行使期間も2026年9月30日から2034年9月29日までと決議日後2年経過日から10年経過日までの範囲に収まっていることから、税制適格ストックオプションとしたうえで、権利行使価額についてセーフハーバー・ルールに基づく価額を採用したものと推測されます。もっとも、同日決議でありながら、第14回が60円/株、第15回が400円/株と2つの水準に分かれている点は、セーフハーバー・ルールのみでは説明が難しい面もあります。両者はそれぞれ第3回(60円/株)、第5回・第6回(400円/株)と同一の水準であることから、過去の発行回と同一の条件で追加的に付与した可能性も考えられます。
セーフハーバー・ルールの詳細は「税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー」もあわせてご覧ください。
海外子会社向け・USD建てのストックオプション
ティアフォーは米国に連結子会社TierIV North America Inc.を有しており、同社の役員・従業員向けに、第9回、第11回(第1次・第2次)、第13回(第1次・第2次)、第17回(第2次)、第19回(第1次)の計7件について、権利行使価額を米ドル建てで設定しています。
権利行使価額は7件すべてが38米ドル/株(株式分割等遡及後は7.6米ドル/株)で、2021年から2026年まで一貫して同額に据え置かれています。同じ時期に、円建ての権利行使価額は800円から1,000円へと段階的に引き上げられました。
もっとも、米ドル建ての金額を各時点の為替相場で円換算すると、円建ての水準とおおむね整合しています。第9回を発行した2021年4月時点(1米ドル=109円前後)では、7.6米ドルは約830円となり、同時期の円建て800円とほぼ同水準です。直近の第19回(第1次)を発行した2026年4月時点(1米ドル=158円前後)では約1,200円となり、同時期の円建て1,000円をやや上回る水準にとどまります。米ドル建ての名目額は据え置かれているものの、円安の進行により、円換算ベースでは円建ての引上げ(800円→1,000円)と概ね同じ方向に動いており、両者が大きく乖離しているわけではない点に留意が必要です。なお、具体的な算定根拠については、公開資料からは確認できません。
海外子会社の役職員に対しては、給与や税制が現地通貨・現地制度に基づくことが一般的であるため、日本円ではなく現地通貨(本事例では米ドル)建てで権利行使価額を設定する例が見られます。海外拠点を持つスタートアップがストックオプション制度を設計する際の参考事例といえます。
権利行使条件の4類型(退職・死亡時の取扱い比較)
退職・死亡時の取扱いによる4類型
同社の権利行使条件を確認すると、発行時期によって、また付与対象者の属性によって、設計方針を明確に使い分けていることが分かります。Ⅰの部に記載された各回の「新株予約権の行使の条件」を整理すると、大きく次の4類型に分けられます。
第一に、2017年の第1回から2020年の第7回(第4次)までに発行された回のうち、社外協力者向けの第4回を除く回(初期型)では、「当社又はその子会社の取締役、監査役、執行役員または使用人のいずれでもなくなった場合」に無償取得(会社が新株予約権を無償で取得する=実質的に権利消滅)とされています。相続人行使も不可で、権利行使期間満了前に死亡した場合は無償取得となります。退職・死亡のいずれでも直ちに権利が失われる、厳格な設計です。
第二に、2021年4月に決議された第8回(第1次)以降、この条件は大きく緩和されています。役務提供者の地位を失った場合は「地位を失った後3ヶ月が経過した時点で無償取得」、死亡または障害を理由に退職した場合は「地位を失った後12ヶ月が経過した時点で無償取得」とされ、それぞれ3ヶ月・12ヶ月の猶予期間内であれば権利行使が可能な設計に変わりました。本シリーズの中でも、退職後の行使を認める設計への切替時期がこれほど明確に読み取れる事例は多くありません。
なお、Ⅰの部の新株予約権の状況の注記では、死亡の場合について「その者の相続人は、被相続人が死亡した日の翌日から12ヶ月を経過する日までの間に限り、新株予約権を行使することができる」と明記されています。相続人による行使を一切認めない初期型との違いが明確です。
第三に、社外協力者向けに発行された第4回(第1次・第2次)では、そもそも継続勤務条件が設けられていません。
第四に、取締役・執行役員向けの第14回・第15回(2024年9月)および第20回(第1次)(2026年2月)では、退職による無償取得条項自体が定められていません。なお死亡時の取扱いについては、第14回・第15回では無償取得条項が置かれていない一方、第20回(第1次)では死亡退職後12ヶ月経過で無償取得とされており、同じ役員向けでも設計が分かれています。
以上を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 対象回(決議年月) | 退職時の取扱い | 死亡時の取扱い |
|---|---|---|---|
| 初期型 | 第1回~第3回、第5回~第7回(2017年6月~2020年12月) | 役職員でなくなった時点で無償取得(権利消滅) | 権利行使期間満了前に死亡した場合は無償取得(相続人行使不可) |
| 社外協力者型 | 第4回(第1次・第2次)(2017年11月・12月) | 定めなし(社外協力者のため) | 権利行使期間満了前に死亡した場合は無償取得 |
| 緩和型 | 第8回(第1次)~第13回、第16回~第19回(2021年4月~2026年4月) | 地位を失った後3ヶ月経過で無償取得(3ヶ月間は行使可) | 死亡・障害による退職後12ヶ月経過で無償取得(12ヶ月間は行使可) |
| 役員型 | 第14回・第15回(2024年9月)、第20回(第1次)(2026年2月) | 退職による無償取得条項なし(退職後も権利は存続) | 第14回・第15回は死亡による無償取得条項なし/第20回(第1次)は死亡退職後12ヶ月経過で無償取得 |
2021年4月を境として、退職後・死亡後にも一定期間の権利行使を認める設計へ変更されており、付与対象者にとってより柔軟な条件となっています。
社外協力者向けの条件設定
第4回新株予約権(第1次・第2次)は社外協力者向けに発行されており、継続勤務条件が「無(社外協力者のため継続勤務条件なし)」とされています。社内の役職員とは異なる属性の付与対象者に応じて、条件を個別に設計している例です。
役員向けの特徴的な条件(第14回・第15回・第20回)
前述のとおり、2024年9月に決議された第14回・第15回新株予約権は取締役向けの発行ですが、継続勤務条件・相続人行使条件のいずれも定められていません。さらに注目されるのが、2026年2月2日に同日決議された第18回(第1次)と第20回(第1次)です。従業員74名・執行役員2名を対象とする第18回(第1次)には3ヶ月・12ヶ月の猶予規定が置かれている一方、取締役1名・執行役員1名を対象とする第20回(第1次)には退職による無償取得条項が置かれていません。同じ日の取締役会決議でありながら、付与対象者の属性に応じて権利行使条件を作り分けていることが確認できます。
また、両回は権利行使期間にも差が設けられています。第18回(第1次)の権利行使期間が2028年2月3日から2036年2月2日まで(決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで)であるのに対し、第20回(第1次)は2028年2月3日から2037年2月2日までと、満了日が1年長く設定されています。
この結果、第20回(第1次)は税制適格ストックオプションの権利行使期間要件を満たさず、税制非適格ストックオプションとなります。同日決議・同一の権利行使価額(1,000円/株)でありながら、役員向けには権利行使期間を長く確保し、退職による失効条項も設けていない点からは、税制上の優遇よりも権利行使の自由度を優先した設計と読み取ることができます。税制適格要件は、権利行使期間の設定ひとつで満たせなくなる点に注意が必要です。
上場条件
公開資料で確認できる各回について、上場条件には「東証等への上場後6ヶ月経過」または「支配権移転取引等の承認」によって権利行使が可能となる規定が設けられています。IPOだけでなく、支配権移転取引等によるM&Aにも対応できる条件が、設立から1年半ほどの2017年に発行された第1回新株予約権の時点から設定されていたことが分かります。
もっとも、行使開始時期を「上場後6ヶ月経過」とする設計は、権利行使期間の満了日との関係で注意が必要です。同社の第1回・第2回新株予約権は、権利行使期間の満了日が2027年6月23日です。上場日(2026年7月22日)から6ヶ月が経過する2027年1月22日以降でなければ行使できないため、実際に行使できる期間は約5ヶ月にとどまります。
決議日から10年という税制適格ストックオプションの権利行使期間の上限がある中で、上場までに長期間を要した場合、初期に発行したストックオプションほど実質的な行使可能期間が短くなります。IPOまでの期間が長期化する可能性がある企業では、この点を織り込んだ設計が重要になります。
付与対象者別付与状況
本項目については、開示情報の制約により、他の回で実施している属性別(代表取締役/取締役/従業員等)の詳細分析を行うことができません。理由は以下のとおりです。
Ⅰの部の「第四部【株式公開情報】第3【株主の状況】」には、株主・新株予約権者の氏名又は名称、所有株式数、うち潜在株式数等が記載されていますが、氏名が明らかにされているのは大株主上位10名等の特別利害関係者や役員等に限られます。代表取締役CEO加藤真平氏、取締役CFO阪口聡志氏などの氏名は確認できるものの、それ以外の新株予約権者は「その他の株主393名」として一括で集計されており、各保有者が取締役・執行役員・従業員のいずれに該当するかは開示されていません。
したがって、属性別の付与数・付与比率、および「在職者に対する付与割合」の分析は、本事例では実施できません。あらかじめご了承ください。
なお、開示情報から確認できる範囲では、潜在株式数の合計は6,133,000株(希薄化後ベースで発行済株式総数の11.7%)です。
393名の新株予約権者が「その他の株主」として一括開示されていることから、多数の新株予約権者が存在することは確認できます。ただし、その属性別の内訳までは開示されていません。
なお、「その他の株主393名」が保有する潜在株式数は2,185,500株であり、潜在株式数全体(6,133,000株)の約35.6%にとどまります。残る約64%は、氏名が開示されている役員・特別利害関係者等が保有していることになります。属性別の内訳までは開示されていないものの、潜在株式の相当部分を、氏名が開示されている役員・特別利害関係者等が保有していることは確認できます。
また、開示された新株予約権者には、国立大学法人東京大学および国立大学法人名古屋大学がそれぞれ100,000株分(合計200,000株、潜在株式数の3.3%)含まれています。Autowareが名古屋大学の研究室で開発されたことを踏まえると、その開発に関係する東京大学・名古屋大学に対してもストックオプションを付与している点は、大学発スタートアップの制度設計として参考になります。
ティアフォーのストックオプションの特徴
同社のストックオプションの特徴は以下のとおりです。
1.付与対象者の属性に合わせた多様な条件設定
(海外子会社役職員向けUSD建て、社外協力者向け、税制適格SO・税制非適格SOの使い分け、2021年4月を境とする権利行使条件の見直し)
2.約9年間で通算40件におよぶ高頻度発行
(2017年から2026年まで毎年欠かさず発行)
3.IPO・M&A双方を見据えた条件設計
(第1回新株予約権から支配権移転取引等による行使を規定)
1.付与対象者の属性に合わせた多様な条件設定
同社のストックオプション設計で特に注目される点は、付与対象者の属性に応じてきめ細かく条件を設定していることです。
第一に、米国子会社TierIV North America Inc.の役員・従業員向けには、7件にわたり権利行使価額を米ドル建てで設定しています(38米ドル/株、株式分割等遡及後7.6米ドル/株)。海外に事業拠点・子会社を持つスタートアップでは、税務・為替・現地の法制度への配慮が必要になります。そのため、海外子会社の役職員に対しては、現地通貨建てでの権利行使価額の設定を検討する余地があり、本事例はその具体的な設計例として参考になります。なお、非居住者である海外子会社の役職員は日本の税制適格ストックオプションの適用対象とならないため、これら7件はいずれも税制非適格ストックオプションとなります。
第二に、第4回新株予約権では社外協力者に対して、継続勤務条件を設けない発行を行っています。社内の役職員とは異なり、雇用契約に基づかない社外協力者については、継続勤務を条件とすることが実態にそぐわないため、対象者の属性に応じて条件を柔軟に調整しています。社外協力者は同社またはその子会社の取締役・執行役・使用人のいずれにも該当しないため、税制適格ストックオプションの対象外となる点にも留意が必要です。
第三に、2021年4月に決議された第8回(第1次)以降、退職者・死亡時の取扱いについて猶予期間を設ける方向へと条件を見直しています。初期型(退職・死亡により直ちに無償取得=権利消滅)から、退職後3ヶ月・死亡または障害による退職後12ヶ月の行使猶予を認める設計へと転換しており、付与対象者にとってより柔軟な条件となっています。
このように、同社は付与対象者の属性(国内従業員/海外子会社役職員/社外協力者/取締役)や発行時期に応じて、権利行使条件・権利行使価額・権利行使期間を作り分けています。その結果として税制適格・税制非適格を使い分けている設計は、事業のグローバル化や人材の多様化が進むスタートアップにとって、大いに参考になる事例です。
2.約9年間で通算40件におよぶ高頻度発行
同社は設立翌々年の2017年から2026年まで、10年連続でストックオプションを発行しています。これほど長期間・高頻度にわたり発行を継続している事例は、本シリーズでも稀です。
継続的に発行することのメリットとしては、新規入社者への公平な付与機会の確保、企業価値の向上を反映した権利行使価額の更新、フェーズに応じた柔軟な制度運用等が挙げられます。一方で、発行の都度、株価算定や取締役会決議、契約書の整備等の事務負担が発生するため、長期にわたり継続するには制度運用体制の確立が欠かせません。
3.IPO・M&A双方を見据えた条件設計
全回を通じて、上場条件には「支配権移転取引等の承認」によっても行使可能となる規定が含まれています。設立から間もない2017年の第1回新株予約権の時点からこの設計が採用されている点は注目に値します。スタートアップの出口戦略はIPOに限らず、M&Aも現実的な選択肢となります。当初からその双方に対応できる条件が設定されていたことが分かります。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、その後の従業員モチベーションやIPO審査に直接影響します。制度発行後の変更は容易ではないため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。
とりわけ、海外子会社の役職員向けにUSD建て等の外貨建てストックオプションを設計する場合や、有償ストックオプションを採用する場合には注意が必要です。公正価値評価・税務・会計・会社法・現地法制度を横断した検討が求められるため、制度設計前の専門家への相談が重要になります。また本事例のように、権利行使期間の設定ひとつで税制適格要件を満たさなくなることもあります。税制適格・税制非適格のいずれを選択するのかを、設計段階で明確にしておくことが欠かせません。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
・2025年有償SO設計実績19件
Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
有償ストックオプション評価・設計支援サービス
を実施しています。
≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
≫税制適格ストックオプション設計・評価サービス
≫有償ストックオプション設計・評価サービス
30分無料相談を実施しております
ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
- 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
- 「海外子会社の役職員へのストックオプション付与をどう設計すべきか」
- 「退職者にも権利行使可能とするべきか」
など、初回相談で整理可能です。
制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。
次回第20回もお楽しみに(対象企業は追ってお知らせいたします)。
前回の事例は「新規IPO企業のストックオプション活用状況⑱チャットプラス【従業員付与率77%】」をご覧ください。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。こちらもあわせてご覧ください。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項 →こちら
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。



