新規IPO企業のストックオプション活用状況 2026⑥セイワホールディングス【子会社従業員への付与】【IFRS】【配当還元方式】

新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第6回をご覧頂きありがとうございます。

ストックオプションの制度設計においては、
「プールは何%が適切か」「役員と従業員の配分はどうするか」
といったご相談を多くいただきます。

本コラムでは、IPO企業の実例をもとに、
ストックオプションの設計・活用実態を解説します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではなく、実務適用にあたっては個別に専門家へご相談ください。

2026年第6回目の事例は、株式会社セイワホールディングスです。

この度の上場を心よりお祝い申し上げます。

会社概要

上場申請書上の概要は以下の通りです。

社名株式会社セイワホールディングス
コード523A
業種金属製品
市場東京証券取引所グロース市場
主幹事SBI証券      
承認日2026/2/20
公開日2026/3/27
事業内容製造業の事業承継推進、プラットフォーム化によるグループ経営
会社設立年月日2021年1月4日
監査法人仰星監査法人
初値1,220円
公開価格1,250円
時価総額(公開)23,506 百万円
時価総額(初値)22,942 百万円

2021年1月設立ですが、前身であるセイワ工業は1995年12月設立です。
2019年からM&Aにより製造業を傘下に収める、ロールアップ戦略で拡大してIPOを実現させました。

上場申請時には15社の製造業者を傘下に有する持株会社という特徴を有しております。

初値は公開価格を下回る結果となりました。

ストックオプション導入状況

当社はストックオプションを導入しており、IPO企業としては一般的な設計を採用しています。

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース7.89%です。

IPO企業におけるストックオプションの潜在株比率は一般的に10%前後とされており、本事例はそれを下回る水準です。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

ストックオプションの発行回数、種類

発行回数は全7回です。

ストックオプション発行内容

ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。

読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。

全体は2つの表で構成されています。

回号第1回第2回第3回第4回
ストックオプション種類(執筆者推計)税制適格ストックオプション有償ストックオプション税制適格ストックオプション有償ストックオプション
決議年月日2021年3月25日2021年3月25日2022年12月2日2022年12月2日
付与対象者の区分及び人数(名)当社取締役 3社外協力者 1当社取締役  3
当社従業員 12
社外協力者 2
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
1,5253053,1701,500(注)1
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  1,525[152,500]普通株式  305[30,500]普通株式  3,170[317,000]普通株式  1,500[150,000]
権利行使価額(円)
[   ]:上場申請時価額
471[5] 1,584[16]1,712[18]12,027[121]
新株予約権の行使期間自  2023年4月 1日
至  2031年3月20日
自  2025年1月 1日
至  2027年3月31日
自  2025年 1月1日
至  2032年12月1日
自  2025年1月 1日
至  2027年3月31日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)
[   ]:上場申請時金額
発行価格    471[5]
資本組入額  236[3]
発行価格    2,005[20.21]
資本組入額  1,003[11]
発行価格    1,712[18]
資本組入額    856[9]
発行価格    15,484[155.57]
資本組入額   7,742[78]
新株予約権の行使の条件    
①継続勤務条件条件付なし条件付なし
②上場条件ありありありあり
③相続人行使条件なしなしなしなし
⑤その他なしなし上場後5年ベスティングなし

第1回・第2回および第3回・第4回はいずれも同時に決議されていますが、税制適格ストックオプションと社外協力者向けの有償ストックオプションと推計されます。

回号第5回第6回第7回
ストックオプション種類(執筆者推計)税制適格ストックオプション
(一部税制非適格ストックオプション)
税制適格ストックオプション
(一部税制非適格ストックオプション)
税制適格ストックオプション
(一部税制非適格ストックオプション)
決議年月日2024年1月31日2024年9月11日2025年11月19日
付与対象者の区分及び人数(名)当社取締役       1
当社監査役       1
当社従業員     21
当社子会社取締役 13
当社子会社従業員 19
当社取締役      1
当社監査役      1
当社従業員    20
当社子会社取締役    9
当社子会社従業員  9
当社取締役(監査等委員である取締役) 1
当社従業員    16
当社子会社取締役     3
当社子会社従業員     7
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
4,477[4,447]1,420568
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  4,477[444,700]普通株式  1,420[142,000]普通株式  568[56,800]
権利行使価額(円)
[   ]:上場申請時価額
1,712[18]1,712[18]3,685[37]
新株予約権の行使期間自  2026年 2月 1日
至  2033年12月31日
自  2026年10月 1日
至  2033年12月29日
自  2027年12月 1日
至  2033年12月29日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)
[   ]:上場申請時金額
発行価格    1,712[18]
資本組入額    856[9]
発行価格    1,712[18]
資本組入額    856[9]
発行価格    3,685[37]
資本組入額  1,843[19]
新株予約権の行使の条件   
①継続勤務条件条件付条件付条件付
②上場条件ありありあり
③相続人行使条件なしなしなし
⑤その他上場後3年ベスティング上場後3年ベスティング上場後3年ベスティング

第5回~第7回はいずれも税制適格ストックオプション、ただし監査役、監査等委員である取締役向けは税制非適格ストックオプションと推計されます。

権利行使価額について

複数回発行されているため、一覧表で整理します。

回号第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回
権利行使価額(円)
[   ]:上場申請時価額
471
[5] 
1,584
[16]
1,712
[18]
12,027
[121]
1,712
[18]
1,712
[18]
3,685
[37]

有償ストックオプションの行使価額

特徴的なのは、同タイミングで発行された第1回・第2回、および第3回・第4回のいずれにおいても行使価額が相違している点です。

いずれも税制適格ストックオプション(第1回、第3回)よりも有償ストックオプション(第2回、第4回)の行使価額が高くなっています。

その要因としては、
・社外協力者に対しては取締役・従業員よりも条件面を劣後させた
・付与時に支払うオプション対価を定額に設定するため行使価額をあえて高くした
といった要因が想定されます。

特例的評価(配当還元方式)によるセーフハーバールール

第5回から第7回までは上場直前期以前の2期に発行されたストックオプションのため開示対象になっています。

開示対象のストックオプションについては上場申請書の第四部「株式公開情報」において、より詳細な内容が開示されています。

当該開示において、上記第5回から第7回のストックオプションの発行価格(権利行使価額)について以下のように記載されています。

発行価格は、配当還元方式により算出した価格を総合的に勘案して、決定しております。

上記記載から、第5回から第7回についてはセーフハーバールールを利用して配当還元方式による算定株価を権利行使価額としたものと推定されます。

セーフハーバールールは、税制適格ストックオプションにおける権利行使価額の設定に関して、一定の条件下で税務上問題とならない価格の目安として用いられるものです。

セーフハーバールールを利用する場合、特例方式による純資産価額法で算定した株価が0円になるケースが多いとお考えの方も多いかと思います。

しかし当社は以下の理由により特例方式による純資産価額が0円とならないため、配当還元方式を採用したものと推定されます。
・当社が早期に黒字化しており純資産価額が高額になっていたこと
・当社が優先株式による資金調達を実施していないため、特例方式のメリット(純資産価額から優先分配相当額を控除可能)を享受できないこと

第3回については上場申請書上の情報からは権利行使価額決定方法は不明ですが、第5回と同金額の行使価額が設定されているため、同様の決定方式が採用された可能性があると推定されます。

セーフハーバールールを含めた税制適格ストックオプションの権利行使価額について詳細に知りたい方は、スタートアップのためのストックオプション入門コラム第4回「税制適格ストックオプションの権利行使価額とセーフハーバールール」をご覧ください。

権利行使条件について

継続勤務条件(社外協力者向け)、上場条件、相続人行使条件については全回号で統一された条件となっています。

継続勤務条件(退職者行使)

社外協力者向けの第2回・第4回以外は全て条件付で付与されています。

この後ご説明しますが、株主の状況には元従業員、子会社元従業員も記載されており、実際に退職者に対する行使を容認している事例も確認されています。

権利確定期間(ベスティング期間)

ストックオプションにおけるベスティング(権利確定)とは、一定期間の勤務等を条件として権利が段階的に確定する仕組みであり、IPO準備企業における人材リテンション設計の中核となる重要な要素です。

たとえば「4年間で毎年25%ずつ権利確定する」という設計であれば、1年在籍すると25%、2年で50%、3年で75%、4年で100%の権利が確定します。

ベスティング条件を設けない場合、権利行使期間に入ると付与されたSOの全量を一斉に行使できる状態になります。
この場合、付与対象者が行使と同時に退職するという事態が生じやすく、リテンション効果が十分に機能しない可能性があります。
ベスティングはこうした問題を回避するための設計です。

当社では第1回はベスティングなし(開示上は)、第2回は上場後5年間ベスティング、第5回~第7回は上場後3年間のベスティングが設定されています。

付与対象者別付与状況

はじめに補足事項をお伝えします。

この章は上場申請書の【株主の状況】欄記載事項から作成しております。

しかし当社の場合は株主が多数存在するため従業員株主の人数および持株比率の詳細は把握できません。

多くの項目については推計も不可能な状況になっており、開示情報の制約上、詳細な分析は困難です。

階層別の付与数状況

取締役・従業員等のうち明細の判明している付与人数、個数、持ち株比率、一人当たりの個数は以下の通りです。

人数株数持株比率1人当たり株数1人当たり持株比率
監査等委員でない取締役2445,0002.72%222,5001.36%
監査等委員である取締役149,4000.30%49,4000.30%
従業員15267,9001.66%17,8600.11%
元役員161,0000.37%61,0000.37%
元従業員161,0000.37%61,0000.37%
子会社の代表取締役1122,0000.74%122,0000.74%
子会社の取締役1044,5000.26%4,4500.03%
子会社の従業員1244,5000.27%3,7080.02%
子会社の元役員3154,0000.94%51,3330.31%
その他3442,7000.26%1,2560.01%
 801,292,0007.89%  

傘下に15社を有する持株会社のため、子会社の取締役、従業員にも付与しているのが分かります。

なお、当社の取締役、従業員が子会社の取締役を兼務している場合がありましたが、全て当社の取締役、従業員として集計しておりダブルカウントはしておりません。

また継続勤務条件が条件付となっていたこともあり、元取締役、元従業員も含まれています。

付与のばらつき状況

開示情報の制約上、全体像の把握は困難です。

在職者に対する付与割合

「従業員全員にストックオプションを付与しなければいけないですか?」実務上よく受けるご質問です。

在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。

総数株主の状況記載人数付与割合
当社の監査等委員でない取締役22100%
当社の監査等委員である取締役3133%
当社の従業員3415※44%

※判明している人数のみ記載

その他の34人の属性が分からないため、判明している人数のみ記載しております。

特に従業員は34名の中に多く含まれていると想定されますので、実際の付与率はもっと高いものと推定されます。

当社のストックオプションの特徴

当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。

子会社取締役・従業員に対するストックオプション付与

配当還元方式によるセーフハーバールール適用

IFRS適用による株式報酬費用計上

子会社取締役・従業員に対するストックオプション付与

製造会社をM&Aにより傘下に収めて成長するロールアップ戦略が当社の戦略です。

その戦略を反映して、子会社取締役、従業員各10名以上に親会社のストックオプションを付与している点が、当社の大きな特徴です(「その他」に含まれる人数も含めるとさらに多数と推定されます)。

M&Aにより傘下に収めた会社メンバーに対するインセンティブとともに一体感を高める巧みな戦略だと感じます。

配当還元方式によるセーフハーバールール適用

セーフハーバールールを利用している事例は過去にも紹介しておりますが、いずれも特例方式による純資産価額法での算定と推定される事例でした。

当社は上述の通り
・第三者割当増資は全て普通株式(優先株式は発行していない)
・早期に黒字化し純資産価額が高額になっている
という特徴を有していることから配当還元方式を採用したと推定されます。

付与対象者に少しでもメリットを多く与えようとする方針が感じられます。

IFRS適用による株式報酬費用計上

当社は会計基準に国際財務報告基準(以下、IFRS)を採用しております。

IFRSは、企業の財務情報を国際的に比較可能とするための会計基準で、原則主義に基づき投資家への有用な情報開示を重視しています。現在、国際会計基準審議会(IASB)が策定しており、欧州連合をはじめ140以上の国・地域で上場企業に適用されるなど、世界的に広く採用されています。

日本でも任意適用が進展しており、2026年3月時点で、上場企業のうち合計311社(適用済295社+適用決定16社)が採用しています(日本取引所グループ公表)。

ストックオプションに関するIFRSの特徴は日本基準では認められている非上場企業の特例処理が認められておらず、上場企業と同様の原則処理が必要となる点です。

このため上場申請書にもIFRS適用に関する調整項目として、株式報酬に関する以下の記載があります。

日本基準では、当社が未公開企業の時に発行したストック・オプションについて、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理をし
ておりましたが、IFRSでは、公正な評価単価に基づいて会計処理を行っております。

非上場企業でもオプションの公正価値評価を実施して株式報酬費用を計上する会社もあるという事例です。

非上場企業の特例処理について詳しく知りたい方は、スタートアップのためのストックオプション入門コラム第7回「ストックオプション発行会社の会計・税務処理完全ガイド」をご覧ください。

まとめ

本事例は、以下の点で特徴を有する、示唆に富む事例といえます。

・子会社取締役・従業員に対するストックオプション付与

・配当還元方式によるセーフハーバールール適用

・IFRS適用

第7回はビタブリッドジャパンの予定です。

非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に報酬制度としてのストックオプションの位置付けは効果発現の成否を左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所

・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績

・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与

・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験

Gemstone石割公認会計士事務所では、
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

  • 貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
  • 税制適格SOが使えない場合の、有償SO・税制非適格SOの選択肢比較
  • 有償ストックオプションの評価額(公正価値)の考え方と実務上の留意点
  • 権利行使価額設定のための株価算定
  • 現時点で取るべき次の実務ステップの整理

制度設計に着手する前のご相談いただくことをおすすめします。

スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格ストックオプションとは→こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務→こちら

8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)

9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)

10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

こちらもご覧ください。

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。