アイ・グリッド・ソリューションズのストックオプション事例|有償・信託型・税制適格SO併用・上場条件なし【2026年IPO㉑】

アイ・グリッド・ソリューションズ(603A)のストックオプション事例

新規IPO企業のストックオプション事例コラム第21回をご覧いただきありがとうございます。

IPO準備企業では、次のような疑問が多くあります。

  • 税制適格SO・有償SO・信託型SOを組み合わせて発行してよいのか
  • ストックオプションは全役職員に付与すべきか、限定的な付与でもよいのか
  • 上場条件を設けず、業績条件で権利行使可能とする設計は認められるのか

本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

第21回の事例は、株式会社アイ・グリッド・ソリューションズです。

この度の上場を心よりお祝い申し上げます。

【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。

会社概要

新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Ⅰの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下のとおりです。

社名株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ
コード603A
業種電気・ガス業
市場東京証券取引所グロース市場
主幹事野村證券
上場承認日2026年6月25日
上場日2026年7月29日
事業内容・分散型エネルギー資源等を統合活用可能なプラットフォームの開発・運営
・オンサイトソーラー発電所の開発・運営及びそれらの支援・コンサルティングサービス
・蓄電池やEV関連サービスを含むGX(グリーントランスフォーメーション)促進に係る各種サービス提供
・再生可能エネルギー資源の効率的な使用/循環を目的としたエナジートレーディングサービス
会社設立年月日2004年2月9日
監査法人EY新日本有限責任監査法人
公開価格770円
初値953円
時価総額(公開)26,795百万円
時価総額(初値)33,163百万円

株式会社アイ・グリッド・ソリューションズは、企業の施設屋根等を活用したオンサイトソーラー発電(自家消費型太陽光)と、分散型エネルギーリソースを統合活用するデータプラットフォームを組み合わせ、GX(グリーントランスフォーメーション)関連サービスを展開する企業です。

2004年2月9日の設立から2026年7月の上場まで、約22年5か月を要しています。本シリーズで取り上げてきた設立から5〜10年で上場するスタートアップとは異なり、長い事業展開期間を経てのIPOとなりました。

公開価格770円に対し初値は953円(騰落率+23.8%)となり、初値ベースの時価総額は331億円です。

ストックオプション導入状況

当社は新株予約権を第6回から第8回まで計3本発行しており、いずれも上場申請時点において残存しています。

なお、当社は2025年1月10日付で普通株式1株につき5,000株の株式分割を実施しています。本稿の株数・価額は、特に断りのない限り分割後ベースで記載しています。

また、有価証券届出書(Ⅰの部)の新株予約権の状況は最近事業年度の末日(2025年6月30日現在)時点の記載であり、本書提出日の前月末(2026年5月31日現在)においても変更はありません。そのため、他社事例で見られる〔 〕内への上場申請時数値の併記はありません。

以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

本稿では、既発行株式数に新株予約権による潜在株式数を加えた株式数を分母とする「希薄化後ベース」で計算すると、新株予約権による潜在株式の割合は12.03%です(4,390,000株÷36,500,000株)。

なお、有価証券届出書の「事業等のリスク」には13.7%と記載されていますが、これは希薄化前ベース(潜在株式4,390,000株÷発行済株式数32,110,000株)による数値です。

IPO準備企業では、上場前の段階で一定規模のストックオプションを発行する事例が多く見られます。本シリーズでこれまで取り上げた事例と比較すると、本事例の潜在株比率12.03%は、比較的高い水準です。

ただし、後述のとおり潜在株式の約26%は信託型ストックオプションの受託者名義分であり、上場申請時点では受益者に交付されていません。実際に付与を受けている役職員の人数は限定的である点が本事例の特徴です。

回号別の内訳は以下のとおりです。

回号潜在株式数構成比潜在株比率(希薄化後)
第6回(有償SO)2,000,000株45.6%5.48%
第7回(信託型SO)1,145,000株26.1%3.14%
第8回(税制適格SO)1,245,000株28.4%3.41%
合計4,390,000株100.0%12.03%

なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

ストックオプションの発行回数、種類

発行本数は第6回から第8回までの計3本であり、上場申請時点でいずれも残存しています。

第6回は有償ストックオプション(以下「有償SO」)、第7回は時価発行新株予約権信託®を用いた信託型ストックオプション(以下「信託型SO」)、第8回は税制適格ストックオプション(以下「税制適格SO」)と推定されます(執筆者推計)。

第6回・第7回については、有価証券届出書に新株予約権1個につき1.5円で有償発行した旨の記載があることから、対価の払込みを伴うストックオプションと判断しました。このうち第7回は信託の仕組みを用いているため、本稿では信託型SOとして整理しています。

第8回については有償発行の記載がなく、行使期間も付与決議日(2023年11月13日)から2年経過後、10年以内に設定されていることから、税制適格SOとして設計されたものと推定されます。

ストックオプション発行内容

ストックオプションの内容に関する開示資料は以下のとおりです。

読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。

回号第6回新株予約権第7回新株予約権
(時価発行新株予約権信託®/信託型)
第8回新株予約権
ストックオプション種類
(執筆者推計)
有償ストックオプション信託型ストックオプション税制適格ストックオプション
決議年月日
(株主総会決議日)
2019年10月25日2019年10月25日2023年11月13日
付与対象者の区分及び人数(名)当社取締役 3
(本書提出日現在:当社取締役2名、当社従業員1名)
当該新株予約権者の受託者 1
受託者:コタエル信託株式会社
(原受託者:税理士 西川正起氏、2023年12月25日付で移管)
当社取締役 3
当社従業員 14
(本書提出日現在:当社取締役4名、当社従業員12名)
新株予約権の数(個)40,00022,900
※信託設定時の交付対象は25,400個
249
新株予約権の目的となる株式の種類、内容及び数(株)普通株式 2,000,000
※新株予約権1個につき50株
普通株式 1,145,000
※新株予約権1個につき50株
普通株式 1,245,000
※新株予約権1個につき5,000株
新株予約権の行使時の払込金額(円)6060400
新株予約権の行使期間2020年10月1日〜2029年10月30日2020年10月1日〜2029年10月30日2025年11月14日〜2033年10月13日
発行価格/資本組入額(円)発行価格 60.03
資本組入額 30.02
発行価格 60.03
資本組入額 30.02
発行価格 400
資本組入額 200
①継続勤務条件
権利行使時においても、当社又は当社の子会社・関連会社の取締役、監査役、従業員、顧問又は業務委託先等の社外協力者であることを要する(任期満了による退任、定年退職その他正当な理由があると取締役会が認めた場合を除く)。
同左同左
②上場条件無(定めなし)
業績条件:2020年6月期から2024年6月期までのいずれかの期において連結営業利益が3.3億円を超過した場合に、これ以降行使可能。
無(定めなし)
業績条件は第6回と同一。なお、ロックアップ期間中は当社等の役職員等を受益者として指定しない。
無(定めなし)
付与決議日(2023年11月13日)から2年経過後の2025年11月14日より行使可能。
③相続人行使条件
新株予約権者が死亡した場合、相続人が承継できる。

相続人による行使は認めない。

相続人による行使は認めない(当社が認めた場合を除く)。また死亡時は全部又は一部を無償取得できる。
④業績条件なし
⑤その他なしなしなし

※上記は最近事業年度の末日(2025年6月30日現在)の記載に基づきます(本書提出日の前月末においても変更はありません)。株数・価額は2025年1月10日付株式分割(1株につき5,000株)後のベースです。

権利行使価額について

各回号の権利行使価額と算定根拠は以下のとおりです。

回号権利行使価額算定根拠
第6回60円/株決議時点(2019年10月)の普通株式の価値を基礎に決定(推定)
第7回60円/株第6回と同一条件
第8回400円/株決議時点(2023年11月)の普通株式の価値を基礎に決定(推定)
(参考)公開価格770円

第6回・第7回(2019年10月決議)の権利行使価額は60円、第8回(2023年11月決議)は400円であり、約4年間で約6.7倍に上昇しています。企業価値の成長に伴い、権利行使価額も引き上げられた事例と考えられます。

なお、第8回決議の直近である2023年7月28日に、当社はB種優先株式を1株440円(第三者算定機関によるDCF法の算定価格を勘案)で発行しています。第8回の権利行使価額400円はこれをやや下回りますが、これは、優先株式と普通株式の権利内容の差異(残余財産の優先分配権等)が、普通株式の価値の評価に反映された可能性があります。

税制適格SOでは、権利行使価額について、付与契約の締結時における1株当たりの価額以上とすることが要件とされています(租税特別措置法第29条の2第1項第3号)。非上場会社では、優先株式の直近発行価格をそのまま普通株式の時価とするのではなく、株式の種類ごとの権利内容の差異を踏まえた株価算定を行うことが実務上重要です。

公開価格770円との比較では、第6回・第7回の60円は約12.8倍、第8回の400円は約1.9倍の水準となります。

セーフハーバールールを含む権利行使価額の考え方について詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第4回「税制適格SOの行使価額とセーフハーバー|1円SOの条件と株式報酬費用」をご参照願います。

権利行使条件について

継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件

各回号の条件区分は以下のとおりです。

条件第6回第7回第8回
①継続勤務条件
②上場条件無(業績条件あり)無(業績条件あり)無(期間条件あり)
③相続人行使条件有(承継可)無(当社が認めた場合を除く)
④業績条件・株価条件業績条件あり/株価条件なし業績条件あり/株価条件なしなし

継続勤務条件は全回号に付されています。権利行使時においても、当社又は当社関係会社の取締役、監査役、従業員等であることが求められます。

本事例で最も特徴的なのは、全回号で上場条件が設けられていない点です。

一般に、非上場会社が発行するストックオプションでは「株式が金融商品取引所に上場されていること」を権利行使の条件とする例が多く見られます。当社は上場条件を設けず、第6回・第7回では業績条件を、第8回では付与決議日から2年経過という期間条件を設定しています。

相続人行使条件は第6回のみ承継可とされており、第7回・第8回では認められていません。第6回は経営陣3名を対象とした有償SOであり、対象者が対価を払い込んで取得している点が、承継を認める設計につながっているものと推定されます。

業績条件(第6回・第7回)

第6回・第7回には、2020年6月期から2024年6月期までのいずれかの期において連結営業利益が3.3億円を超過した場合に、それ以降権利行使が可能となる業績条件が付されています。

上場条件を設けず、上場の成否とは異なる業績指標(連結営業利益)を権利行使の条件としているため、上場に至らない場合でも、業績目標を達成すれば権利行使が可能となる設計です。

また、有償SOでは、業績条件などの権利行使条件を付すことで、条件のない場合と比較してオプションの公正価値が低く評価される場合があります。行使可能となる条件が限定されることで、モンテカルロ・シミュレーション等による評価額に影響するためです。なお、本件の払込金額は新株予約権1個当たり1.5円(1株当たり0.03円)と低い水準です。

有償ストックオプションについて詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第5回「有償ストックオプションとは?税制適格SOとの違い・行使時課税・評価方法」をご参照願います。

その他の条件

第8回は、付与決議日(2023年11月13日)から2年を経過した2025年11月14日以降に行使可能とされています。これは税制適格SOの要件(付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行使すること)に対応した設計と考えられます。

いずれの回号も、組織再編・株式譲渡による支配権移転・株式等売渡請求の承認時には無償取得が可能とされており、支配権の異動が生じた場合の取扱いがあらかじめ定められています。

権利行使条件・取得条項の設計について詳しく知りたい方は、ストックオプション入門シリーズ第8回をご参照願います。

付与対象者別付与状況

はじめに、この章を読むうえでの注意点をお伝えします。

この章は、有価証券届出書の【株主の状況】欄と、第8回新株予約権に係る「取得者の概況」の記載に基づいて作成しております。【株主の状況】欄で「その他24名」にまとめられている潜在株式155,000株は、取得者の概況に記載された第8回の従業員(使用人)12名分695,000株から、個別記載のある執行役員5名分540,000株を差し引いた株数と一致するため、執行役員ではない従業員7名の保有分と推定して集計しています(執筆者推計)。

階層別の付与数状況

区分別に整理すると、以下のとおりです。

区分人数潜在株式数潜在株比率1人当たり
潜在株式数
1人当たり
潜在株比率
代表取締役社長1825,0002.26%825,0002.26%
取締役会長11,250,0003.42%1,250,0003.42%
取締役(上記2名を除く)2250,0000.68%125,0000.34%
執行役員5540,0001.48%108,0000.30%
従業員8380,0001.04%47,5000.13%
信託受託者11,145,0003.14%
合計184,390,00012.03%

潜在株式4,390,000株のうち、最も大きい配分を受けているのは信託受託者であるコタエル信託株式会社の1,145,000株(潜在株式全体の26.1%)です。これは第7回の信託型SO分であり、上場申請時点では受益者に交付されていません。

個人では、取締役会長が1,250,000株(3.42%)、代表取締役社長が825,000株(2.26%)と、経営トップ2名で潜在株式全体の47.3%を占めています。

一方、執行役員5名には540,000株(1.48%)、執行役員でない従業員8名には380,000株(1.04%)が配分されています。従業員8名のうち1名は、第6回の付与時点では取締役であった者(225,000株)で、残る7名は第8回で付与を受けた従業員です(7名合計155,000株、1人当たり平均約22,000株)。

なお、取締役(会長・社長を除く)のうち1名と元取締役2名は、株式を保有していますが新株予約権は保有していません。

付与のばらつき状況

役職別にばらつきの状況を確認します。

経営トップ2名では、取締役会長1,250,000株(3.42%)に対し、代表取締役社長825,000株(2.26%)で約1.5倍の差があります。取締役会長に最も厚く配分されています。

執行役員5名のばらつきは以下のとおりです。

執行役員潜在株式数潜在株比率
最大値125,0000.34%
中央値100,0000.27%
最小値100,0000.27%

最大値と最小値の差は1.25倍にとどまり、執行役員層についてはほぼ均等に配分されています。役職に応じて配分水準をそろえる、シンプルな設計といえます。

執行役員でない従業員については、第8回の7名の個別の保有株数が開示されていないため、ばらつきの分析は困難です。

在籍者に対するストックオプション付与割合

「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」は、IPO準備企業から非常によくいただくご質問です。

在籍者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。

区分SO保有者数在籍者数付与比率
代表取締役社長11100.0%
取締役会長11100.0%
取締役(上記2名を除く)2633.3%
執行役員(取締役でない者)5683.3%
従業員81535.2%

※在籍者数は、取締役8名(うち代表取締役社長1名・取締役会長1名・その他6名)、監査役4名、取締役でない執行役員6名、従業員153名(いずれも2026年5月31日現在)に基づきます。

※SO保有者数は、【株主の状況】及び第8回新株予約権の取得者の概況から推計した新株予約権の保有者数です。従業員8名は、第8回の従業員7名と、第6回の付与時点で取締役であった者1名の合計です。

経営トップである代表取締役社長・取締役会長はいずれも100%である一方、従業員153名のうち新株予約権を保有しているのは8名(5.2%)にとどまります。

本シリーズ第15回のGO株式会社(在籍者の約89%に付与)、第16回のLiNKX株式会社(従業員の約50%に付与)と比較すると、付与対象者の範囲という点では、対照的な設計といえます。

アイ・グリッド・ソリューションズのストックオプションの特徴

当社のストックオプションの特徴は以下の3点です。

① 税制適格SO・有償SO・信託型SOの3種類を発行

② 発行回数・付与対象者ともに限定的な付与

③ 上場条件を設けず、業績条件・期間条件で権利行使を可能とする設計

① 税制適格SO・有償SO・信託型SOの3種類を発行

当社は3本のストックオプションについて、それぞれ異なる類型を採用しています。

回号類型(執筆者推計)付与対象者想定される狙い
第6回有償SO当社取締役3名業績条件付きで経営陣にコミットメントを求める
第7回信託型SO
(時価発行新株予約権信託®)
受託者1(コタエル信託株式会社)将来の貢献者に、発行時の条件のまま後から配分する
第8回税制適格SO当社取締役3名・従業員14名税制メリットを活かして役職員へ付与する

ストックオプションには大きく分けて、税制適格SO・税制非適格SO・有償SOの3類型があり、さらにこれらを信託の仕組みと組み合わせた信託型SOという手法があります。当社は1社の中で3つの類型を使い分けている点が特徴的です。

第6回(有償SO)は、経営陣3名に対して業績条件付きで発行されたものです。有償SOは、付与対象者が新株予約権の取得時に適正な時価相当額を払い込む設計であり、適正な時価で取得している場合には、権利行使時にその取得価額を上回る経済的利益が認識されないため、給与所得課税が生じないと整理されています。当社の払込金額は新株予約権1個当たり1.5円(1株当たり0.03円)で、業績条件の付加等により評価額が抑えられたものと推定されます。

第7回(信託型SO)は、時価発行新株予約権信託®を用いた設計です。委託者である本多聰介氏(取締役会長)が信託を設定し、受託者が新株予約権を保有したうえで、将来、当社の評価委員会が交付ガイドラインに従って選定した受益者(役職員等)へ権利を分配する仕組みとなっています。

信託型SOの特徴の一つは、発行時点で将来の受益者を確定させず、発行時に設定した権利行使価額の新株予約権を、後から受益者となる役職員等に交付できる点にあります。当社の場合、2019年10月に権利行使価額60円で組成した新株予約権を、その後の企業価値上昇後も同一条件で交付できる状態が確保されています。

もっとも、信託型SOについては、2023年5月に国税庁が「信託型ストックオプション」を含む税制非適格ストックオプションの課税関係に関するQ&Aを公表し、役職員が受益者として新株予約権の交付を受けた場合でも、権利行使時の経済的利益を給与所得として扱う考え方を示しており、税務上の取扱いには十分な検討が必要です。

第7回新株予約権は、2019年10月に税理士の西川正起氏を受託者として設定された信託から、2023年12月25日付でコタエル信託株式会社を受託者とする新たな信託(信託契約日:2023年12月21日)へ移管されています。受益者指定日は毎年3月末・6月末・9月末・12月末に到来する予定とされており、上場申請時点でも受託者名義のまま1,145,000株(潜在株式全体の26.1%)が残っています。

第8回(税制適格SO)は、2023年11月に取締役3名・従業員14名に対して発行されたものです。行使期間・権利行使価額の設定から、租税特別措置法第29条の2の要件を満たすよう設計されたものと推定されます。

このように、対象者の属性や付与時期に応じてSOの類型を使い分ける設計も考えられます。もっとも、類型ごとにインセンティブ効果、税務・会計上の取扱い、発行コスト、必要となる株価算定の手法等が異なるため、目的に応じた検討と、設計段階での専門家の関与が重要です。

ストックオプションの種類と税金の違いについては、ストックオプション入門シリーズ第2回をご参照願います。

② 発行回数・付与対象者ともに限定的な付与

当社のストックオプションは、発行回数が3回、開示上把握できる付与対象者が延べ21名(第6回:取締役3名、第7回:受託者1、第8回:取締役3名・従業員14名)と、いずれも限定的です。

在籍者に対する付与割合を見ると、代表取締役社長・取締役会長はいずれも100%である一方、従業員153名のうち新株予約権を保有しているのは8名(5.2%)にとどまります。

本シリーズで取り上げた事例と比較すると、その差は明確です。

事例発行本数従業員への付与状況
第15回 GO株式会社11本在籍者560名中498名(88.9%)
第16回 LiNKX株式会社6本従業員109名中55名(50.5%)
第20回 ビーエイブル4本従業員218名中146名(67.0%)
第21回 アイ・グリッド・ソリューションズ3本従業員153名中8名(5.2%)

限定的な付与を選択した背景としては、次のような点が考えられます。

  • 上場条件を設けず非上場の段階から権利行使が可能な設計のため、付与範囲を広げると、非上場の段階で株主数が増えやすい
  • 希薄化を抑制しつつ、経営中核メンバーへのインセンティブに集中させる
  • 信託型SOを併用することで、将来の貢献者への配分余地をあらかじめ確保している

特に3点目は重要です。当社は発行時点で付与対象者を確定させず、信託を通じて1,145,000株分(潜在株式の26.1%)を「後から配分できる枠」として確保しています。付与対象者を限定しつつも、将来の人材獲得・定着に備えた設計となっている点は、実務上参考になります。

ストックオプションを全役職員に付与することは義務ではありません。誰に・いつ・何株を付与するかは、事業フェーズ・人材戦略・希薄化の許容度を踏まえた経営判断であり、本事例のように、付与対象者を限定する設計も可能です。

③ 上場条件を設けず、業績条件・期間条件で権利行使を可能とする設計

第6回・第7回の行使期間は2020年10月1日から、第8回は2025年11月14日から開始しており、いずれも上場日(2026年7月29日)より前です。上場条件が付されていないため、制度上は非上場の段階から権利行使が可能な設計となっています。

第6回・第7回では、上場条件は設けられておらず、「2020年6月期から2024年6月期までのいずれかの期において連結営業利益が3.3億円を超過すること」という業績条件が設定されています。

この設計には次のような意味があります。

  • 上場の成否に依存しない業績指標を、インセンティブの条件にできる
  • M&Aや非上場のままの継続といった、IPO以外のシナリオでも権利行使の可能性が残る
  • 有償SOのオプション料(公正価値)が低く評価される場合がある

一方、非上場の段階で権利行使が行われると、譲渡制限株式を保有する少数株主が増加し、資本政策上の管理コストが生じます。当社は新株予約権の譲渡について取締役会の承認を要する旨を定めるほか、行使条件を満たさなくなった場合や組織再編時の無償取得条項を設けることで、この点に手当てをしています。

上場条件を付すか否かは、EXIT戦略・資本政策・評価コストを踏まえて判断すべき論点です。「上場条件を付さない」という選択をした本事例は、IPO以外の出口も想定するスタートアップにとって参考になる設計といえます。

IPO準備企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、従業員へのインセンティブ設計だけでなく、上場準備における説明・確認事項にも関係します。ストックオプションの発行後に権利行使条件等を変更する場合には、税務・会計・会社法上の影響を慎重に検討する必要があるため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。

特に本事例のように、税制適格SO・有償SO・信託型SOを組み合わせて発行する場合には、類型ごとに会計処理・税務・会社法上の論点が異なるため、横断的な検討が必要です。

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次の事例(第22回)は「エブリーのストックオプション事例|上場日起点ベスティング・従業員約8割付与・アウトオブザマネー【2026年IPO㉒】」をご覧ください。

前回の事例は「ビーエイブルのストックオプション事例|上場前1年余りで集中発行・権利行使価額が公開価格超【2026年IPO⑳】」をご覧ください。

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IPO準備企業向けに、ストックオプションの種類、税務、株価算定、権利行使条件、発行手続などを体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格ストックオプションとは →こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務 →こちら

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この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。

著書(共著)
『スタートアップのための資本政策入門』(中央経済社)