新規IPO企業のストックオプション活用状況⑱チャットプラス

新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第18回をご覧いただきありがとうございます。

ストックオプションの制度設計では、
「ストックオプションプールは何%程度が適切か」
「役員と従業員への配分はどのように設計すべきか」
といったご相談をIPO準備企業から多くいただきます。

本コラムでは、新規上場企業(IPO企業)の実例をもとに、ストックオプションの設計・活用実態を解説します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではありません。実務適用にあたっては、個別の事情を踏まえ専門家へご相談ください。

2026年第18回の事例は、チャットプラス株式会社です。

この度の上場を心よりお祝い申し上げます。

会社概要

新規上場(IPO)に際して提出された有価証券届出書(Iの部)の記載に基づき、概要を整理すると以下の通りです。

社名チャットプラス株式会社
コード598A
業種情報・通信業
市場東京証券取引所グロース市場
主幹事丸三証券
承認日2026年6月11日
上場日2026年7月15日
事業内容問い合わせ対応を支援するチャットボットシステム(「ChatPlus」、「AI AgentPlus」)及びFAQシステム(「FAQPlus」)の開発・提供
会社設立年月日2016年8月10日
監査法人みおぎ監査法人
公開価格1,080円
初値2,284円
時価総額(公開)5,022百万円
時価総額(初値)10,621百万円

2016年8月設立から約9年11か月での上場となっています。
問い合わせ対応チャットボット「ChatPlus」を中核に、生成AIを活用した「AI AgentPlus」やFAQシステムを展開するSaaS企業です。

ストックオプション導入状況

当社は新株予約権を第1回から第6回までの計6本発行しており、上場申請時点でいずれも残存しています。

なお、当社は2025年12月8日付で1株を200株とする株式分割を実施しています。本稿の数値は、原則として上場申請時点(株式分割後)の数値で統一しています。

以下、潜在株比率・発行内容・付与対象者ごとに詳しく解説します。

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

発行済株式数に新株予約権による潜在株式数を加えた総数(希薄化後ベース)に占める潜在株式の割合は、12.29%です。

IPO準備企業では、希薄化後ベースで10%前後に設計される事例が比較的多く見られます。
本事例の12.29%は、一般的なIPO準備企業と比較するとやや高めの水準です。設立から約10年をかけて6回にわたりSOを発行してきた結果、潜在株式が積み上がっているものと考えられます。

なお、本稿では「希薄化後ベース(既発行株式数+SO潜在株式数を分母)」で統一しています。
実務では希薄化前ベースで議論される場合もあるため、他社比較時には注意が必要です。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

発行回数・種類

第1回・第5回は税制適格ストックオプション、第2回は社外協力者向けの税制非適格ストックオプション、第3回・第4回・第6回は税制適格を基本としつつ一部に税制非適格を含む構成と推計されます(種類は執筆者推計)。

発行内容(開示資料の要約)

ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。

読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。

回号第1回第2回第3回第4回第5回第6回
種類(執筆者推計)税制適格税制非適格税制適格(一部非適格)税制適格(一部非適格)税制適格税制適格(一部非適格)
決議年月日2019年9月21日2019年9月21日2021年12月29日2022年12月15日2024年6月27日2025年3月5日
付与対象者の区分及び人数(名)取締役1名
従業員3名
(計4名)
社外協力者4名取締役4名
監査役3名
従業員12名
(計19名)
取締役3名
監査役3名
従業員12名
(計18名)
取締役2名
従業員8名
(計10名)
取締役1名
監査役2名
従業員12名
(計15名)
新株予約権の数(個)〔 〕上場申請時600個
〔120,000株〕
340個
〔68,000株〕
56個
〔11,200株〕
60個
〔12,000株〕
1,470個
〔294,000株〕
281個
〔56,200株〕
行使時の払込金額(円)〔 〕上場申請時5,000円
〔25円〕
5,000円
〔25円〕
99,000円
〔495円〕
99,000円
〔495円〕
99,000円
〔495円〕
99,000円
〔495円〕
行使期間2021年9月22日〜2029年9月21日2019年9月22日〜2029年9月21日2023年12月30日〜2031年12月29日2024年12月16日〜2032年12月15日2026年6月27日〜2034年6月26日2027年3月6日〜2035年3月5日
①継続勤務条件ありなし条件付き条件付き条件付き条件付き
②上場条件なしなしありありありあり
③相続人行使条件不可不可不可不可不可不可
④その他なしなしなしなしなしなし

各回とも開示資料上でストックオプションの税制区分は明示されていませんが、行使価額や行使条件等から、第1回・第5回は税制適格ストックオプション、第3回・第4回・第6回は税制適格を基本としつつ一部に税制非適格を含む構成で設計されている可能性が高いと考えられます。
一方、第2回は社外の協力者への付与であり、継続勤務条件・上場条件を設けていないことから、税制非適格ストックオプションと推計されます。

権利行使価額について

第1回・第2回:5,000円(株式分割後25円)
第3回〜第6回:99,000円(株式分割後495円)

いずれも決議時点(株式分割前)の価額です。2019年発行の第1回・第2回から、2021年以降の第3回以降にかけて、権利行使価額(分割後ベース)は25円から495円へと引き上げられており、企業価値の上昇を反映した段階的な設計となっています。

権利行使価額の根拠について、開示資料(ストック・オプションの注記)では、株式の評価方法として「DCF法により算出した価格を総合的に勘案して算定した価格を用いております」と記載されています。

税制適格ストックオプションでは、権利行使価額が契約締結時の株式時価以上であることが要件とされています。
非上場企業では、DCF法・類似会社比較法・純資産法等による株価算定を実施し、その結果を参考に権利行使価額を設定するケースが一般的です。

権利行使条件について

継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件

発行時期によって条件設計が変化している点が特徴です。

第1回・第2回(2019年発行)では上場条件が設けられていませんでしたが、第3回(2021年)以降のすべての回で上場条件が付されています。

上場条件が発行要項に明記されている点は、IPO準備企業にとって重要な設計ポイントです。
上場前は権利行使を禁止し、上場後に初めて行使可能とすることで、インセンティブとしての機能を上場達成に直結させています。IPO準備が本格化した2021年以降の回で上場条件が導入されている点は、上場を見据えた制度設計への移行を示すものといえます。

相続人による行使は認めないと明示されており、SO保有者が死亡した場合には権利が消滅する設計となっています。
継続勤務条件やベスティングといった詳細条件については、新株予約権割当契約に委ねられている可能性があります。

付与対象者別付与状況

階層別の付与数状況

開示資料(株主の状況)から付与内容の判明している対象者について、役職区分ごとに整理すると以下の通りです。
なお、代表取締役(大江 繭子氏)は自身で29.27%の株式を保有する大株主でありながら、SOの付与も受けています。

人数潜在株式数潜在株式比率1人当たり潜在株数1人当たり潜在株式比率
代表取締役175,0001.64%75,0001.64%
取締役3280,0006.14%93,3332.05%
監査役33,2000.07%1,0670.02%
従業員17168,2003.69%9,8940.22%

上記に加え、社外協力者等その他の保有分(34,000株・0.75%)を含めると、潜在株式は全体で560,400株・12.29%となります。

代表取締役自身にもSOが付与されている点は、本シリーズの過去事例で見られた「大株主である創業者にはSOを付与しない」ケースとは異なる特徴です。
取締役は3名で平均2.05%と手厚い配分である一方、監査役は3名で平均0.02%とごく少額にとどまっています。従業員には17名・平均0.22%と広く付与されており、役割に応じて強弱をつけた設計です。

付与のばらつき状況

役職別にばらつき状況を確認してみます。

取締役3名では、最大付与数(142,000株)と最小付与数(18,000株)の間に約7.9倍の差があり、取締役間でも役割・貢献度に応じた差が設けられています。

監査役では、最大付与数と最小付与数に約3.3倍の差がありますが、絶対量はいずれもごく少額にとどまっています。

監査役人数潜在株式数潜在株式比率
最大値12,0000.04%
最小値26000.01%

従業員では最大付与数と最小付与数に約50倍の差があります。

従業員人数潜在株式数潜在株式比率
最大値150,0001.10%
中央値22,0000.04%
最小値81,0000.02%

※最大値・中央値・最小値に該当する人数のみを抜粋しています。

従業員間の付与格差は大きく、キーパーソンには手厚く、その他には薄く、という役割・期待貢献度に応じたメリハリのある付与設計が採用されていることが分かります。

在職者に対する付与割合

「ストックオプションは従業員全員に付与しなければならないのか?」
は、IPO準備企業から非常によくいただくご質問です。

在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。

付与人数在籍総数付与比率
代表取締役11100.0%
取締役33100.0%
監査役33100.0%
従業員172277.3%

代表取締役・取締役・監査役からなる役員7名には全員(100.0%)、従業員22名のうち17名(77.3%)に付与されています。
役員は社外監査役を含め全員が対象となっており、従業員への付与率も約8割と高い水準です。幅広い層をインセンティブの対象としつつ、従業員については全員一律ではなく選択的に付与していることが確認できます。

当社のストックオプションの特徴

当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。

約10年で6本の多回数発行

高いカバー率(役員全員・全メンバーの8割超に付与)

社外を含む監査役全員への付与(付与数は最低限)

約10年で6本の多回数発行

チャットプラスのSOは、2019年の第1回から2025年の第6回まで、約6年間にわたり計6本発行されています。設立(2016年)から上場(2026年)まで約10年をかけた上場であり、成長ステージの各局面で継続的にSOを発行してきたことがうかがえます。

多回数発行のメリットは、その時々の入社者や貢献者に対して機動的にインセンティブを付与できる点にあります。一方で、回号ごとに行使価額・条件・税制区分が異なるため、管理負担が増える点には注意が必要です。
特に第2回は社外協力者向けの税制非適格SOであり、税制適格SOとは課税関係が異なる点に留意が必要です。

高いカバー率(役員全員・全メンバーの8割超に付与)

役員・従業員を合わせた在職メンバー29名のうち24名、8割超(82.8%)にSOが付与されています。

代表取締役から従業員まで、階層を問わず幅広い層をインセンティブの対象とした設計です。とりわけ役員は、代表取締役・取締役・社外監査役を含む監査役の7名全員が付与対象となっています。
全従業員一律ではなく選択的に付与しつつも、カバー率は8割超と高く、組織全体で上場を目指す求心力を高める狙いがうかがえます。スタートアップ・IPO準備企業では、キーパーソンのみに限定する企業もあれば、当社のように広く付与する企業もあり、方針は企業の考え方によって分かれます。

社外を含む監査役全員への付与(付与数は最低限)

当社では、社外監査役を含む監査役3名全員にSOが付与されています。

監査役へのSO付与については、実務上意見が分かれるところです。
監査役は取締役の職務執行を監査する立場にあり、SOによって得られる経済的利益(株価上昇による利得)は、その職責と利益相反的な関係に立つのではないか、という指摘があります。

また、税制適格ストックオプションの付与対象者は取締役・使用人等に限られており、監査役は税制適格の対象者に含まれていません。この点からも、監査役を株式報酬(SO)の対象とすることが適切かどうかについては、慎重な検討を要すると考えられます。

当社が監査役3名に付与しつつも、その付与数を1人当たり600〜2,000株(平均0.02%)というごく少額(最低限の個数)にとどめているのは、こうした利益相反や税制上の背景を勘案した設計であると推定されます。

非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に、誰に・いつ・何株を付与するかという設計上の判断は、その後の従業員モチベーションやIPO審査に直接影響します。
制度発行後の変更は容易ではないため、設計段階での専門家への相談を強くおすすめします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所

・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績

・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与

・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験

Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
有償ストックオプション評価・設計支援サービス

を実施しています。

≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
≫税制適格ストックオプション設計・評価サービス
≫有償ストックオプション設計・評価サービス

30分無料相談を実施しております

ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

  • 「自社の場合、潜在株比率は何%が適切か」
  • 「税制適格SOと有償SOのどちらが適切か」
  • 「退職者にも権利行使可能とするべきか」

    など、初回相談で整理可能です。

制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。

次回第19回もお楽しみに。

スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格ストックオプションとは→こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務→こちら

8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項→こちら

9 ストックオプション発行の実務プロセス→こちら

10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

こちらもご覧ください。

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。

著書(共著)
『スタートアップのための資本政策入門』(中央経済社)