「スタートアップのための株価算定入門」シリーズ第8回をご覧いただきありがとうございます。
非上場会社の株式は市場で売買されていないため、株主と会社、あるいは株主間で「いくらで買い取るか」の折り合いがつかず、最終的に裁判所で争われることがあります。スタートアップでも、共同創業者の離脱やM&Aへの反対、株主間契約に基づく株式の買取りなどをきっかけに、株式の価格が紛争の重要な争点となることがあります。
このような場面で行う株価算定は、第5回で解説したストックオプション(SO)発行目的、第6回の増資目的、第7回のM&A目的の株価算定とは、求められる役割が大きく異なります。
本コラムでは以下の観点から訴訟・紛争目的の株価算定を解説します。
・非上場株式の価格をめぐる紛争と、株価算定が必要となる場面
・他の目的の株価算定との違い
・訴訟・紛争目的で用いられる算定手法と主な論点
・訴訟・紛争目的の株価算定の実務プロセス
なお、本稿では、通常の民事訴訟のほか、裁判所が株式の価格を決定する非訟事件や、遺産分割・株主間契約などをめぐる紛争を含めて「訴訟・紛争目的の株価算定」と表記します。また、市場株価を基礎として評価できる上場会社の株式は、原則として対象外とします。
この記事でわかること(先に知りたい方に)
・非上場株式の価格は、譲渡制限株式の売買価格決定や反対株主の株式買取請求などの手続で、最終的に裁判所が決めることがある
・算定手法の選択や、非流動性ディスカウントなどのパラメータの設定が、それ自体で争点になる
・スタートアップの通常の株価算定では中心とならない収益還元法や配当還元法(ゴードン・モデル)が、訴訟・非訟事件では評価手法として用いられることがある
・相手方からの反論や裁判所による検討を想定し、評価手法・前提・数値について合理的な根拠を示すことが求められる
・代理人弁護士と早い段階から連携し、法的な主張と評価内容の整合性を確保することが重要である
非上場株式の価格をめぐる紛争と、株価算定が必要となる場面
なぜ非上場株式の価格は争いになりやすいのか
非上場株式には市場価格がありません。株式の価値は何らかの算定手法で見積もるしかなく、手法や前提の置き方によって結果が大きく変わります。
さらに、売り手と買い手、支配株主と少数株主とでは、価格が高いほうが有利か低いほうが有利かが正反対です。会社側と少数株主側とで入手できる資料に差があることも、争いを複雑にします。
裁判所が価格を決める手続
会社法には、当事者の協議が整わない場合に、裁判所に株式の価格の決定を申し立てる手続が定められています。これらの価格決定手続は、株式売買価格決定・株式買取価格決定などと呼ばれ、通常の民事訴訟とは異なる非訟事件として扱われます。裁判所は、当事者の主張を踏まえて株式の価格を決定します。
| 手続 | 根拠条文(会社法) | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| 譲渡制限株式の売買価格の決定 | 144条 | 譲渡制限株式の譲渡について会社の承認を得られず、会社または指定買取人による買取りが行われる場合 |
| 反対株主の株式買取請求と価格の決定 | 116条・117条、469条・470条、785条・786条、797条・798条、806条・807条 | 株式に譲渡制限を設けるなど一定の定款変更、事業譲渡、合併・会社分割・株式交換・株式移転に反対した株主が、会社に買取りを求める場合 |
| 全部取得条項付種類株式の取得価格の決定 | 172条 | 全部取得条項付種類株式を会社が取得する場合 |
| 株式等売渡請求の売買価格の決定 | 179条の8 | 総株主の議決権の10分の9(90%)以上を持つ特別支配株主が、他の株主全員に対し、その有する株式の全部の売渡しを求める場合 |
| 株式併合による端数株式の買取請求と価格の決定 | 182条の4・182条の5 | 株式併合により生じた1株未満の端数について、反対株主等が買取りを請求する場合 |
| 相続人等に対する売渡請求の売買価格の決定 | 177条 | 定款の定めに基づき、相続で株式を取得した者に、会社が売渡しを求める場合 |
通常の訴訟などで株価が争点になる場面
会社法上の価格決定手続のほか、次のような民事訴訟や紛争でも、非上場株式の価値が争点になることがあります。
・株主間契約・投資契約の買取条項(コール・オプション、プット・オプション)による買取価格
・特に有利な払込金額による募集株式の発行(有利発行)をめぐる紛争。必要な株主総会の特別決議を欠く場合などの発行の差止め(210条)、取締役の任務懈怠責任(423条1項)、引受人の支払義務(212条1項1号)が争われる
・遺産分割や離婚に伴う財産分与などにおける非上場株式の評価
・相続税・贈与税の課税処分をめぐる税務訴訟。財産評価基本通達による評価方法ではなく、総則6項に基づいて課税庁が個別に株式価値を評価して課税した場合などに、その評価方法や評価額の適否が争われる
スタートアップでは、共同創業者の離脱に伴う株式の買戻しや、M&Aに反対する株主からの買取請求が、紛争のきっかけとなることがあります。優先株式を発行している場合は、普通株式をいくらと見るかも論点になります(後述)。
訴訟・紛争目的の株価算定と、他の目的の株価算定との違い
第5回から第7回で解説した株価算定と比べると、訴訟・紛争目的の株価算定には次のような違いがあります。
| 項目 | SO発行・増資・M&A目的 | 訴訟・紛争目的 |
|---|---|---|
| 提出先 | 会社、投資家、監査法人、取引の相手方 | 裁判所 |
| 成果物 | 株価算定書 | 意見書(私的鑑定書) |
| 結論の示し方 | 評価レンジで示すことも多い | 具体的な価格を示すことが一般的 |
| 算定の立場 | 発行や取引の前提となる合理的な価格を示す | 依頼者が主張する価格の合理性を、評価手法と資料に基づいて説明する |
| 検証のされ方 | 監査、税務、取引の相手方による確認 | 相手方の意見書、裁判所の鑑定、尋問 |
「算定書」ではなく「意見書」、示すのは具体的な価格
当事者が依頼して裁判所に提出する株価算定は、一般に意見書(私的鑑定書)と呼ばれ、裁判所が選任する鑑定人による鑑定とは位置づけが異なります(Q1参照)。
SO発行目的・増資目的・M&A目的の株価算定では評価レンジを示すことが多いのに対し、訴訟・非訟事件では裁判所が最終的に一つの価格を決定します。そのため意見書でも、評価手法や前提を踏まえた具体的な価格を示し、複数の手法を用いた場合には、その結果をどのように評価して結論に至ったのかまで説明することが一般的です。
依頼者の立場と、説明可能性
訴訟・紛争目的の株価算定では、依頼者が主張する価格について、その合理性を評価手法や資料に基づいて説明することが求められます。依頼者の主張や訴訟上の争点を踏まえつつ、合理的な根拠を有する評価手法や前提条件を選択し、その選択理由を説明する点が、他の目的の株価算定にはない特徴です。
ただし、根拠の乏しい前提や結論ありきの数値は、相手方の反論や裁判所の判断で退けられ、かえって主張全体の信用を損ないます。「なぜその手法を選び、その数値を使ったのか」を一つずつ説明できることが、最も重要です。
手法の選択そのものが争点になる
SO発行目的や増資目的の株価算定では、会社の成長段階や算定の目的に応じて、実務上よく用いられる手法がある程度決まっています。一方、訴訟・紛争目的の株価算定では、同じ会社の同じ株式でも、採用する手法によって結果が大きく異なることがあり、当事者双方が、それぞれの主張を裏付けるものとして、異なる評価手法や前提を主張することがあります。
たとえば、配当が少ない会社では、配当に着目する配当還元法による価格は、収益に着目する収益還元法やDCF法による価格より低くなる傾向があります。そのため、株式を買い取る側が配当還元法を主張し、売り渡す側が収益還元法やDCF法を主張するなど、評価手法の選択をめぐって当事者の主張が対立することがあります。
訴訟・紛争目的で用いられる株価算定の手法
非上場株式の株価算定には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネット・アセット・アプローチの3つの考え方があります(第2回参照)。訴訟・紛争目的でもこの3つを用いますが、スタートアップの通常の株価算定ではあまり見かけない手法が採用されることがある点が特徴です。
インカム・アプローチ
DCF法
事業計画に基づいて将来のフリー・キャッシュ・フロー(事業が生み出し、株主と債権者に帰属するキャッシュ)を予測し、割引率で現在価値に割り引いて評価する手法です(第3回参照)。事業計画の期間より後の価値は継続価値として見積もり、事業全体の価値に非事業用資産を加え、有利子負債などを差し引いて株式の価値を求めます。
将来の成長を反映できるため、事業計画を合理的に策定できるスタートアップでは、SO発行・増資・M&Aなどの目的で重要な評価手法の一つとなります。
一方、訴訟では、その事業計画を誰がいつ作成したかが問われます。紛争が起きた後に作成された計画や、過去の計画を大きく下回ってきた会社の計画は、相手方から信頼性を争われやすくなります。
収益還元法
会社が将来にわたって安定的に稼ぐと見込まれる利益を、資本還元率で割り戻して株式の価値を求める手法です。将来の利益は、過去数期の実績をもとに、一時的な損益の除外や、同族会社で見られる役員報酬の水準の調整などを加えて見積もります。継続的な成長を前提とする場合、資本還元率は、株主資本コスト(株主が求める収益率)から利益の成長率を差し引いた率を基礎として設定する考え方があります。
スタートアップの株価算定では、事業が成長の途中にあり、過去の実績が将来の姿を表さないことや、赤字の会社もあることから、収益還元法が中心となることはほとんどありません。
一方、非上場会社の株式の価格が裁判上の争点となる事案では、収益還元法が用いられることがあります。事業計画の合理性を十分に検証することが難しい場合に、過去の実績という客観的な数値を出発点とする収益還元法が、当事者双方と裁判所にとって検証しやすいことが背景にあります。
後述する最高裁平成27年3月26日決定も、収益還元法によって価格を決定した事案です。
配当還元法(ゴードン・モデル)
株主が将来受け取る配当に着目して株式の価値を求める手法です。訴訟・非訟事件で用いられるのは、相続税の評価で使われる「配当還元方式」ではなく、ゴードン・モデルです。翌期に見込まれる1株当たり配当金を、株主資本コストから配当の成長率を差し引いた率で割り戻して株価を求めます。
配当を行わないことが一般的なスタートアップの株価算定で、配当還元法が用いられることはほとんどありません。一方、少数株主による株式買取請求や譲渡制限株式の売買価格の決定など、経営に関与できない株主の株式の価値が問題となる事案では、将来の配当を株式価値の重要な構成要素と捉える考え方から、評価手法の一つとして検討されます。
なお、少数株主が保有する株式であっても、配当還元法のみによらず、DCF法や時価純資産法などと併用して価格が決定された裁判例もあります。
マーケット・アプローチ
類似会社比較法(マルチプル法)
事業内容や規模の似た上場会社について、株価や事業価値と、利益・EBITDA・売上高などの財務数値との倍率(マルチプル)を求め、それを対象会社に当てはめて評価する手法です(第4回参照)。赤字のスタートアップでは、売上高の倍率を用いることもあります。訴訟では、類似会社の選び方や、上場会社との規模・成長性の違いの調整が争点になります。
取引事例法
対象会社の株式について過去に行われた売買や増資の価格を基準にする手法です。当事者自身が関与した実際の取引価格であるため、株式価値を検討するうえで重要な参考資料となる場合があります。ただし、取引の時期や条件、親族間・役員間の取引かどうかといった当事者間の関係などを踏まえて、その価格を評価基準日時点の株式価値にどこまで参照できるかを検討する必要があります。
類似業種比準方式(税法上の評価方法)
相続税・贈与税の評価で用いられる類似業種比準方式などは、課税上の財産評価を目的とした評価方法であり、その評価額が当然に裁判上の株式価値となるわけではありません(後述)。
ネット・アセット・アプローチ
時価純資産法(修正簿価純資産法)
貸借対照表の資産・負債を時価で評価し直し、その差額である純資産から株式の価値を求める手法です。将来の収益力が反映されないため単独で採用されることは多くありませんが、不動産などの資産を多く持つ資産保有型の会社や、清算を前提とする場合には重視され、他の手法と併用されることもあります。
訴訟では、資産の含み益に対する税金相当額を差し引くかどうかも、論点の一つになります。
優先株式を発行している会社の普通株式の評価
スタートアップでは、VCなどの投資家に対して種類株式(優先株式)を発行しているケースがあります。優先株式には、会社の売却や清算の際に普通株式より先に分配を受ける権利などが付されている場合があるため、同じ会社の株式でも、優先株式と普通株式とでは価値が異なります。
直近の増資で発行された優先株式の発行価格は、普通株式の価値を検討する際の参考価格として用いられることがあります。ただし、発行価格をそのまま普通株式の価値とすることが適切とは限らず、訴訟でもこの点が論点となります。優先株式の権利の内容を踏まえ、OPM(オプション・プライシング・モデル)などを用いて普通株式の価値を検討します(第6回参照)。
複数の手法を検討する場合の考え方
裁判例には、一つの手法だけではなく、複数の評価手法を用いて、それぞれの結果を踏まえて価格を決定するものがあります。複数の手法を用いる場合に、各手法の結果をどのように評価するかは事案ごとに異なり、主に次のような点を考慮して検討します。
・株主の立場:支配権の有無や、配当を受ける立場の違いによって、評価すべき経済的利益の内容が異なる場合がある
・会社の状況:事業が継続し収益が安定している会社と、資産保有型の会社や清算が見込まれる会社とでは、重視すべきアプローチが異なる
・資料の信頼性:事業計画の合理性に疑義がある場合には、DCF法の前提となる将来キャッシュ・フローの設定方法を見直し、過去実績に基づく手法など、他の評価手法との比較検討を行う
各手法の結果をどのように考慮するかに決まった基準はなく、裁判所の判断も事案によってさまざまです。そのため、「なぜそのように評価したのか」を、個々の事案の事情から説明することが求められます。
訴訟・紛争目的の株価算定の実務プロセス
一般的なプロセスと必要資料は第10回で解説する予定です。ここでは訴訟・紛争目的に特有の流れを整理します。
代理人弁護士を交えた事前打合せ
訴訟・紛争目的の株価算定は、依頼者・代理人弁護士・公認会計士の3者による打合せから始まります。手続の種類、争点、裁判所への提出期限を共有し、どの価格をどのような構成で主張するかを確認します。
法的な主張や手続の進め方は弁護士が担い、公認会計士は株式の評価を担当します。算定の前提を決める段階から弁護士と認識を合わせておくことで、法的な主張と算定の内容が食い違うことを防ぎます。
資料の収集と、資料が不足する場合の対応
会社側が依頼者の場合は、計算書類、事業計画、過去の株式の取引の記録などを比較的入手しやすい一方、少数株主側は入手できる資料が限られることが多くなります。総株主の議決権の3%以上または発行済株式の3%以上を有する株主が、理由を明らかにして行う会計帳簿の閲覧・謄写の請求(会社法433条)など、法令上認められた情報取得の手段について、弁護士と検討します。
それでも入手できない資料がある場合は、公表されている情報などから合理的な前提を置き、その前提を意見書の中で明示します。
評価基準日と前提条件の確定
どの時点の価格を求めるか(評価基準日)は手続によって異なり、それ自体が争点になることがあります。評価基準日より後に発生した事実と、その時点では既に存在していたものの後から判明した事実とでは扱いが異なるため、これらを評価にどのように反映するかも、手続や評価の目的を踏まえて整理します。
意見書の作成
意見書には、結論の価格、手法の選定理由、前提条件、使用した資料、計算過程などを記載します。専門用語や計算の意味を、会計の専門家でない読み手にも伝わるように説明することも重要です(意見書の構成の考え方は後述します)。
相手方の意見書・裁判所の鑑定への対応
相手方からも意見書が提出され、裁判所が鑑定を命じることもあります。これらに対しては、必要に応じて、相手方の評価手法・前提・計算内容を検討し、反論や補足説明を行う意見書を作成します。
手続が長期化する場合もあり、意見書の作成者が裁判所から説明を求められたり、必要に応じて証人・専門家として関与したりする場合があります。どこまでを受任の範囲とするかは、案件ごとにご相談のうえ決めています。
訴訟・紛争目的の株価算定の留意点と主な論点
手法を選んだ後も、意見書の組み立て方、税法上の評価額との関係、パラメータの設定、裁判例の確認と、検討は続きます。意見書は、これらを一つの筋でつないで初めて説得力を持ちます。
反論に耐えるロジック構成を組み立てる
意見書は、提出した後に、相手方から手法・前提・数値の一つひとつについて強い反論を受けることを前提に作成します。次の点を意識してロジックを組み立てます。
・結論から前提までを一本の筋でつなぐ
・一つひとつの前提に客観的な根拠を示す
・想定される反論に先回りする
・前提が変わった場合の影響を把握する
評価手法、前提条件、計算過程が相互に整合し、その根拠を第三者が検証できる構成であることが重要です。
税法上の評価額との関係
相続税評価額は課税を目的とした評価方法による価額であり、「公正な価格」と一致するとは限りません。一方、税務訴訟では、課税庁が総則6項により財産評価基本通達とは異なる株価算定を行うことがあり、その手法や前提の妥当性が争点になります。
争点になりやすいパラメータ
同じ手法を用いても、次のパラメータの置き方で価格は大きく変わります。いずれも、数値の根拠を示すことが求められます。
割引率(資本コスト)
DCF法では加重平均資本コスト(WACC)を、収益還元法や配当還元法では株主資本コストを用いるのが一般的です。いずれも、規模の小さい会社に上乗せするサイズリスクプレミアムや、スタートアップ特有のリスクをどこまで反映するかが争われます。
非流動性ディスカウント
非上場株式は市場で自由に売買できないことを理由に、算定した価格から一定の割合を減額するかどうかが論点になります。この点については、後述のとおり最高裁の判断が示されています。
支配権プレミアム・少数株主ディスカウント
支配権を有する株式と少数株主が保有する株式とでは、議決権その他の株主としての権利や、そこから得られる経済的利益が異なる場合があります。その違いを評価額にどのように反映するかが論点となり、どの手法で算定した価格がどちらの立場の価値を表しているかとあわせて整理します。
非流動性ディスカウントに関する2つの最高裁決定
収益還元法による評価額から非流動性ディスカウントはできない(最高裁平成27年3月26日決定)
同決定(平成26年(許)第39号)は、非上場会社の吸収合併に反対した株主が会社法785条1項に基づいて株式買取請求をし、786条2項により価格の決定を申し立てた事案で、収益還元法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断しました。収益還元法には、類似会社比準法(本稿でいう類似会社比較法)などと異なり、市場における取引価格との比較という要素が含まれていないことが理由です。
DCF法による評価額からは非流動性ディスカウントができる(最高裁令和5年5月24日決定)
同決定(令和4年(許)第8号)は、会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格決定手続について、市場性がないことを理由に減価することが相当と認められるときは、DCF法によって算定された価格を基礎として非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。同手続が、譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものであり、株式が任意に譲渡される場合と同様に考えられることが理由です。ただし、評価額の算定過程で市場性のないことが既に十分に考慮されている場合は、市場性がないことを理由とする二重の減価になるため相当ではない、ともしています。
手続と評価方法によって判断が異なる
最高裁は令和5年決定において、平成27年決定は「事案を異にする」と述べており、判例が変更されたわけではありません。組織再編などに反対する株主の株式買取請求と、譲渡制限株式の売買価格の決定とでは、手続の趣旨が異なり、用いられた評価方法も異なるため、結論が分かれています。
非流動性ディスカウントの可否は一律ではありません。価格が問題となる手続、採用する評価方法、株式の性質を踏まえ、個々の事案に近い裁判例を確認したうえでパラメータを設定します。
まとめ|訴訟・紛争目的の株価算定のポイント
・非上場株式の価格は、会社法上の価格決定手続や、株主間契約などに関する民事訴訟、税務訴訟で争点となり、手続に応じて裁判所が価格や評価の妥当性を判断する
・訴訟・紛争目的の株価算定は、裁判所に提出する意見書として、依頼者が主張する価格の合理性を、評価手法や前提とともに説明する点で、他の目的の株価算定と異なる
・訴訟・非訟事件では、会社の事業内容、収益の状況、株主の立場、資料の信頼性などに応じて評価手法が検討される。複数の手法を用いる場合、それぞれの結果をどのように考慮するかは事案ごとに検討する
・非流動性ディスカウントなどのパラメータは、手続や評価方法によって裁判所の判断が異なるため、個々の事案に近い裁判例を踏まえて設定する
・意見書は相手方から強い反論を受けることを前提に、評価手法・前提条件・計算過程が相互に整合し、その根拠を第三者が検証できる構成にする
・代理人弁護士と早い段階から連携し、法的な主張と整合する意見書を組み立てることが重要である
訴訟・紛争目的の株価算定でよくあるご質問(Q&A)
Q1. 裁判所の鑑定と、当事者が依頼する意見書は何が違いますか?
裁判所による鑑定は、裁判所が選任した鑑定人が、裁判所の求めに応じて専門的事項について意見を述べるものです。一方、当事者が専門家に依頼して作成する意見書は、当事者が裁判所に提出する資料の一つです。
Q2. 相手方から提出された株価算定書・鑑定書への反論の意見書も作成してもらえますか?
対応しています。弊所が株価算定を行い意見書を提出した案件について、相手方の株価算定書や裁判所の鑑定に対する反論の意見書を作成します。当初の意見書とは別の作業となるため、費用は別途申し受けます。
Q3. 相続税評価額で価格を主張できますか?
相続税評価額は課税を目的とした評価方法による価額であり、裁判所の判断を拘束するものではありません。手続や株主の立場によって参考にされることはありますが、それだけで主張を組み立てることは難しいと考えられます。
Q4. 訴訟・紛争目的の株価算定には、どのくらいの費用・期間がかかりますか?
費用・期間は案件によって異なります。裁判所への提出を前提とする場合、資料の量、評価手法の検討範囲、代理人弁護士との打合せ、相手方の意見書への対応など、必要な作業の範囲が広くなるため、ストックオプション発行目的や増資目的の株価算定よりも費用は高くなります。
訴訟・紛争目的の株価算定は専門家への相談が重要
訴訟・紛争目的の株価算定を適切に行わない場合のリスク
訴訟・紛争目的の株価算定は、裁判所が株式の価格や評価方法を検討する際の資料の一つとなります。評価手法の選択や前提の置き方の検討が十分でない場合、次のような影響が生じる可能性があります。
- 主張が採用されない:根拠の乏しい前提や説明のつかない数値は裁判所の判断で退けられ、相手方の主張する価格に近い結論となる可能性がある
- 相手方の反論に対応できない:前提の根拠が整理されていないと、相手方の意見書や裁判所の鑑定に対して有効な反論ができない可能性がある
- 主張全体の信用性に影響する:過去の取引価格や税務申告で用いた評価額との矛盾を指摘された場合、株価以外の主張の信用性にも影響する可能性がある
そのため、訴訟・紛争目的の株価算定では、
- 訴訟・非訟手続での株価算定と意見書作成の経験がある専門家
- 代理人弁護士と連携し、法的な主張と整合する算定ができる専門家
- 対象会社や相手方との関係を含め、利益相反の有無を適切に確認したうえで受任できる専門家
を選定することが重要です。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・豊富な算定実績:累計1,000件超、2025年実績で年間139件の算定・評価業務を担当。非上場会社特有の複雑な資本政策にも精通した公認会計士が直接対応します。
・訴訟での実績:2024年1月に判決が出た、非上場株式の相続税評価について財産評価基本通達総則6項の適用が争われた税務訴訟で、納税者側として、国側が提出した大手監査法人系FAS会社による株価算定への反論を行いました。判決では、国の処分が取り消されています。
・弁護士との連携:代理人弁護士と早い段階から打合せを行い、法的な主張と整合する意見書を作成します。
弊所では、訴訟・税務訴訟での株価算定の経験を持つ公認会計士が、代理人弁護士の先生と連携しながら、依頼者の主張を合理的な根拠で支える意見書の作成をサポートします。
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。
価格決定の申立てや株式買取請求を検討している段階での、算定の進め方の相談
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初回30分は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
株価算定コラムシリーズ
本コラムは「スタートアップのための株価算定入門」シリーズの第8回です。
第1回 非上場企業の株価算定とは?IPO準備で必要な考え方と算定目的 → こちら
第2回 非上場企業の株価算定3つの手法|DCF法・マルチプル法・純資産法の使い分け → こちら
第3回 株価算定におけるDCF法の実務|VCレートとExitマルチプルの活用 → こちら
第4回 非上場企業の株価算定|マルチプル法とバックソルブ法の実務 → こちら
第5回 ストックオプション発行目的の株価算定|セーフハーバー・公正価値評価・OPM → こちら
第6回 第三者割当増資の株価算定|優先株評価・OPM法・IPO対応 → こちら
第7回 M&A目的の株価算定|DCF法・マルチプル法の使い分け、DD反映とカーブアウト → こちら
第8回 訴訟・紛争目的の株価算定|価格決定申立て・株式買取請求と算定手法の選び方(本記事)
第9回 相続・贈与目的の株価算定|財産評価基本通達と時価の考え方(リリース予定)
第10回 株価算定の進め方と依頼先|必要資料・期間・費用の目安(リリース予定)

