ストックオプション(SO)発行の実務プロセス|投資家交渉から株価算定・登記・税務署提出まで【非上場・IPO準備企業向け】

「スタートアップのためのストックオプション入門シリーズ」第9回をご覧いただき、ありがとうございます。

本コラムでは、スタートアップやIPO準備企業のCFO・経営者・支援専門家の方向けに、ストックオプション(以下、「SO」)制度の設計・税務・実務上の論点を公認会計士の視点から解説しています。

第9回のテーマは「ストックオプション(SO)発行の実務プロセス|投資家交渉から株価算定・登記・税務署提出まで」です。

SO発行の実務には、投資家との事前交渉、SO設計、発行書類の準備、税務対応まで、多くのステップが絡み合います。
本稿では、これら一連のプロセスを4つのフェーズに整理し、発行スケジュールとチェックリストを用いて、経営者が逆算して組み立てられるよう実務の全体像を解説します。

目次
  1. SO発行実務のポイント(先に読む要約)
  2. はじめに
  3. 全体タイムライン
    1. ステップ別実施事項一覧
    2. 発行スケジュール
  4. フェーズ①:SO全体設計・投資家交渉(M-6以前〜M-4)
    1. SOプール交渉
    2. SO発行目的明確化
    3. SO全体設計
  5. フェーズ②:SO個別設計(M-3〜M-2)
    1. SO個別条件の決定
    2. 専門家選定、事前相談
    3. 株価算定
  6. フェーズ③:発行実務(M-2〜M0)
  7. フェーズ④:登記・発行後対応(M0〜翌年1月)
    1. 登記(2週間以内)
    2. 新株予約権原簿・行使管理表の整備
    3. 法定調書の提出(翌年1月31日期限)
    4. IPO審査向け書類保管
    5. 失効等による登記
  8. よくある質問(FAQ)
    1. Q1. 株価算定はいつ依頼すればよいですか?
    2. Q2. 投資家が株主総会でSOの発行に反対した場合はどうなりますか?
    3. Q3. 税制適格SOと有償SOを同時に発行することはできますか?
    4. Q4. 専門家に依頼せずにSO発行は可能ですか?
    5. Q5. SO発行の費用は大まかにどの程度かかりますか?
  9. SO発行実務チェックリスト
    1. フェーズ①:SO全体設計・投資家交渉(M-6以前〜M-4)
    2. フェーズ②:SO個別設計(M-3〜M-2)
    3. フェーズ③:発行実務(M-2〜M0)
    4. フェーズ④:登記・発行後対応(M0〜翌年1月)
  10. まとめ
  11. 専門家への早期相談を強くお勧めします
    1. Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
    2. 30分無料相談を実施しています
  12. スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

SO発行実務のポイント(先に読む要約)

SO発行の実務上の主なポイントは以下の通りです。

・SO発行は目的確認から発行後対応まで、目安3〜6か月を要するプロジェクトである 。
・フェーズを「①SO全体設計・投資家交渉」「②SO個別設計」「③発行実務」「④登記・発行後対応」の4段階に整理できる 。
・株価算定は発行決議の2〜3か月前に着手するのが目安。IPO準備企業で監査法人レビューが必要な場合はさらに前倒しが必要。
・発行後も登記や法定調書提出など期限管理が必要になる。

はじめに

SO発行は「取締役会・株主総会で決議すれば完了」と誤解されることがあります。

しかし実際には、目的の設定・投資家交渉・SO設計・専門家への依頼・発行書類の整備・登記・税務署への届出と、多岐にわたる手続きが一体となった数か月(一般的には3〜6か月)を要するプロジェクトです。

本稿では、発行を検討しているスタートアップ経営者が「いつ・何を・誰と」対応すべきかを把握できるよう、実務プロセスを4つのフェーズに整理して解説します。

全体タイムライン

SO発行の実務は、目安として3〜6か月の期間を要します。フェーズごとに整理すると以下の通りです。

4つのフェーズの概要は下表のとおりです。詳細は発行スケジュール(ガントチャート)もあわせてご参照ください。

(M0=発行月、M-Nは発行Nか月前を示す)

2回目以降の発行でフェーズ①が完了済であれば、フェーズ②からの実施となります。

ステップ別実施事項一覧

フェーズ目安時期主な実施事項(各フェーズのH4項目)
フェーズ① SO全体設計・ 投資家交渉M-6 以前〜 M-4・SOプール交渉
・SO発行目的明確化
・SO全体設計
フェーズ② SO個別設計M-3 〜 M-2・SO条件の決定
・専門家選定
・事前相談 ・株価算定
フェーズ③ 発行実務M-2 〜 M0・株主への事前説明
・書類準備
・従業員への説明
・取締役会開催
・株主総会招集通知
・株主総会による決議
・払込・割当契約書への署名
フェーズ④ 登記・ 発行後対応M0〜 翌年 1月・登記(2週間以内)
・SO台帳・行使管理表の整備 ・法定調書の提出(翌年1月31日期限)
・IPO審査向け書類保管

発行スケジュール

※目安スケジュール。M0が発行(払込)月、M-Nが発行Nか月前を示す。

ワークストリーム M-6
以前
M-6 M-5 M-4 M-3 M-2 M-1 M0 発行後
フェーズ①:SO全体設計・投資家交渉(M-6以前〜M-4)
SOプール交渉
SO発行目的明確化
SO全体設計
フェーズ②:SO個別設計(M-3〜M-2)
SO条件の決定
専門家選定・事前相談
株価算定
フェーズ③:発行実務(M-2〜M0)
株主への事前説明
書類準備
従業員への説明
取締役会開催
株主総会招集通知
株主総会による決議
払込・割当契約書への署名
フェーズ④:登記・発行後対応(M0〜翌年1月)
登記(2週間以内)
SO台帳・行使管理表整備
法定調書提出(翌年1/31)
IPO審査向け書類保管

凡例: フェーズ①②(SO設計・投資家交渉)  フェーズ③(発行実務)  フェーズ④(登記・発行後)

フェーズ①:SO全体設計・投資家交渉(M-6以前〜M-4)

SOプール交渉

最初に着手することが多いのはSOプールの交渉です。
目的を明確にしてから交渉するのが理想ですが、エクイティファイナンスのタイミング次第では、先に交渉が行われる場合もあります。

SOプール比率の交渉は、資金調達を開始する前から投資家との対話を開始することが理想です。
特に初回のエクイティファイナンス(投資家からの出資)の際、あるいはその検討段階から、SOプールの設定について投資家と方向性を合わせておくことで、後の発行手続きが円滑に進みます。

プール比率に対する投資家の感度は高く、後から増量しようとすると反発を受けるケースもあるため、SO発行を検討する前から意識しておくことが重要です。
一般的にはFully Diluted Base(潜在株式をすべて普通株へ転換したと仮定した株式数)ベースで10〜15%程度が一つの目安となりますが、業種・フェーズ・投資家の方針によって幅があります。

また、既存株主の希薄化への影響や、種類株主総会の要否についても事前に確認しておく必要があります。株主間契約に基づく事前承諾が必要な場合もあるため、投資契約の内容を確認してください。

SO発行目的明確化

まず経営陣が取り組むべきは、SO発行の目的を明確にすることです。
採用競争力の強化を主眼に置くのか、既存従業員のリテンションを重視するのかによって、SOプール規模や配分方針が変わります。
目的が曖昧なままSO設計を進めると、後から条件変更が必要になる可能性があります。

SO発行目的について詳しく知りたい方はシリーズコラム第1回「ストックオプションとは」をご参照ください。

SO全体設計

SO発行にあたっては、プールをどのように配分するかの全体構成を決定します。
インセンティブ規程(付与方針を定めた社内ルール)の策定もこの段階で行います。

配分方針の決定

一般的には、SOプールを職位・役割ごとに配分比率を定めます。
例えば、役員・CXOレベル4%(合計)、部長レベル3%(合計)、従業員1%(合計)、採用用予備2%といった形で方針を策定します。あくまで一例ですので貴社の設定目的、報酬制度との整合性から判断してください。
配分比率は会社の業種・フェーズ・報酬戦略・採用方針によって異なります。

発行回数の方針決定

毎年継続的に発行するのか、1〜3回程度に集約して発行するかについても方針を定めます。
毎年発行する場合は株価算定・登記コストが継続的に発生しますが、採用・リテンションのタイミングに合わせた柔軟な付与が可能です。
集約発行の場合は管理負担を抑えられる一方、行使価格の水準が固定されるリスクがあります。

一般的な配分事例(プール10%前提)

配分比率はプール総額と付与対象者の人数・役職により大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

役員・CXOレベル:1〜3%/人、合計6%程度

従業員:0.01〜0.2%/人、合計2%程度(付与人数によって大きく変動)

予備枠(採用用・将来付与用):2%程度

フェーズ②:SO個別設計(M-3〜M-2)

フェーズ②では、SOの個別条件の設計、専門家への相談・依頼、株価算定を並行して進めます。

SO個別条件の決定

SOの種類の決定

今回発行するストックオプションの種類を決定します。
1種類だけでなく複数種類を同時に発行する場合もあります。
SOの種類の詳細については、本シリーズ第2回「ストックオプションの種類」をご参照ください。

【税制適格SO】

付与者へのメリットが最も大きいため、まず税制適格ストックオプション(以下、「税制適格SO」)の発行可否を検討します。

【有償SO・税制非適格SO】

税制適格SOの付与対象は取締役・従業員等に限られます。
監査役・社外協力者・顧問等、税制適格SOを発行できない対象者には、有償SOまたは税制非適格SOを検討します。

発行数、付与対象者の決定

フェーズ①で定めた全体構成(役職ごとの配分比率・発行回数方針)を踏まえ、今回の発行について「誰にいくら渡すのか」を確定します。
対象者の選定にあたっては、貢献度・役職・入社時期・今後の期待役割等を総合的に判断します。

発行条件決定

権利行使価額や権利行使条件(継続勤務条件・上場条件・ベスティング・クリフ等)を決定します。
条件設計の詳細については第8回「ストックオプションの権利行使条件とは」をご参照ください。
行使価格の設定には後述の株価算定結果が必要なため、条件設計と並行して算定機関への依頼を進めます。

専門家選定、事前相談

SO発行には複数の専門家が関与します。
日頃利用している司法書士・弁護士がSO発行に慣れていることが理想ですが、不慣れな場合はSO発行に習熟した司法書士・弁護士にスポット依頼する検討も必要となります。
早期に相談を開始することが重要です。

司法書士

発行概要(SOの種類・発行数・対象者の概要)を伝えて、登記に必要な準備書類等を確認します。
書類作成は、実務上、司法書士と弁護士のどちらに依頼するケースもあります。
司法書士に書類作成も含めてまとめて依頼することで、登記手続きと一体で進めることができます。

ただし、司法書士に依頼する場合にも、契約書の内容は顧問弁護士等によるリーガルチェックを受けることを推奨します。

弁護士

弁護士への依頼内容は、制度設計段階から相談する場合と、書類作成・リーガルチェックのみを依頼する場合とで異なります。

制度設計の段階から依頼する場合には、SO条件の検討段階から相談を開始します。

書類作成・リーガルチェックを依頼する場合には、発行概要を伝えて、割当契約書・発行要項等の書類作成またはリーガルチェックの相談を開始します。
弁護士が書類作成を担う場合は、完成した書類を司法書士に引き渡して登記手続きを進める流れになります。

IPO準備企業では弁護士が契約書の法的チェックを担うケースが多く、弁護士に書類作成を依頼するかどうかに関わらず、リーガルチェックは必ず実施することを推奨します。

監査法人

会計処理(株式報酬費用計上等)の確認を行います。
特にセーフハーバールール利用時の費用計上方法や、有償SOの払込金額・費用認識の妥当性については、事前に見解を確認(ディスカッション)しておくことが重要です。

また、株価算定書の事前確認(レビュー等)が必要かどうかも確認することが必要です。
IPO準備企業では株価算定書について監査法人の事前レビューが必要になることがあります。
レビュー期間は2週間〜1か月程度が多いため、算定スケジュールへ反映してください。

確認を怠ると、発行スケジュール全体が後ろ倒しになるリスクがあります。

公認会計士・算定機関

公認会計士・算定機関への依頼は、株価算定のみを依頼するか、SO制度設計から包括的に相談するかによって関与範囲が異なります。

制度設計の段階から依頼する場合には、SO条件の検討段階から相談を開始します。
株価算定のみを依頼する場合には、SO個別条件の概要を伝えて算定のスケジュール感を調整します。

株価算定

算定機関選定、相談

株価算定は算定・レビュー・書類修正の期間を確保するため発行決議の2〜3か月前を目安に着手してください。監査法人レビューが必要な場合はさらに前倒しが必要です。

株価算定について詳しく知りたい方は株価算定シリーズコラム第5回「SO発行目的の株価算定」をご覧ください。

SO種類別の算定方法

税制適格SOでは「権利行使価額を決める評価」と「会計上の費用計上に用いる評価」は目的が異なるため、発行形態によって必要となる評価が異なります。

発行類型必要な算定
税制適格SO (セーフハーバーなし)①公正価値評価(DCF法等)  
税制適格SO (セーフハーバーあり)①行使価額設定のための税法評価(特例方式)
②費用計上のための公正価値評価(DCF法等)  
有償SO①行使価額決定のための公正価値評価(DCF法等)
②払込金額算定のためのSO評価(ブラック・ショールズ、モンテカルロシミュレーション等)  

フェーズ③:発行実務(M-2〜M0)

設計・専門家選定・株価算定が完了したら、いよいよ発行実務に入ります。
取締役会・株主総会の決議に向けて、株主説明・書類整備・従業員説明を並行して進めます。
各ステップの順序と期限管理が発行成否を左右するため、M-2(発行予定の2か月前)からの逆算スケジュールで動くことが重要です。

株主への事前説明

既存株主(特にVC・投資家株主)への事前説明は、できる限り早い段階で実施してください。
株主総会の招集通知を発する前に、主要株主の理解・同意を得ておくことが円滑な決議の前提となります。

特にセーフハーバールールを採用した税制適格SOの場合、行使価額が税務上の評価額(財産評価基本通達準拠)と等しく設定されるため、将来の企業価値を前提とした投資家の期待価格より低い価格になるケースがあり、既存株主から反対・懸念が示されることが少なくありません。
この場合、投資家への事前説明はとりわけ丁寧に行う必要があります。

書類準備

発行に必要な書類として、主に①新株予約権発行要項、②割当契約書(付与対象者ごと)、③取締役会議事録、④株主総会参考書類・議案があります。
株価算定の結果(算定報告書)を反映した行使価額を発行要項に明記する必要があるため、算定完了後に書類作成を開始することになります。

書類作成は、司法書士・弁護士どちらに依頼するケースも実務上あります。
ただし、司法書士に依頼する場合には、契約書の内容については顧問弁護士によるリーガルチェックを別途行うことが推奨されます。
特に税制適格要件(行使価額・付与対象者・権利行使期間・年間行使価額1,200万円上限等)については、対象者ごとに一つひとつ要件を満たしているか慎重に確認してください。
要件を一つでも欠くと税制適格性が失われ、付与対象者に多大な不利益が生じる可能性があります。

従業員への説明

付与対象者となる従業員・役員には、割当内容(付与数・行使価額・権利行使期間など)と制度の仕組みを個別に説明し、割当契約書への署名を得る必要があります。

初回発行の場合は、全従業員を対象とした社員説明会の開催を検討する事例が多いようです。
SOを受け取っていない社員にも制度の趣旨・仕組みを説明することで、組織全体のエンゲージメント向上や、将来発行機会が生じた際の理解促進につながります。
キャピタルゲインシミュレーション(上場後の株価水準ごとの手取額試算)を用いた説明も、従業員のインセンティブ理解を深めるうえで効果的です。

取締役会開催

取締役会設置会社では、まず取締役会において株主総会の招集を決議し、その後、開催された株主総会において発行条件(募集事項)を決定する流れが一般的です。

税制適格SOは無償発行(発行価額ゼロ)のため、「特に有利な条件(有利発行)」への該当が議論されるケースがあります。
実務上は手続きの安全性を担保するため、株主総会の特別決議(会社法第238条第2項、第309条第2項第6号)を前提に進めることが一般的です。
税制非適格SOの場合も、発行条件次第で特別決議が必要な場合がある点は同様です。
いずれの種類であっても、司法書士・弁護士と事前に決議要件を確認してください。

なお、取締役会未設置会社(設立間もないスタートアップ等)の場合は、取締役会に相当する意思決定機関がないため、手続きが異なります。取締役会未設置会社では、株主全員の同意による書面決議が実務上多く活用されます。手続きの詳細は司法書士に確認してください。
また、株主総会の招集通知の発送期限(公開会社は2週間前、非公開会社は1週間前が原則)にも注意が必要であり、逆算してスケジュールを組む必要があります。

株主総会招集通知

招集通知には議案(新株予約権の募集事項の決定)および参考書類を添付し、法定期間前までに各株主へ発送します。

スタートアップの多くは非公開会社であり、招集通知の発送期限は原則として総会日の1週間前ですが、定款に別段の定めがある場合はその定めに従います。
また、全株主の同意があれば招集手続きを省略することも可能です(会社法第300条)。

株主総会による決議

株主総会では、新株予約権の募集事項(発行数・発行価額・行使価額・行使期間・行使条件等)を決議します。

【非公開会社(株式の譲渡制限会社)の決議要件】

スタートアップの多くは非公開会社(全株式に譲渡制限がある会社)です。
非公開会社のSO発行は、公開会社のように取締役会に委任できず、必ず株主総会の決議が必要です。
さらに「特に有利な条件」での発行(税制適格SO等)は特別決議(出席議決権の3分の2以上の賛成、会社法第309条第2項第6号)が必要となります。
実務上は、判断が微妙なケースでも念のため特別決議を取ることが安全とされています。いずれにせよ、弁護士に事前相談することを推奨します。

【役員(取締役・監査役)への付与に関する役員報酬決議】

取締役・監査役等の役員に対してSOを付与する場合、新株予約権そのものの発行決議に加えて、役員報酬としての決議が必要です(詳細は会社形態・発行条件により異なる)。
SOは役員の「非金銭報酬等」に該当するため、定款に規定がない場合は、株主総会において報酬枠(発行する新株予約権の上限数や算定方法等)としての決議が必要です。この手続きを失念すると、付与の有効性が問われるリスクがあるため、司法書士・弁護士との事前確認が不可欠です。

IPO審査でも確認されるため、議事録は適切に保管してください。

【書面総会】

事前に株主説明を丁寧に実施した場合、書面決議(会社法第319条。全株主が同意書面を提出する方法)により株主総会を株主が集まらずに決議することも可能です。
スタートアップでは実務上、この書面決議が活用されるケースも多くあります。決議後は速やかに議事録を作成・保管してください。

払込・割当契約書への署名

有償SOの場合は、決議後に定められた払込期日までに付与対象者が発行価額(SO1個当たりの対価)を会社に払い込む必要があります。払込は現金での払込(指定口座への振込)が原則であり、付与対象者の資金準備が必要です。
払込金額は株価算定に基づいて算定されたSO評価額を下回ってはなりません(下回る場合は税務上のリスクが発生します)。
払込および割当契約書の締結は、発行要項で定めるスケジュールに従って行います。

税制適格SOは無償発行のため払込は不要です。
割当契約書への署名は有償・無償問わず必要であり、付与対象者が署名することで、付与条件(行使価額・行使期間・譲渡禁止条項等)に同意したことになります。
弁護士・司法書士の確認を経た正式書式を使用してください。払込(有償SOの場合)と割当契約書への署名がすべて完了してはじめて発行(M0)となります。

フェーズ④:登記・発行後対応(M0〜翌年1月)

SO発行後も、重要な手続きが続きます。
なお、以下の手続きは発行前から準備を進めておくことで、スムーズに対応できます。

登記(2週間以内)

発行から2週間以内に登記(変更登記)を行う必要があります(会社法第915条)。
必要書類(新株予約権の内容を証する書面等)を司法書士と事前に確認しておくことをお勧めします。

新株予約権原簿・行使管理表の整備

新株予約権原簿・行使管理表を早期に整備しましょう。
IPO準備企業の場合、上場申請書類(Iの部等)との連動を見据えた記録体制を整えておくことが重要です。
退職者の権利喪失手続のフロー構築(継続勤務条件との連動確認等)も発行後早めに対応すべき事項です。

法定調書の提出(翌年1月31日期限)

税務署への法定調書(新株予約権等交付調書)の提出期限は翌年1月31日です。
なお、権利行使時にも調書提出義務があります。
税制非適格SOの場合、権利行使時は給与所得として源泉徴収が必要となります。
税制適格SOは権利行使時には原則課税されず、株式譲渡時に課税されます。

IPO審査向け書類保管

IPO審査では発行経緯・配分根拠の合理性が必ず問われるため、評価報告書の原本・議事録・割当契約書全件・インセンティブ規程は早期から電子保存を含めた保管体制を整備してください。

失効等による登記

退職等により消却等を行った場合には変更登記が必要になるため、司法書士へ確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 株価算定はいつ依頼すればよいですか?

A. 発行決議(取締役会・株主総会)の2〜3か月前を目安に依頼してください。
監査法人のレビューが必要な場合はさらに前倒しが必要です。また、直近に資金調達(増資)が予定されている場合は、ファイナンスのタイミングと算定時点の整合を図る必要があります。算定機関と早めに相談し、スケジュールを確認してください。

Q2. 投資家が株主総会でSOの発行に反対した場合はどうなりますか?

A. 特別決議の場合、出席議決権の3分の2以上の賛成が必要なため、大株主である投資家が反対すると否決される可能性があります。
このリスクを避けるために、総会前の丁寧な事前説明が不可欠です。また、投資契約上の「事前承諾事項」に新株予約権の発行が含まれている場合は、書面による承諾取得が先決です。

Q3. 税制適格SOと有償SOを同時に発行することはできますか?

A. 可能です。
税制適格SO(無償)は取締役・従業員等を対象に、有償SOは監査役・顧問・社外協力者等を対象に同時発行するケースは実務上よくあります。ただし、それぞれ手続きが異なり(議案・発行要項・株価算定の種類等)、書類量が増えます。また、税制適格SOと非適格SOを「同一発行決議」で処理する際の要件確認も必要です。専門家と事前に整理してください。

Q4. 専門家に依頼せずにSO発行は可能ですか?

A. ケースによっては不可能ではありませんが、推奨はされません。

例えば、シード期で直近に普通株での増資を行った直後であれば、その資本取引の価格が株価の客観的根拠となり、別途の株価算定が不要となるケースがあります。
また、税制適格SOであれば無料で公表されている「シン・ストックオプション」等の契約書ひな形・株主総会議事録等のパッケージを活用し、自社でベースの書類を準備することも可能です。
登記についても、法人が自ら申請(本人申請)することは制度上可能です。

ただし、税制適格要件(行使価額の算定・付与対象者の適格性・年間行使上限額など)の充足については、一つでも要件を欠くと付与対象者に多大な税負担が生じるリスクがあり、専門家によるチェックは必須です。税制の解釈は複雑で、ひな形を使っていても要件を満たしていないケースは珍しくありません。発行コストを抑えることよりも、要件充足の確実性を優先することを強くお勧めします。

Q5. SO発行の費用は大まかにどの程度かかりますか?

A. 費用は発行の複雑さや依頼先によって大きく異なりますが、一般的な目安として以下の費用が発生します。
①株価算定費用:30万〜150万円程度(算定機関・算定種類・複雑さによる)
②司法書士費用(書類作成・登記申請含む):20万〜50万円程度
③弁護士費用(契約書リーガルチェック等):20万〜80万円程度
④登記の登録免許税:9万円(最低額。発行内容によっては異なる場合があります)
なお、監査法人レビューが発生する場合は別途費用が加算されます。詳細は次回(第10回)で解説予定です。

SO発行実務チェックリスト

各フェーズの実施事項をチェックリスト形式でまとめました。発行スケジュール管理にご活用ください。

フェーズ①:SO全体設計・投資家交渉(M-6以前〜M-4)

□ SOプール比率について投資家と交渉開始

□ 既存株主の希薄化への影響確認

□ 株主間契約に基づく事前承諾事項の確認

□ SO発行目的の明確化(採用強化 / リテンション / その他)

□ インセンティブ規程の策定またはレビュー

□ 役職別・層別の配分比率方針の決定

□ 発行回数方針の決定(毎年発行 / 集約発行)

フェーズ②:SO個別設計(M-3〜M-2)

□ SO種類の決定(税制適格SO / 有償SO / 税制非適格SO)

□ 付与対象者の確定(氏名・役職・付与数)

□ 発行条件の決定(行使期間・ベスティング・クリフ・取得条項等)

□ 司法書士・弁護士への相談・依頼開始(書類作成 / 登記)

□ 弁護士への相談(契約書リーガルチェック)

□ 監査法人への事前相談(会計処理・費用計上方法の合意)

□ 監査法人レビューの要否確認(IPO準備企業の場合は特に重要)

□ 株価算定機関の選定・依頼(発行決議の2〜3か月前を目安に)

□ 株価算定報告書の受領・内容確認

フェーズ③:発行実務(M-2〜M0)

□ 既存株主(投資家)への事前説明の実施(Fully Diluted比率・希薄化率等)

□ 投資家から書面承諾取得(投資契約上の事前承諾事項がある場合)

□ 新株予約権発行要項の作成(株価算定結果を反映した行使価額を明記)

□ 割当契約書の作成(対象者ごと)

□ 税制適格要件の対象者別確認(行使価額・対象者資格・年間行使上限等)

□ 弁護士による書類のリーガルチェック

□ 役員への付与の場合、役員報酬決議の準備(会社法第361条)

□ 従業員向け説明会または個別説明の実施

□ 取締役会の招集・開催(取締役会設置会社の場合)

□ 株主総会招集通知の発送(非公開会社は原則1週間前まで、全員同意なら省略可)

□ 株主総会による決議(非公開会社:原則株主総会必須、特に有利な条件の場合は特別決議)

□ 株主総会議事録または書面決議同意書の作成・保管

□ 有償SOの場合:払込期日までに対象者が対価を払込

□ 割当契約書への会社・対象者双方の署名・捺印

フェーズ④:登記・発行後対応(M0〜翌年1月)

□ 登記の申請(発行から2週間以内、会社法第915条)

□ SO台帳・行使管理表の作成・整備

□ 退職者の権利喪失フローの整備(継続勤務条件等の連動確認)

□ 「新株予約権等交付調書」の作成・税務署への提出(翌年1月31日期限)

□ IPO審査向け書類原本の保管体制構築(算定報告書・議事録・割当契約書全件・インセンティブ規程)

まとめ

SO発行は、目的設定から始まり、投資家交渉・専門家選定・設計・発行手続・登記・税務対応まで、複数の専門領域が絡み合う半年単位のプロジェクトです。本稿で整理した4つのフェーズと時間軸を念頭に、自社の発行スケジュールを逆算して組み立てていただければ幸いです。

次回(第10回)は、SO発行に関わる専門家の選び方と費用の目安について解説します。

専門家への早期相談を強くお勧めします

SO設計において最も避けていただきたいのは、「とりあえず発行して、問題が出たら直す」というアプローチです。権利行使条件は一度付与対象者に割り当てた後は変更に制約が伴い、内容によっては税制適格要件を失うリスクもあります。また、IPO審査では過去の発行経緯がすべて確認されるため、設計段階での不備が直前期になって発覚するケースも少なくありません。

「まだシードだから専門家に相談するのは早い」ということはありません。むしろ最初の発行が最も重要です。初回の設計が後続の発行のテンプレートになり、資本政策全体の方向性を規定するためです。条件設計に少しでも迷いを感じたら、まずは専門家にご相談ください。

ここまでお読みいただき、次のような不安や疑問を感じられた方も多いのではないでしょうか。

・権利行使条件の設計を専門家に相談したい
・ベスティング・クリフ・アクセラレーション条項の実務設計について確認したい
・IPO審査を見据えたSO全体設計の整合性をチェックしたい

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・圧倒的な算定実績:累計1000件超、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。IPO準備企業特有の複雑な資本政策にも精通したエキスパートが直接対応します。

・上場審査を見据えた品質:2014年以降、累計30件超の新規IPOに関与。監査法人レビューにも多数対応しており、算定を実施した案件について責任をもって最後まで対応します。

・最新税制への完全対応:ストックオプションのセーフハーバールールなど、最新の税制改正を踏まえた最適なアドバイスが可能です。

Gemstone石割公認会計士事務所ではストックオプション発行のための株価算定サービスを実施しております。

30分無料相談を実施しています

ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

セーフハーバー利用時の株式報酬費用の考え方・最小化の検討

行使価額設定のための株価算定

有償ストックオプション評価額(公正価値)の考え方・実務上の留意点

IPO審査を見据えた過去SO処理の整備・遡及対応

『まだ具体的なスケジュールが決まっていない』『概算費用だけ知りたい』という段階でのご相談も歓迎です。


スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格SO・信託型SO →こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務 →こちら

8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項 →こちら

9 ストックオプション発行の実務プロセス →今回です

10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。

著書(共著)
『スタートアップのための資本政策入門』(中央経済社)