新規IPO企業のストックオプション活用状況コラムをご覧いただきありがとうございます。
「ストックオプションプールは何%くらいが標準ですか?」
「役員と従業員の比率はどの程度が適当でしょうか?」
ストックオプション評価・株価算定を多数支援してきた中で、特に多く寄せられるご質問の一つです。
ストックオプション導入を決めた後も制度設計で悩まれる経営者・CFOは少なくありません。
ストックオプションは、報酬制度の一環として設計すべきものであり、正解は企業ごとに異なります。
一方で、他社の事例を参考にしたいというニーズが多いのも実情です。
本コラムでは、IPO企業のストックオプション設計事例を具体的に分析します。
潜在株比率や付与対象者、行使価額の推移などを公開資料から整理し、IPO準備企業の制度設計の参考となる実務ポイントを解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
本コラムで分かること
・IPO企業におけるストックオプション比率の実例
・役員・従業員への付与状況の実態
・ストックオプション設計上の実務的な示唆
【ご注意願います】
本コラム上の数値は、公開されている新規上場申請書類等に基づき作成しております。
ただし、一部は開示資料に基づく推定を含んでおり、前提条件により結果が異なる可能性があります。
2026年第10回目の事例は、株式会社ソフトテックスです。
この度のご上場を心よりお祝い申し上げます。
会社概要
上場申請書上の概要は以下の通りです。
| 社名 | 株式会社ソフトテックス |
| コード | 550A |
| 業種 | 情報・通信業 |
| 市場 | 東京証券取引所スタンダード市場 |
| 主幹事 | 岡三証券 |
| 承認日 | 2026年3月6日 |
| 公開日 | 2026年4月9日 |
| 事業内容 | システム開発関連事業 |
| 会社設立年月日 | 1984年2月1日 |
| 監査法人 | 有限責任監査法人トーマツ |
| 公開価格 | 1,940円 |
| 初値 | 3,200円 |
| 時価総額(公開) | 1,699 百万円 |
| 時価総額(初値) | 2,803 百万円 |
1984年2月設立のシステム開発企業であり、設立から約42年を経てIPOに至っています。
初値は公開価格より大きく上昇しております。
ストックオプション導入状況
株式会社ソフトテックスでは、ストックオプション制度が導入されています。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
発行済株式総数に対する新株予約権による潜在株式比率は、希薄化後ベースで4.59%です。
一般的な10%前後と比較すると低めの水準となっています。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
累計発行回数は1回のみです。
開示内容上、権利行使価額・行使期間・付与対象者等から、税制適格ストックオプションである可能性が高いと推定されます。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容についての開示資料は以下の通りです。
分かりやすいように執筆者が加筆・省略してあります。
| 回号 | 第1回 |
|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2018年6月22日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社取締役 4 当社従業員 5 |
| 新株予約権の数(個) [ ]:上場申請時個数 | 10,290 |
| 新株予約権の目的となる 株式の種類、内容及び数(株) [ ]:上場申請時個数 | 普通株式 370[37,000] |
| 権利行使価額(円) [ ]:上場申請時価額 | 51,140[512] |
| 新株予約権の行使期間 | 2020年6月23日 ~2028年6月21日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円) [ ]:上場申請時金額 | 発行価格 51,140[512] 資本組入額 25,570[256] |
| 新株予約権の行使の条件 | |
| ①継続勤務条件 | 条件付 |
| ②上場条件 | なし |
| ③相続人行使条件 | なし(継承不可) |
| ④その他 | なし |
第1回新株予約権は、税制適格ストックオプションとして発行されています。
2018年決議ですのでかなり前の発行となっております。
後述しますが、第1回発行後に株式報酬制度について社員持株会に重心を移したものと推定されます。
権利行使価額について
権利行使価額は51,140円となっています。
増資等の情報は無く、権利行使価額の設定方法については不明です。
権利行使条件について
内容から判明した当社の権利行使条件は以下の通りです。
①継続勤務条件は付されています。(例外条項あり)
②上場条件はなしです。
シリーズ第10回で上場条件なしの事例は初めてです。
③相続人による行使は不可となっています。
④その他の条件はありません。
付与対象者別付与状況
階層別の付与数状況
代表取締役・取締役・従業員別の付与人数、個数、持株比率、一人当たりの個数は以下の通りです。
| 人数 | 株数合計 | 比率 | 1人当たり株数 | 1人当たり比率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 取締役 | 2 | 22,500 | 2.79% | 11,250 | 1.39% |
| 従業員 | 4 | 14,500 | 1.80% | 3,625 | 0.45% |
取締役平均1.39%に対して従業員平均0.45%と約3倍の差をつけています。
付与のばらつき状況
| 従業員 | 人数 | 株数 | 比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 1 | 4,500 | 0.56% |
| 中央値 | 3,750 | 0.46% | |
| 最小値 | 1 | 2,500 | 0.31% |
従業員につきましては、最大付与者と最小付与者間は2倍以内の格差となっており、比較的フラットな配分になっています。
在職者に対する付与割合
「従業員全員にストックオプションを付与する必要がありますか?」実務上よくいただくご質問です。
| 付与人数 | 総数 | 付与割合 | |
|---|---|---|---|
| 取締役 | 2 | 4 | 50.00% |
| 従業員 | 4 | 22 | 18.18% |
上場申請時の在職者のどの程度の比率に付与されているかを算定しました。
取締役については付与率50%、従業員は18.18%と、限定して付与していると推定されます。
なお、付与決議時は取締役4名・従業員5名の計9名が対象でしたが、上場申請時点では退職等により取締役2名・従業員4名の計6名が残存しています。
当社のストックオプション設計の特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。
上場条件がない
ストックオプションと従業員持株会の併用
上場条件なし
上述の通り、当社ストックオプションには上場行使条件は付されていません。
実際に、上場前の2023年時点で3名の対象者が権利行使を行っていることが上場申請書に開示されています。
IPO準備企業において、上場条件を付さない税制適格ストックオプションは比較的珍しい事例といえます。
あえて上場条件を付していない理由について推定してみました。
従業員持株会との整合性
この後ご説明しますが、当社では株式報酬制度として従業員持株会を重視しているように見受けられます。
従業員持株会制度では、一般的に非上場であっても持株会で取得した持分を社員が引き出し保有することが可能になっています。
ストックオプションについても、持株会と同様に上場前でも経済的メリットを享受できる仕組みとして、足並みを合わせたものと考えられます。
金融商品取引業者
税制適格ストックオプションでは、権利行使後の株式について一定の保管委託要件を満たす必要があります。
現在は一定要件の下で発行会社による管理も認められています。
当社が税制適格ストックオプションを付与決議した2018年時点ではまだ会社による保管管理が認められていませんでした。
上場前、例えばM&A実行時に権利行使しようとしても、株式保管管理を引き受ける金融商品取引業者が限定的で権利行使ができなかったという事例が発生したと言われています。
この点への対応として、令和5年度税制改正により、一定の要件の下で発行会社による直接の保管管理が認められました。
当社については従業員持株会があったため金融商品取引業者との契約があったのではないかと推定されます。
このため上場前であっても権利行使が可能となったと考えられます。
ストックオプションと従業員持株会の併用
ストックオプション発行が1回のみである一方で、当社では従業員持株会をより活用しているように見受けられます。
従業員持株会を活用している会社事例として、シリーズ第8回のシステムエグゼをご紹介しておりますが、改めて従業員持株会についてご説明いたします。
従業員持株会は、従業員が給与天引きなどで自社株を定期的に購入する仕組みであり、一般的には会社側が「奨励金(拠出金に対する数%〜数十%の補助)」を出すことで、福利厚生や資産形成支援制度の一環として機能します。
従業員持株会とストックオプションの比較
ストックオプションと従業員持株会は何が違うのでしょうか。
ストックオプションと従業員持株会の制度上の違いをまとめてみました。
| 従業員持株会 | ストックオプション | |
|---|---|---|
| 主な原資 | 従業員の給与(自己資金) | 会社からの無償付与(行使時に行使価額の払込が必要) |
| 主な目的 | 福利厚生・財産形成・安定株主形成 | 業績向上へのインセンティブ・リテンション |
| 対象者 | 原則として全従業員 | 役員や特定のキーマンに限定されることが多い |
| 議決権 | 持株会理事長などが一括して行使 | 各保有者が直接行使 |
ストックオプションが会社からの報酬として役員や特定の従業員に付与されるのに対し、従業員持株会は従業員自身の資金で株式を購入する仕組みであり、会社が奨励金などで補助する福利厚生としての性格が強い制度です。
一般的には、急成長を志向するスタートアップではストックオプションが活用されやすく、安定成長型企業では従業員持株会を重視する例も見られます。
当社の従業員持株会利用状況
それでは持株会はどの程度活用されているでしょうか。
上場申請書「株式の状況」記載から推定します。(上場申請時残存者ベース)
| 人数 | 株数合計 | 比率 | 1人当たり株数 | 1人当たり比率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 持株会 | 1 | 74,400 | 9.22% | 74,400 | 9.22% |
| 代表取締役 | 2 | 143,500 | 17.78% | 71,750 | 8.89% |
| 取締役 | 4 | 101,500 | 12.58% | 25,375 | 3.14% |
| 監査役 | 3 | 15,500 | 1.92% | 5,167 | 0.64% |
| 従業員 | 14 | 75,800 | 9.39% | 5,414 | 0.67% |
| 合計 | 410,700 | 50.90% |
まず目につくのが筆頭株主が従業員持株会であることです。
役員、従業員の持株合計は50%を超えています。
IPOによりストックオプション無しでも多くの従業員がメリットを享受できたと考えられます。
従業員にとっては「自分たちの会社」という意識が生まれやすい体制になっているのではないでしょうか。
配当による持株会への間接的な補助
当社は上場申請書記載の最も古い決算期である2021年3月期から継続的に配当を実施しており、配当性向は7.3%~25.5%の水準です。
通常、持株会が受け取った配当金は株式の追加取得に充てられ、加入従業員全員が持株数に応じて恩恵を受けます。
つまり、継続的な配当を通じて、持株会に参加する従業員に対し、実質的な資産形成支援につながっていたと考えられます。
上記の通り、ストックオプション制度以外の手段でも従業員とIPOメリットを共有できるという点で、実務上示唆に富む事例といえます。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に報酬制度としてのストックオプションの位置付けは制度の効果を大きく左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家への早期相談をおすすめします。
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- 権利行使価額設定のための株価算定
- 現時点で取るべき次の実務ステップの整理
制度設計に着手する前のご相談をおすすめします。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプション →こちら
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8 ストックオプション設計における権利行使条件(リリース予定)
9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
こちらもご覧ください。
次回第11回はバトンズ【554A】の予定です。

