新規IPO企業のストックオプション活用状況事例 2026⑦ビタブリッドジャパン【親子上場】【有償SO】【配当還元方式】

新規IPO企業のストックオプション活用状況コラムをご覧いただきありがとうございます。

「ストックオプションプールは何%くらいが標準ですか?」
「役員と従業員の比率はどの程度が適当でしょうか?」

ストックオプション評価・株価算定を多数支援してきた中で、特に多く寄せられるご質問です。

ストックオプション導入を決めた後も制度設計で悩まれる経営者・CFOは少なくありません。

ストックオプションは報酬制度の一環として設計すべきものであり、正解は企業ごとに異なります。
一方で、他社の事例を参考にしたいというニーズが多いのも実情です。

本コラムでは、IPO企業のストックオプション設計事例を具体的に分析します。
潜在株比率や付与対象者、行使価額の推移などを公開資料から整理し、IPO準備企業の制度設計の参考となる実務ポイントを解説します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

本コラムで分かること
・IPO企業におけるストックオプション比率の実例
・役員・従業員への付与状況の実態
・ストックオプション設計上の実務的な示唆

【ご注意願います】
本コラム上の数値は全て公開されている新規上場申請のために開示された有価証券報告書の数値を使用しております。
ただし、一部は開示資料に基づく推定を含んでおり、前提条件により結果が異なる可能性があります。

2026年第7回目の事例は、株式会社ビタブリッドジャパンです。

この度のご上場を心よりお祝い申し上げます。

会社概要

上場申請書上の概要は以下の通りです。

社名株式会社ビタブリッドジャパン
コード542A
業種化学
市場東京証券取引所グロース市場
主幹事SBI証券      
承認日2026年2月27日
公開日2026年4月2日
事業内容ウエルネスケア関連の商品企画・開発・D2C販売
会社設立年月日2014年4月22日
監査法人東陽監査法人
初値1,301円
公開価格1,370円
時価総額(公開)7,672 百万円
時価総額(初値)7,286 百万円

2014年4月設立から約11年強でのIPOとなっています。

東京証券取引所プライム市場上場の株式会社ベクトルの子会社で上場申請時にもベクトルが約88%の持株比率であることが特徴的な点です。

ストックオプション導入状況

ストックオプションは導入されています。

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベースで7.78%です。

一般的な10%前後と比較するとやや低い水準ですが、これは親会社である株式会社ベクトルが高い持株比率を維持している資本構成が影響していると考えられます。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

ストックオプションの発行回数、種類

累計発行回数は2回です。

第1回:有償ストックオプション、第2回:税制適格ストックオプションと考えられます。

ストックオプション発行内容

ストックオプションの内容についての開示資料は以下の通りです。

分かりやすいように執筆者が加筆・省略してあります。

回号第1回第2回
ストックオプション種類(執筆者推計)有償ストックオプション税制適格ストックオプション
決議年月日2022年9月28日2024年7月25日
付与対象者の区分及び人数(名)当社代表取締役社長CEO  1当社代表取締役社長CEO  1
当社取締役  2
当社従業員  9
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
92670
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  920[184,000] 普通株式  670[134,000] 
権利行使価額(円)
[   ]:上場申請時価額
199,000[995] 2,500[13] 
新株予約権の行使期間2022年9月30日
~2032年9月30日
2027年7月26日
~2034年7月25日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)
[   ]:上場申請時金額
発行価格    199,000[995]
資本組入額  99,500[498] 
発行価格    2,500[13]
資本組入額   1,250[7] 
新株予約権の行使の条件  
①継続勤務条件条件付条件付
②上場条件ありあり
③相続人行使条件不可条件付
④株価条件ありなし
⑤その他なしなし

第1回については有償ストックオプションとなります。代表取締役社長CEO 1名のみが付与対象者となっています。
上場企業の子会社で2022年8月時点では親会社が95.4%株式を保有しており、株を保有していない代表取締役にも保有させるため、ストックオプションを発行したものと推測されます。
(代表者の上場時持株は全てストックオプションになっています。)

第2回については税制適格ストックオプションとなっています。

権利行使価額について

第1回、第2回の権利行使価額はそれぞれ199,000円と2,500円となっています。

第1回については開示情報上には記載はないために詳細は不明ですが、2022年8月にHYUNDAI BIOSCIENCE CO., LTD.からベクトルへの株式譲渡が実施されており、その際の譲渡価額が基準になった可能性があります。

第2回については上場申請書上に以下の記載があります。

株式の発行価額及び行使に際して払込をなすべき金額は、類似業種比準方式、純資産価額方式及び配当還元方式により算出した価格を総合的に勘案して決定しております。

税法上の株価(税法上の評価額)が適用されていますので、特例方式(いわゆるセーフハーバールール)による株価を権利行使価額に設定していると推定されます。

セーフハーバールールでは純資産価額方式を利用して株価が0円と評価されるケースも多く見受けられます。

しかし当社は、以下の要因により純資産価額方式は採用せずに配当還元方式による株価を採用したものと推定されます。
・優先株による資金調達を実施していないこと
・早期に黒字化しており純資産価額が高額になっていたこと
 (2022年2月末現在の1株当たり純資産価額は700,236円)

権利行使条件について

内容から判明した当社の権利行使条件は以下の通りです。

①継続勤務条件は第1回、第2回ともにありです。(但し、当社が特に行使を認めた場合を除く。)

②上場条件は第1回、第2回ともにありです。

③相続人による行使は第1回は不可、第2回は当社が特に認めた場合に限り可能となっています。

④業績条件はありません。

⑤株価条件は第1回のみありです。これは有償ストックオプションの支払対価を引き下げるために設定されたものと推定されます。

付与対象者別付与状況

階層別の付与数状況

代表取締役・取締役・従業員別の付与人数、個数、持株比率、一人当たりの個数は以下の通りです。

人数株数合計持株比率1名あたり株数1名あたり持株比率
代表取締役社長1274,0006.70%274,0006.70%
取締役214,4000.35%7,2000.18%
従業員929,6000.72%3,2890.08%
合計12318,0007.78%  

取締役平均0.18%に対して従業員平均0.08%と約2倍の差をつけています。

付与のばらつき状況

取締役への付与数は一律でばらつきは見られません。
1人あたり7,200株、持株比率0.18%となっています。

従業員人数株数比率
最大値16,0000.15%
中央値33,0000.07%
最小値16000.01%

従業員につきましては、最大付与者と最小付与者間で15倍の格差がついており、メリハリをつけた配分になっています。

在職者に対する付与割合

「従業員全員にストックオプションを付与しなければいけないですか?」実務上よくいただくご質問です。

人数総数付与割合
代表取締役11100.00%
取締役2450.00%
従業員9929.78%

上場申請時の在職者のどの程度の比率に付与されているかを算定しました。

取締役については付与率50%と少なく感じるかもしれません。
しかし社内の取締役2名に対する付与率は100%となっており、社外役員には付与しないという方針が窺われます。

従業員に対しては10%未満となっており、幹部社員に限定して付与していると推定されます。

当社のストックオプション設計の特徴

当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。

代表取締役に対してあえて有償ストックオプションを付与している。

セーフハーバールール特例的方式(配当還元方式)による株価で権利行使価額を設定している。

有償ストックオプションの活用

第1回有償ストックオプションを代表取締役1名のみに付与しています。

有償ストックオプションを発行する理由で最も一般的なのは税制適格要件外の場合、典型的なのは大口株主、外部協力者、監査役へのストックオプション付与になります。
ただし当社については付与時の代表取締役の持株比率は0で税制適格要件は充足しており、この理由には該当しません。

それでは当社はどうしてあえて有償ストックオプションを発行したのでしょうか?

有償ストックオプションを利用するその他の一般的な理由に該当するかを推定します。

理由1:年間行使可能限度額

税制適格要件の一つに年間権利行使限度額があります。

年間権利行使限度額は付与対象者の1年間での権利行使金額が1200万円(現在は条件により2400万円、3600万円)を超えてしまうと税制非適格になってしまうという限度額です。

第1回新株予約権は権利行使価額199,000円で920株分が付与されていますので、権利行使価額総額は約183百万円となります。

付与された2022年当時は年間権利行使価額限度は一律1200万円(現在は条件により2400万円、3600万円)でしたので、限度額の制約により、10年以内に全額行使することは困難です。

この限度額が障害となり税制適格ストックオプションを付与しなかったものと推定されます。

理由2:インセンティブ効果増加

理由の2つ目が対価支払いによるインセンティブ効果増加です。

第1回新株予約権の付与対価として代表取締役は、368万円の対価を会社に対して支払っています。

会社が無事にIPOに成功すれば多額の利益が見込める反面、IPOできなければこの対価支払いは投資資金が回収不能となるリスクを負うことになります。

代表取締役にとっては「身銭を切っている」形となり、企業価値を向上させるインセンティブ効果が増加することが期待されます。

当社の場合は理由1が主要因と推定され、理由2についても付随的要因であった可能性はあると推定されます。

有償ストックオプションについて詳しく知りたい方は、スタートアップのためのストックオプション入門コラム第5回「有償ストックオプションとは?」をご覧ください。

セーフハーバールール特例的方式(配当還元方式)株価による権利行使価額

セーフハーバールールと聞くと『純資産価額方式』による『1円SO』を連想しがちですが、本事例のように黒字企業が『配当還元方式』を用いて極めて低い行使価額(付与時2,500円、上場申請時13円)を実現している点は、非常に参考になる実務ポイントです。

前回第6回のセイワホールディングスに続いて当社は特例的方式(配当還元方式によるセーフハーバールール)を活用していると推定されます。

当社は
・優先株による資金調達を実施していないこと
・早期に黒字化しており純資産価額が高額になっていたこと
 (2022年2月末現在の1株当たり純資産価額は700,236円)
という特徴を有していることから配当還元方式を採用したと推定されます。

セーフハーバールールによる低権利行使価額を実現させるため、
2025年2月期   53,121千円
2025年8月中間期 39,841千円
の株式報酬費用を計上しております。

上記の通り、優先株式を発行していない黒字企業(純資産価額が大きい企業)であってもセーフハーバールールを活用することが可能という実務上の示唆に富む事例といえます。

次回第8回はシステムエグゼ【548A】の予定です。

非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に報酬制度としてのストックオプションの位置付けは制度の効果を大きく左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家への早期相談をおすすめします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所

・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績

・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与

・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験

Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
有償ストックオプション評価・設計支援サービス

を実施しています。

≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
≫税制適格ストックオプション設計・評価サービス
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

  • 貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
  • 税制適格SOが使えない場合の、有償SO・税制非適格SOの選択肢比較
  • 有償ストックオプションの評価額(公正価値)の考え方と実務上の留意点
  • 権利行使価額設定のための株価算定
  • 現時点で取るべき次の実務ステップの整理

制度設計に着手する前のご相談をおすすめします。

スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

6 税制非適格ストックオプション →こちら

7 ストックオプション発行会社の会計・税務→こちら

8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)

9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)

10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

こちらもご覧ください。

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。