新規IPO企業のストックオプション活用状況 2026⑨ヒトトヒトホールディングス【有償SO】【IFRS】【PEファンド】

新規IPO企業のストックオプション活用状況コラム第9回をご覧頂きありがとうございます。

ストックオプションの制度設計においては、
「プールは何%が適切か」「役員と従業員の配分はどうするか」
といったご相談を多くいただきます。

本コラムでは、IPO企業の実例をもとに、
ストックオプションの設計・活用実態を解説します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

【免責事項】
本コラムは公開情報に基づき作成しておりますが、一部推計・解釈を含みます。正確性・完全性を保証するものではなく、実務適用にあたっては個別に専門家へご相談ください。

2026年第9回目の事例は、ヒトトヒトホールディングス株式会社です。

この度の上場を心よりお祝い申し上げます。

会社概要

上場申請書上の概要は以下の通りです。

社名ヒトトヒトホールディングス株式会社
コード549A
業種サービス業
市場東京証券取引所スタンダード市場
主幹事野村證券      
承認日2026年3月3日
公開日2026年4月7日
事業内容ウエルネス・スポーツイベントの運営、オフィスビルや商業施設の警備・清掃、企業への人材派遣、及び商品・サービス販売支援等の事業を営むグループ会社の経営管理及びこれに付帯する業務関連の商品企画・開発・D2C販売
会社設立年月日2019年7月19日
監査法人太陽有限責任監査法人
初値422円
公開価格430円
時価総額(公開)6,020 百万円
時価総額(初値)5,908 百万円

グループ創業は1974年までさかのぼります。
現在の企業形態となったのは、2019年にPEファンドである日本成長投資アライアンスが運営するファンド設立会社が、創業会社の全株式を取得した時点です。
それ以降はM&Aにより人材派遣会社、警備会社等を傘下に収める、ロールアップ戦略により事業規模を拡大し、IPOを実現しました。

PEファンド主導で成長した持株会社という特徴を有しています。

初値は公開価格を下回る結果となりました。

ストックオプション導入状況

当社はストックオプションを導入しております。

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース4.27%です。

IPO準備企業では、ストックオプションの潜在株比率は10%前後となる事例が多く、本事例はそれを下回る水準です。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

ストックオプションの発行回数、種類

発行回数は全2回です。

ストックオプション発行内容

ストックオプションの内容に関する開示資料は以下の通りです。

読みやすさの観点から、一部加筆・省略を行っています。

回号第1回第2回
ストックオプション種類(執筆者推計)有償ストックオプション有償ストックオプション
決議年月日2019年11月29日2024年11月29日
付与対象者の区分及び人数(名)当社取締役       1
子会社取締役  7
子会社従業員  1
当社取締役       1
子会社取締役  5
子会社従業員  1
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
10,2902,205
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  10,290[514,500] 普通株式  2,205[110,250] 
権利行使価額(円)
[   ]:上場申請時価額
10,000[200] 12,000[240] 
新株予約権の行使期間2019年12月2日
~2034年12月1日
2024年12月2日
~2034年12月1日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)
[   ]:上場申請時金額
発行価格    10,185[204]
資本組入額  5,093[102] 
発行価格    12,294[246]
資本組入額  6,147[123] 
新株予約権の行使の条件  
①継続勤務条件ありあり
②上場条件ありあり
③相続人行使条件行使可行使可
④株価条件ありあり
⑤その他IPO後5年ベスティング
株式譲渡時行使条項
IPO後5年ベスティング
株式譲渡時行使条項

第1回・第2回ともに有償ストックオプションというのが特徴的です。

権利行使価額について

第1回:10,000円
第2回:12,000円

となっております。いずれも決議時点(株式分割前)の価額です。

権利行使条件について

継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件

継続勤務条件、上場条件、相続人行使条件については全回号で統一された条件となっています。

継続勤務条件:あり
上場条件:あり
相続人行使条件:相続人行使可

株価条件

株価が発行時株価(行使価額)を下回った場合に権利行使不可となるいわゆる下限株価条件(これ以下だと権利が消滅する)が付与されています。

このような条件は、一般に新株予約権の公正価値を抑制し、有償ストックオプションの払込金額を低減する目的で設定されるケースがあります。

具体的な条件は以下の通りです(第1回の場合)

新株予約権者は、次に掲げる各事由が生じた場合、当該事由発生日以降は、新株予約権者に発行された新株予約権の全部について権利行使できない。

①1株当たり10,000円(普通株式について株式分割または株式併合が行われる場合には、その比率に応じて修正されるものとする。以下、本項における金額の記載について同じ。)を下回る価格を発行価格とする普通株式の発行等が行われた場合(但し、払込金額が会社法第199条第3項、同第200条第2項に定める「特に有利な金額である場合」を除く。)

②1株当たり10,000円を下回る価格を行使価格とする新株予約権その他普通株式1株の交付を受けるのと引換えに払い込む金額が1株当たり10,000円を下回る価格の証券の発行が行われた場合

③1株当たり10,000円を下回る価格を対価として普通株式の売買その他の処分取引が行われたとき(但し、当該取引時点における実際の株式価値よりも著しく低いと認められる価格で取引が行われた場合を除く。)

④新株予約権の目的である普通株式が国内外のいずれかの金融商品取引所に上場され、かつ当該金融商品取引所における普通株式の終値が、10,000円を下回る価格となったとき

IPO後の市場取引株価(④)だけでなく、増資(①)、ストックオプション等の発行(②)、株式譲渡(③)といった上場前の株価形成局面も対象にしているのが特徴です。

ベスティング条件

IPO時点で50%が行使可能となり、残り50%については毎年10%ずつ、5年間にわたり権利確定するベスティング条件となっています。

株式譲渡時行使条件

PEファンド傘下企業特有の条件と考えられます。

後述します。

付与対象者別付与状況

階層別の付与数状況

開示資料から付与内容の判明している対象者について整理すると、以下の通りです。

人数株数合計比率1人当たり株数1人当たり比率
取締役2132,3000.90%66,1500.45%
子会社取締役10360,1502.46%36,0150.25%
従業員129,4000.20%29,4000.20%
子会社従業員3102,9000.70%34,3000.23%
合計13624,7504.27%  

傘下に5社を有する持株会社のため、子会社の取締役、従業員にも付与しているのが分かります。

取締役は1人当たり0.45%、それ以外の階層は1人当たり0.20%~0.25%と大きく2階層で分かれています。

付与のばらつき状況

比較的多数に付与されている子会社取締役についてばらつき状況を確認してみます。

最大付与数と最小付与数には約10倍の差があることが分かります。

子会社取締役人数株数
最大値273,500
中央値 29,400
最小値37,350

在職者に対する付与割合

「従業員全員にストックオプションを付与しなければいけないですか?」実務上よく受けるご質問です。

在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。

総数付与人数付与割合
取締役4250.00%
従業員2214.55%

子会社取締役、従業員は子会社に関する詳細な情報が無いため算定できておりません。

取締役50%、従業員4.55%とかなり低めで、厳選した対象者のみ付与されている印象です。

当社のストックオプションの特徴

当社のストックオプションの特徴は以下の通りです。

子会社取締役・従業員に対するストックオプション付与

有償ストックオプションのみ

株式譲渡時行使条件

有償ストックオプションのみ

2回のストックオプション全てが有償ストックオプションであることが特徴です。

あえて有償ストックオプションを採用した理由としては、以下のような点が考えられます。

税制適格非該当の条件設定

第1回は期間15年と税制適格要件の最長10年を超える条件設定となっています。

インセンティブ効果の最大化

付与時に対価支払いという自己負担を強いることで当事者意識の向上によるインセンティブ効果が期待されます。

株式報酬費用

当社はIFRSを採用しております。

IFRSでは、ストックオプションについて公正価値ベースでの株式報酬費用計上が求められます。
日本基準で認められている本源的価値による非上場企業の特例は利用できません。

有償ストックオプションについては、公正価値相当額で発行されている場合、追加的な株式報酬費用が発生しないケースがあります。
もっとも、実務上は役務提供対価性や公正価値算定の妥当性等の検討が必要となります。

非上場企業の特例処理について詳しく知りたい方は、スタートアップのためのストックオプション入門コラム第7回「ストックオプション発行会社の会計・税務処理完全ガイド」をご覧ください。

あくまで推定ですが、上記のいずれかの理由により有償ストックオプションのみの発行となったものと考えられます。

株式譲渡時行使条項

当社はPEファンドである日本成長投資アライアンスが運営するJ-GIA1号投資事業有限責任組合(「J-GIAファンド」)が設立した会社が母体となっています。

上場申請時においてもJ-GIAファンドが約80%の持株を保有しております。

PEファンド傘下の当社特有の行使条件が以下の2条件です。

エグジット事由の種類権利行使可能日
ドラッグ・エグジット(i)J-GIA1号投資事業有限責任組合(「J-GIAファンド」)が譲渡済割合が90%以上となるような株式の
譲渡実行日及び(ii)行使期間の始期のうち、いずれか遅く到来する日
過半数譲渡エグジット過半数譲渡エグジットに該当することとなる株式の譲渡実行日

いずれもJ-GIAファンドが所有権を譲渡しようとする場合に権利行使を可能とする条件で、一般的なM&A時の加速行使条項に近い内容と考えられます。

まとめ

本事例は、以下の点で特徴を有する、示唆に富む事例といえます。

・有償ストックオプションのみ付与

・PEファンドによる持分譲渡を前提とした権利行使条件

第10回はソフトテックスの予定です。

非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に報酬制度としてのストックオプションの位置付けは効果発現の成否を左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家に相談されることをおすすめします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所

・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績

・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与

・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験

Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
税制適格ストックオプション設計支援サービス
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≫ストックオプション発行目的株価算定サービス
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します。

  • 貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
  • 税制適格SOが使えない場合の、有償SO・税制非適格SOの選択肢比較
  • 有償ストックオプションの評価額(公正価値)の考え方と実務上の留意点
  • 権利行使価額設定のための株価算定
  • 現時点で取るべき次の実務ステップの整理

制度設計に着手する前にご相談いただくことをおすすめします。

スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内

IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。

1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら

2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら

3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら

4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら

5 有償ストックオプションとは →こちら

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10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)

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この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。