新規IPO企業のストックオプション活用状況コラムをご覧いただきありがとうございます。
「ストックオプションプールは何%くらいが標準ですか?」
「役員と従業員の比率はどの程度が適当でしょうか?」
ストックオプション評価・株価算定を多数支援してきた中で、特に多いご質問です。
ストックオプション導入を決めた後も制度設計で悩まれる経営者・CFOは非常に多いです。
ストックオプションは報酬制度の一環として設計すべきものであり、正解は企業ごとに異なります。
一方で、他社の事例を参考にしたいというニーズが多いのも実情です。
本コラムでは、IPO企業のストックオプション設計事例を分析します。
潜在株比率や付与対象者、行使価額の推移などを公開資料から整理し、IPO準備企業の制度設計の参考となる実務ポイントを解説します。
IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。
本コラムで分かること
・IPO企業におけるストックオプション比率の実例
・役員・従業員への付与状況の実態
・ストックオプション設計上の実務的な示唆
【ご注意願います】
なお、本コラム上の数値は全て公開されている新規上場申請のための有価証券報告書の数値を使用しております。
なお、一部は開示資料に基づく推定を含んでおり、前提条件により結果が異なる可能性があります。
2026年第4回目の事例は、株式会社ベーシックです
この度のご上場を心よりお祝い申し上げます
会社概要
上場申請書上の概要は以下の通りです。
| コード | 519A |
| 業種 | 情報・通信業 |
| 市場 | 東京証券取引所グロース市場 |
| 主幹事 | 岡三証券 |
| 承認日 | 2026/2/17 |
| 公開日 | 2026/3/25 |
| 事業内容 | ワークフローカンパニーとして、フロントオフィス業務を起点に、業務を支える各種ツールを通じて業務の自動化と生産性向上を支援 |
| 会社設立年月日 | 2004年3月18日 |
| 監査法人 | 監査法人Growth |
| 公開価格 | 870円 |
| 初値 | 800円 |
| 時価総額(公開) | 5,136百万円 |
| 時価総額(初値) | 4,723百万円 |
2004年3月設立から約22年でのIPOとなっています。
また申請期は2024年12月期の期越え上場となっており、申請期においては経常利益が赤字である点が特徴的です。(2025年6月半期では経常利益はプラスに転換しています。)
ストックオプション導入状況
ストックオプションは導入されています。
潜在株比率(ストックオプション比率)の水準
株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース7.65%です
一般的な10%前後と比較するとやや低い水準です。
ストックオプションの発行回数、種類、内容
ストックオプションの発行回数、種類
累計発行回数は10回であり、このうち申請期末時点で残存しているのは5回です。
(特に第7回、第9回の2回は申請期末である2024年12月31日付で消滅しております)
開示資料上、明確な区分は記載されていないため、権利行使価額や付与対象者等を踏まえ、以下の通り整理しています。
第1回:税制適格、第4回:税制非適格、第5回:税制適格、第8回:税制適格、第10回:税制適格と推定されます。
ストックオプション発行内容
ストックオプションの内容についての開示資料は以下の通りです。
分かり易いように執筆者が加筆・省略してあります。
累計発行回数は10回であり、このうち申請期末時点で残存しているのは5回です。
分かりやすくするため、以下では1,4,5回と8,10回を分けて比較します。
【発行内容のポイント】
- 種類: ほとんどが税制適格SOですが、役員向けの一部と第4回社外協力者向けは税制非適格SOとなっています。
- 行使価額: 第7回以降、未上場時の優先株式発行価額から「株価算定に基づく公正価値」へと設定根拠を切り替えている様子が伺えます。
- 条件: 全回号を通じて「上場条件」および「継続勤務条件」が付されており、IPO企業では一般的な設計です。
| 回号 | 第1回 | 第4回 | 第5回 |
|---|---|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 税制適格ストックオプション(一部税制非適格) | 税制非適格ストックオプション | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2017年6月26日 | 2018年1月29日 | 2020年3月30日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社役員 3、当社従業員 110 | 取引先アドバイザー(個人)2 | 当社役員 1、当社従業員 82 |
| 新株予約権の数(個) | 310 | 960 | 68 |
| 新株予約権の目的となる 株式の種類、内容及び数(株) [ ]:上場申請時個数 | 普通株310[4,650] | 普通株式 960 [14,400] | 普通株式 68 [915] |
| 権利行使価額(円) [ ]:上場申請時価額 | 9,847 [657] | 10,849 [724] | 11,089 [740] |
| 新株予約権の行使期間 | 自 2019年6月27日 至 2027年6月26日 | 自 2020年1月30日 至 2028年1月28日 | 自 2022年5月1日 至 2030年3月30日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円) [ ]:上場申請時金額 | 発行価格 9,847 [657] 資本組入額 4,924[328.5] | 発行価格 10,849 [724] 資本組入額 5,425 [362] | 発行価格 11,089 [740] 資本組入額 5,545 [370] |
| 新株予約権の行使の条件 | |||
| ①継続勤務条件 | あり | あり | あり |
| ②上場条件 | あり | あり | あり |
| ③相続人行使条件 | 不可 | 不可 | 不可 |
| 回号 | 第8回 | 第10回 |
|---|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 税制適格ストックオプション(一部税制非適格) | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2021年7月2日 | 2024年12月13日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | 当社取締役5、当社従業員61 | 当社従業員 92 |
| 新株予約権の数(個) [ ]:上場申請時個数 | 6,480 [6,386] | 20,543 [19,923] |
| 新株予約権の目的となる 株式の種類、内容及び数(株) [ ]:上場申請時個数 | 普通株式 6,480 [95,790] | 普通株式 20,543 [298,845] |
| 権利行使価額(円) []:上場申請時行使価額 | 3,275 [219] | 3,275 [219] |
| 新株予約権の行使期間 | 自 2023年7月8日 至 2031年6月22日 | 自 2026年12月31日 至 2034年10月31日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円) [ ]:上場申請時金額 | 発行価格 3,275 [219] 資本組入額 1,638 [109.5] | 発行価格 3,275 [219] 資本組入額 1,638 [109.5] |
| 新株予約権の行使の条件 | ||
| ①継続勤務条件 | あり | あり |
| ②上場条件 | あり | あり |
| ③相続人行使条件 | 不可 | 不可 |
開示資料に税制区分の明示はありませんが、行使価額、付与対象者、付与時期等から判断すると、第1回、第5回、第8回、第10回が税制適格ストックオプション、第4回のみが社外協力者向けの税制非適格ストックオプションである可能性が高いと考えられます。
ただし当社は監査等委員会設置会社のため第1回、第8回付与対象者である取締役の中には監査等委員も含まれています。
これにより、職務内容や報酬限度額の兼ね合いから、一部は税制非適格として発行されているものと推計されます。
当社ストックオプションの最大の特徴は付与対象者数が多いことです。
第1回は合計100名以上、第5回・第8回・第10回も50名以上に付与されています。
条件については変化は見受けられません。
消滅済ストックオプションの内容
参考までに2024年12月31日付けで消滅になった、第7回、第9回の概要も紹介します。こちらは上場申請書上判明する条件のみ記載します。
| 回号 | 第7回 | 第9回 |
|---|---|---|
| ストックオプション種類(執筆者推計) | 信託型ストックオプション | 税制適格ストックオプション |
| 決議年月日 | 2021年7月8日 | 2023年3月31日 |
| 付与対象者の区分及び人数(名) | コタエル信託 | 当社従業員 15 |
| 新株予約権の数(個) | 6,480 | 12,626 |
| 新株予約権の目的となる 株式の種類、内容及び数(株) | 普通株式 6,480 | 普通株式 12,626 |
| 権利行使価額(円) []株式分割後 | 3,275 [219] | ※8,715[581] |
| 新株予約権の行使期間 | 自 2023年7月8日 至 2031年6月22日 | 自 2025年3月31日 至 2033年2月28日 |
| 新株予約権の行使により株式を発行する場合の 株式の発行価格及び資本組入額(円) | 不明 | 不明 |
※第9回権利行使価額は株式分割後の行使価額581円より推定
特徴的なのは、第7回信託型ストックオプションです。
設定したものの、2023年に国税庁が信託型ストックオプションの課税関係について見解を公表したことを受け、信託から対象者への交付(ポイント割り当て・予約権譲渡)が行われる前に、発行体と信託の間で合意解約・消滅させたと推定されます。
権利行使価額について
第1回からの権利行使価額を一覧表としてまとめました。
| 第1回 | 第4回 | 第5回 | 第7回 | 第8回 | 第9回 | 第10回 |
| 2017年6月26日 | 2018年1月29日 | 2020年3月30日 | 2021年7月8日 | 2021年7月8日 | 2023年3月31日 | 2024年12月13日 |
| 9,847 | 10,849 | 11,089 | 3,275 | 3,275 | ※8,715 | 3,275 |
※第9回は株式分割後の行使価額581円より推定
第7回において、第5回と比較して権利行使価額が大幅に低下しています。
2021年5月に発行されたC種優先株式株価が13,840円であったことから、第5回までは第三者割当増資発行価額と同一にしていたものと推定されます。
第10回ストックオプションの権利行使価額については
新株予約権の行使に際して払込をなすべき金額は、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して、決定しております。
との記載があります。
第7回以降は株価算定による公正価値を権利行使価額として設定しているようです。
ただし消滅済の第9回のみ8,715円(株式分割後の権利行使価額のみ開示されているため推計値)と高い行使価額が設定されていますが、理由は不明です。
権利行使条件について
内容から判明した当社の権利行使条件は以下の通りで、全回号同一です。
①継続勤務条件あり(但し、当社が特に行使を認めた場合を除く。)
②上場条件あり
③相続人による行使不可
④業績条件なし
⑤株価条件なし
付与対象者別付与状況
まず前提条件について説明します。
この章は上場申請書の【株主の状況】欄記載事項から作成しております。
しかし当社の場合は株主が多数存在するため従業員株主の人数・持ち株比率の状況詳細が分かりません。
以下の仮定に基づき推計しています。
付与状況からその他71名として記載されている株主は全て従業員である。
その他の項目についても推計も不可能な状況になっており、開示情報の制約上、詳細な分析は困難です。
階層別の付与数状況
代表取締役・取締役・従業員のうち明細の判明している付与人数、個数、持ち株比率、一人当たりの個数は以下の通りです
| 人数 | 株数合計 | 比率 | 1人当たり株数合計 | 1人当たり比率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 取締役 | 4 | 14,400 | 0.28% | 3,600 | 0.07% |
| 従業員 | 102 | 360,405 | 6.67% | 3,533 | 0.07% |
| 元従業員 | 3 | 25,395 | 0.47% | 8,465 | 0.16% |
| 外部協力者 | 1 | 14,400 | 0.27% | 14,400 | 0.27% |
| 合計 | 110 | 414,600 |
付与のばらつき状況
取締役への付与数は一律でばらつきはありません。
従業員につきましては開示情報の制約上、全体像の把握は困難です。
| 取締役 | 人数 | 株数 | 比率 |
|---|---|---|---|
| 中央値 | 4 | 3,600 | 100.00% |
| 従業員 | 人数 | 株数 | 比率 |
|---|---|---|---|
| 最大値 | 5 | 30,000 | |
| 中央値 | 不明 | ||
| 最小値 | 不明 |
在職者に対する付与割合
「従業員全員にストックオプションを付与しなければいけないですか?」実務上よく受けるご質問です。
在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。
| 人数 | 総数 | 付与割合 | |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 0 | 1 | 0.00% |
| 取締役 | 4 | 4 | 100.00% |
| 従業員 | 102 | 111 | 91.89% |
推計上、ほぼ全従業員に付与されていると考えられます。
推定の前提は下記の通りです。
※推計前提
株主の状況に記載されている「その他71名」は全て従業員である。
(その他71名は全てストックオプション付与対象者であるが、付与明細から逆算すると付与時に従業員であったものであると推計される。)
当社のストックオプションの特徴
当社のストックオプションの特徴は以下の通りです
100名以上の従業員ほぼ全員に付与されている。
退職者(元従業員)保有SOの一部は会社が取得していない。
信託型ストックオプションを消滅させている。
従業員ほぼ全員への付与
前章でご説明した通り総社員111名のうち102名にストックオプションを付与しております。
直近に入社した従業員を除いてほぼ全社員に付与されていると推計されます。
総従業員20名以内の研究開発型企業では全社員に付与される事例はよくありますが、これだけの人数に付与されている事例は多くありません。
事務負担も大変なものになると思われます。
全社員にストックオプションを付与するという経営者の方針が伺えます。
退職者への権利行使容認
権利行使条件項でもご説明しましたが当社は権利行使条件として継続勤務条件を付与しています。
具体的には以下のような文言が記載されています。
(1)本件新株予約権の行使は、行使しようとする本件新株予約権又は本件新株予約権を保有する者(以下「権利者」という。)について注4に定める取得事由が発生していないことを条件とし、取得事由が生じた本件新株予約権の行使は認められないものとします。但し、当社が特に行使を認めた場合はこの限りではありません。
また注4には
(4)権利者が下記いずれの身分とも喪失した場合、当社は、未行使の本件新株予約権を無償で取得することができます。
(ア)当社又は当社の子会社(会社法第2条第3号に定める当社の子会社を意味し、以下単に「子会社」という。)の取締役又は監査役
(イ)当社又は子会社の使用人
しかし株主等の状況には、「元従業員」3名が新株予約権を保有しているとして記載されています。
「但し、当社が特に行使を認めた場合」として取り扱われたものと推計されます。
一般的にSO規程では「退職=失効」と定めますが、同社では「当社が特に行使を認めた場合」という例外条項を適用し、元従業員3名に権利を保持させている点が非常にユニークです。
これは、貢献のあったメンバーへの報い方として、実務上非常に柔軟で温かみのある設計事例と言えるでしょう。
継続勤務条件付与に悩まれている経営者にとっては、一つの示唆となるでしょう。
信託型ストックオプション消滅
2023年5月に公表された国税庁FAQでは、従業員等が信託からストックオプションの権利を取得した時点で原則として給与所得として課税されることが明確化されました。
これ以降、非上場企業での信託型ストックオプション利用にはメリットが乏しく、利用する事例は少なくなっています。
また設定したものの役員・従業員等に未譲渡の信託型ストックオプションについては、消滅させる企業が多い傾向にあり、当社もその1社と思われます。
100名以上の株主が存在するというかなり特殊なIPO形態でしたので、開示情報の制約上、分析に限界がある点はご容赦ください。
次回はジェイファーマの予定です。
非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要
ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。
特に報酬制度としてのストックオプションの位置付けは制度の効果を大きく左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所
・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績
・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与
・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験
Gemstone石割公認会計士事務所では、
ストックオプション発行のための株価算定サービス
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ご相談内容に応じて、次のような点を整理します
- 貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
- 税制適格SOが使えない場合の、有償SO・税制非適格SOの選択肢比較
- 有償ストックオプションの評価額(公正価値)の考え方と実務上の留意点
- 権利行使価額設定のための株価算定
- 現時点で取るべき次の実務ステップの整理
制度設計に着手する前のご相談をおすすめします。
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4 税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプション →こちら
7 ストックオプション発行会社の会計・税務(リリース予定)
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)
9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)
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