「スタートアップのためのストックオプション入門シリーズ」第6回をご覧いただき、ありがとうございます。
本コラムでは、スタートアップやIPO準備企業におけるストックオプション制度について、実務の観点から解説しています。
第6回では、税制非適格ストックオプションについて解説します。
スタートアップやIPO準備企業では、主に次の2種類のストックオプションが利用されます。
・税制適格ストックオプション
・有償ストックオプション
しかし実務上は、税制非適格ストックオプション(非適格SO)が利用されるケースも少なくありません。
本記事では、公認会計士の実務経験をもとに
・税制非適格ストックオプションの仕組み
・税制適格SO・有償SOとの違い
・課税タイミング
・スタートアップでの利用場面
を分かりやすく解説します。
- 結論(先に知りたい方へ)
- 税制非適格ストックオプションとは?定義と仕組み
- ストックオプション3種類の違い(税制適格ストックオプション・税制非適格ストックオプション・有償ストックオプション)
- 税制非適格ストックオプションの課税タイミングと税率の注意点
- 税制適格ストックオプションとの違い|税金の違い
- 有償ストックオプションとの違い|税金と設計の違い
- 税制非適格ストックオプションが使われる3つのケース
(M&A対策・外部協力者・1円SO) - 【最新動向】信託型ストックオプションの税務上の取扱いと現状
- スタートアップはどのストックオプションを選ぶべきか|適格SO・非適格SO・有償SOの使い分け
- 税制非適格ストックオプションに関するQ&A
- まずは専門家に相談してください
- スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
結論(先に知りたい方へ)
税制非適格ストックオプションは税制優遇はなく、権利行使時に給与課税が発生する。
制度設計の自由度が高い。
外部協力者など税制適格ストックオプションを使えない場合に利用されることが多い。
税制適格ストックオプション・有償ストックオプションと併用されることも多い。
税制非適格ストックオプションとは?定義と仕組み
税制非適格ストックオプションとは、税制適格ストックオプションの要件を満たさないストックオプションを指します。
税制上は、税制適格ストックオプション以外は広い意味で「税制非適格」とされます。
ただし実務では、次の3種類に分けて整理されることが一般的です。
・税制適格ストックオプション
・税制非適格ストックオプション(無償型)
・有償ストックオプション
なお、有償ストックオプションも税制上は非適格ストックオプションの一種ですが、実務上は区別して説明されることが多いため、本稿でも別区分として解説します。
税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで税制上の優遇措置を受けることができます。
具体的には、権利行使時には課税されず、株式売却時にのみ譲渡所得として課税されます。
一方、税制非適格ストックオプションの場合は、税制優遇が適用されません。
そのため、以下のタイミングで課税が発生します。
- 権利行使時:経済的利益が給与所得として課税
※役員の場合も給与所得
会社側では、役員給与として損金算入できるか(事前確定届出給与等の要件)について別途検討が必要となります。
※外部協力者の場合は雑所得または事業所得として課税されることが一般的です
(個別の契約関係や業務実態によって判断されます)。 - 株式売却時:譲渡所得として課税
この点が、税制適格ストックオプションとの大きな違いとなります。
もっとも、税制適格ストックオプションには多くの要件があり、すべてのケースで利用できるわけではありません。
そのため、実務上は税制非適格ストックオプションが利用される場面も一定程度存在します。
ストックオプション3種類の違い(税制適格ストックオプション・税制非適格ストックオプション・有償ストックオプション)
スタートアップで利用されるストックオプションは、主に次の3種類です。
- 税制適格ストックオプション
- 税制非適格ストックオプション
- 有償ストックオプション
それぞれの主な違いは次のとおりです。
| 区分 | 税制適格SO | 非適格SO | 有償SO |
| 付与 | 無償 | 無償 | 有償 |
| 行使時課税 | なし | 給与課税 | 原則なし |
| 売却時課税 | 譲渡所得 | 譲渡所得 | 譲渡所得 |
| 設計自由度 | 低い | 高い | 高い |
税制適格ストックオプションは税制優遇がある一方で、要件が多く制度設計の自由度は高くありません。
有償ストックオプションは税率面では有利ですが、公正価値による対価の支払いが必要になる点が特徴です。
これに対して税制非適格ストックオプションは、税制優遇はないものの、条件設定の自由度かつ無償という特徴があります。
3種類のストックオプションの相違点、税金等につきましてはシリーズ第2回「ストックオプションの種類と税金の違いを徹底解説」をご覧ください。
税制非適格ストックオプションの課税タイミングと税率の注意点
税制非適格ストックオプションでは、主に以下のタイミングで課税が発生します。
権利行使時(給与課税)
ストックオプションを行使して株式を取得した場合、
株式の時価 − 行使価額
が給与所得として課税されます。
例:
株価:1,000円
行使価額:100円
の場合、
差額900円に権利行使株数を乗じた金額が給与所得となります。
給与所得は総合課税の対象となるため、所得水準によっては所得税(最大45%)+住民税(10%)により最大約55%程度となる可能性がある点に注意が必要です 。
※復興特別所得税は考慮していません
株式売却時(譲渡所得課税)
権利行使後に株式を売却した場合は、株式の譲渡所得として課税されます。
計算は次のとおりです。
売却価格 − 権利行使時の株価
株式の譲渡所得は申告分離課税となり、通常は約20.315%の税率が適用されます。
税制適格ストックオプションとの違い|税金の違い
税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの主な違いは、税制優遇の有無です。
税制適格ストックオプションの場合は、
- 権利行使時:課税なし
- 株式売却時:譲渡所得課税
となります。
そのため、税率の観点だけを見ると、税制適格ストックオプションの方が有利になるケースが多いといえます。
ただし、税制適格ストックオプションを利用するためには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 付与対象者の制限
- 年間権利行使額の上限
- 権利行使期間の制限
- 契約内容の制限
このような要件のため、実務上は税制適格ストックオプションを利用できないケースもあります。
税制適格ストックオプションの税制適格要件についての詳細は、シリーズ第3回「税制適格ストックオプションの9要件とは?」をご覧ください。
有償ストックオプションとの違い|税金と設計の違い
有償ストックオプションは、ストックオプションを有償で取得する制度です。
有償ストックオプションでは、付与時に公正価値でオプションを取得するため、通常は付与時・権利行使時ともに給与課税は発生しません。
- 付与時:時価で取得 → 課税なし
- 行使時:公正価値で取得し、勤務対価性が認められない場合には給与課税は生じないと整理されることが多い
- 株式売却時:譲渡所得課税
税率の面では有利ですが、有償ストックオプションを発行する場合には、一般的にストックオプションの公正価値評価、株価算定が必要になります。
また、制度設計や税務上の整理についても慎重な検討が必要となるため、実務上は専門家の関与のもとで設計されるケースが多くなっています。
有償ストックオプションのメリットや活用方法についてはシリーズ第5回「有償ストックオプションとは?」をご覧ください。
税制非適格ストックオプションが使われる3つのケース
(M&A対策・外部協力者・1円SO)
税制非適格ストックオプションは、権利行使時に給与課税が発生します。
そのため、税務面では税制適格ストックオプションより不利になるケースが多いと説明されることが多い制度です。
しかし実務上は、一定の条件下では税制非適格ストックオプションが選択される場合もあります。
ここでは代表的なケースを紹介します。
M&AによるEXITを想定している場合
スタートアップのエグジットは、IPOだけでなくM&Aによる売却も一般的です。
早期のM&Aを想定しキャピタルゲインが限定的な場合、税制適格の厳しい制約(行使価額や期間の制限)を守るコストよりも、自由なインセンティブ設計を優先する方が合理的となるケースがあります 。
また、付与対象者が有償SOの対価支払いを望まない場合も、あえて非適格SOが採用されます 。
税制適格ストックオプションの要件を満たせない場合
税制適格ストックオプションには多くの要件があります。
例えば、
- 外部協力者
- 海外メンバー
- 大口株主の親族
- 監査役
などは対象外となる場合があります。
一般的には有償ストックオプション発行が検討されます。
しかし、以下のような場合にはあえて税制非適格ストックオプションが採用されます
・付与対象者が対価支払いを容認しない場合
・EXIT時の想定キャピタルゲインが小さく、行使時課税の影響が大きくない場合
税制非適格ストックオプションを利用することで、柔軟なインセンティブ設計が可能になります。
退職金型1円ストックオプションを発行する場合
通常のストックオプションは「発行時の株価(例:500円)」で株式を購入する権利です。
一方、退職金型1円ストックオプションは「1株1円」という極めて低い価格で株式を購入できる権利を付与する制度です。
税制上は税制適格の要件(行使価額≧付与時の時価)を満たさないため、必然的に非適格となります。
非上場企業よりも上場企業での採用事例が多い制度です。
なぜ通常の退職金(現金)ではなく、1円SOが使われるのかには理由があります。
〇受取人のメリット(節税効果)
〇企業のメリット(キャッシュアウト防止)
〇株価上昇へのインセンティブ。
このうち受取人の税務処理ですが、権利行使時に課税される点は変わりません。
「退職後◯日以内に行使」など一定の条件を満たす場合には、
給与所得ではなく退職所得として取り扱われる可能性があると整理されることがあります。
ただし、退職所得として認められるかどうかは
・職務執行との関連性
・報酬の性質
・契約条項の内容
などを踏まえた個別判断となります。
実際に退職所得を否認された裁判例も存在するため、制度設計には慎重な検討が必要です。必ず専門家に相談してください。
【最新動向】信託型ストックオプションの税務上の取扱いと現状
近年、スタートアップで利用されることがあった制度として、信託型ストックオプションがあります。
信託型ストックオプションは、信託に付与された有償ストックオプションを、後から役員・従業員等に無償で譲渡することで無償ストックオプションと同様の効果を発生可能とする仕組みです。
2023年5月に公表された国税庁FAQでは、従業員等が信託からストックオプションの権利を取得した時点で原則として給与所得として課税されることが明確化されました。
従来のスキームでの導入は慎重な検討が必要です 。
また、税制適格ストックオプションの「セーフハーバールール」が整備されたことで、特に非上場企業ではあえて信託型を選択するメリットは乏しくなったといえます 。
そのため、現在では従来型のストックオプション制度(税制適格ストックオプション、有償ストックオプションなど)を中心に検討されるケースが多くなっています。
スタートアップはどのストックオプションを選ぶべきか|適格SO・非適格SO・有償SOの使い分け
スタートアップでストックオプション制度を設計する場合には、
- 税制
- 制度設計の柔軟性
- 株価算定
- エグジット戦略
などを総合的に考慮する必要があります。
従業員向け:税制適格ストックオプション
経営陣向け:有償ストックオプション
特殊なケース:税制非適格ストックオプション
といった組み合わせで設計されることも多く見られます。
最近の新規IPO企業でも、税制適格ストックオプション・有償ストックオプション・税制非適格ストックオプションの3種類を併用している事例が見られます。
詳しくは新規IPO企業のストックオプション活用状況2026②イノバセルをご覧ください
税制非適格ストックオプションに関するQ&A
Q1 税制非適格ストックオプション発行時には株価算定は必要ないですか?
A1 いいえ
非上場企業であっても、会計上の「株式報酬費用」を計上するためにストックオプションの公正価値評価もしくは本源価値算定のための株価算定書が求められます 。
監査法人によるレビューや税務当局への説明責任を果たすためにも、公正価値評価に基づいた算定書の作成を推奨します 。
Q2 税制非適格ストックオプションと税制適格ストックオプションは同時に発行できますか?
A2 同一企業が税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションを併用することは可能です。
実務上は、対象者や目的に応じて条件を分けて設計するケースが多く見られます。
Q3 税制非適格ストックオプションと有償ストックオプションはどちらを優先させるべきでしょうか
A3 個別企業のステージや発行目的、対象によって相違します。
まずは税制適格ストックオプションを優先的に検討される事例が多いですが、迷うようでしたら専門家に相談されることをお勧めします。
Q4 信託型ストックオプションは全て税制非適格ですか?
A4 例外もあります
国税庁のQ&Aでは限定的ではありますが要件を充足すれば税制適格ストックオプションになるという事例が記載されています。
経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。
まずは専門家に相談してください
ここまでお読みいただき、次のような不安や疑問を感じられた方も多いのではないでしょうか。
・税制非適格ストックオプションは自社にとって有効なのか
・有償ストックオプションと税制非適格ストックオプションどちらを選択すべきか
・税制適格ストックオプションの予定だが非適格にはならないだろうか
税制非適格ストックオプションは、IPO準備企業にとって
- 税制適格ストックオプションでは実現できない柔軟な設計
- 税制適格ストックオプションの補完手段
を可能にする有力な手法です。
Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由
・圧倒的な算定実績: 累計1000件超、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。IPO準備企業特有の複雑な資本政策にも精通したエキスパートが直接対応します。
・上場審査を見据えた品質: 2014年以降、累計30件超の新規IPOに関与 。監査法人レビューにも多数対応しており、算定を実施した案件について責任をもって最後まで対応します。
・最新税制への完全対応: ストックオプションのセーフハーバールールなど、最新の税制改正を踏まえた最適なアドバイスが可能です 。
Gemstone石割公認会計士事務所ではストックオプション発行のための株価算定サービスを実施しております。
30分無料相談を実施しています
ご相談内容に応じて、次のような点を整理します
貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
税制適格SOの行使価額設定の考え方
有償ストックオプション評価額(公正価値)の考え方、実務上の留意点
行使価額設定のための株価算定
『まだ具体的なスケジュールが決まっていない』『概算費用だけ知りたい』という段階でのご相談も歓迎です
スタートアップのためのストックオプション入門シリーズご案内
IPO準備企業向けにストックオプションの制度・税務・実務を体系的に解説しています。
1 ストックオプションとは?仕組みとスタートアップに有利な理由 →こちら
2 ストックオプションの種類と税金の違い →こちら
3 税制適格ストックオプションの9要件 →こちら
4税制適格SOの権利行使価額とセーフハーバー →こちら
5 有償ストックオプションとは →こちら
6 税制非適格ストックオプション→今回です
7 ストックオプション発行会社の会計・税務(リリース予定)
8 ストックオプション設計における権利行使条件・取得条項(リリース予定)
9 ストックオプション発行の実務プロセス(リリース予定)
10 ストックオプション発行の専門家と費用(リリース予定)







