【非上場スタートアップ向け】非上場企業の株価算定の3種類|DCF法・マルチプル法・純資産法の使い分けとIPO準備でのポイント 【公認会計士が解説】

スタートアップのための株価算定入門コラム第2回をご覧いただきありがとうございます。

非上場企業の株価算定は、ストックオプション発行、増資、M&A、IPO準備など、企業の命運を分ける意思決定に不可欠です 。
特にスタートアップでは、バリュエーション交渉や税務リスク回避、上場審査のため、算定の「妥当性」が企業価値の信頼性を左右します 。

本コラムでは、年間139件の株価算定、ストックオプション評価を実施する公認会計士の実務経験に基づき、非上場株価算定で用いられる3つのアプローチと、その中でも実務上多用される算定方法、さらに各手法が使用される局面について体系的に解説します。

【結論まとめ|先に知りたい方へ】

・非上場企業の株価算定は「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」「ネットアセット・アプローチ」の3種類に大別される

・IPO準備企業ではDCF法(インカム・アプローチ)が中心的手法となることが多い

・VC資金調達ではマルチプル法(マーケット・アプローチ)が併用されることも多い

・税制適格ストックオプションでは税法評価特例方式(いわゆるセーフハーバールール)も利用される

・実務では単独手法ではなく、複数アプローチによるクロスチェックが重要

非上場株価算定の3つのアプローチ

【比較】非上場株式の株価算定における3つのアプローチ

企業価値評価は理論上、次の3つのアプローチに分類されます。

アプローチ考え方主な算定方法
マーケット・アプローチ市場で取引されている類似会社・取引価格を基準に評価マルチプル法、市場価格法
インカム・アプローチ将来生み出すキャッシュフローに基づき評価DCF法、収益還元法
ネットアセット・アプローチ会社の純資産価値に基づき評価修正簿価純資産法、簿価純資産法

これらは「企業価値の源泉を何に求めるか」という視点の違いに基づいています。

マーケット・アプローチは市場で成立している価格を基準とします。
インカム・アプローチは将来収益力を基礎として現在の価値を算定します。
ネットアセット・アプローチは純資産価値を基礎とします。

実務では単独で用いるだけではなく、目的に応じて組み合わせて使用されることが一般的です。

マーケット・アプローチとは|非上場企業の株価算定方法

マーケット・アプローチは、市場における取引価格は合理的であるという前提に立ち、類似上場企業や過去の増資発行価格を参照して評価する方法です。

マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法とは

類似会社の指標を活用して株価を算定するのがマルチプル法です。
類似上場会社のPER、EV/EBITDA、PSRなどの倍率(マルチプル)を抽出し、それを評価対象会社の指標に乗じて企業価値を算定します。

例えば、類似会社のEV/EBITDA倍率が10倍であり、対象会社のEBITDAが1億円であれば、企業価値は10億円と算定されます。

この方法は、IPO直前企業の株価算定、M&Aにおける価格妥当性の補完資料、増資価格決定交渉時などで広く使用されます。

マルチプル法の注意点

もっとも、類似企業の選定が評価結果を大きく左右するため、事業内容、成長率、利益率、ビジネスモデルなどを慎重に比較する必要があります。

また、赤字スタートアップでは適切な利益指標が存在しない場合もあり、その際は売上倍率(PSR)などを用いる工夫が求められます。

市場価格法

市場価格法とは市場で取引された価格を株価として採用する方式です。

非上場株式は市場で取引はされませんので、直近の第三者割当増資発行価格を株価として採用す可能な場合に適用されます。

インカム・アプローチとは|非上場企業の株価算定方法

インカム・アプローチは、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する手法です。
理論的整合性が最も高く、IPO準備企業において中心的な手法となります。

DCF法(Discounted Cash Flow法)

DCF法とは

DCF法は、将来のフリーキャッシュフローを割引率(資本コスト等)で割り引く方法です。
将来の成長性を直接数値に反映できるため、急成長するスタートアップと非常に親和性が高いのが特徴です。

実務では、IPO準備企業の株式価値算定、ストックオプション発行時の公正価値評価、M&Aの価格交渉、会計上の減損テストなどで使用されており、スタートアップの株価算定において最も多く用いられる算定方法の一つです。

DCF法の注意点

一方で、事業計画の合理性が厳しく検証される点が大きな特徴です。

IPO準備においては、売上成長率や設備投資計画などの「事業計画の合理性」が、第三者(監査法人・証券会社)の視点から厳しく検証されます 。

また、DCF法では、将来フリーキャッシュフローに加え、継続価値(ターミナルバリュー)の算定や、割引率(WACC、VCR)の合理的設定が評価額を大きく左右するため、高度な専門判断が求められます 。

収益還元法

収益還元法は、直近期もしくは計画1期の収益を資本還元率で割り戻すことで価値を算定する方法です。

DCF法より簡便であり中長期事業計画未作成企業にも適用可能なため、小規模企業のM&A価格算定、訴訟目的の株価算定などで利用されます。

ネットアセット・アプローチとは|非上場企業の株価算定方法

ネットアセット・アプローチは、企業の純資産価値に着目する方法です。
企業が保有する資産から負債を差し引いた価値を基礎とするため、清算価値に近い概念を持ちます。

修正簿価純資産法

修正簿価純資産法は、貸借対照表上の純資産を時価ベースに修正して算定します。
例えば、土地を時価評価し、有価証券を市場価格に修正し、含み損益を反映させます。

この方法は、清算を前提とした株価算定、訴訟目的の株価算定で利用されます。

また小規模企業のM&A時には修正簿価純資産法での株価に営業権相当額として営業利益の2~4年分を加算して株価を算定する年倍法(年買法ともいいます)が実務で慣行的に用いられることがあります。
ただし、理論的な企業価値評価手法とは位置付けられていません。

簿価純資産法

簿価純資産法は、貸借対照表上の純資産額をそのまま株式価値とする簡便法です。
創業初期段階や事業活動が限定的なSPCなどでは参考値として用いられることがあります。

ただし、将来収益力を反映しないため、成長企業の評価には通常適していません。

税法評価について

今回のコラムでは説明いたしませんが、非上場株式価値評価においては税法評価も用いられることがあります。

いままでご説明してきた3つの算定アプローチは公正価値評価といい、理論上の株価算定になります。
財務上の株価とも呼ばれることがあります。

これに対し税法評価とは税金費用算定目的で国税当局が定める算定方法で、財産評価基本通達により算定方法が定められています。

スタートアップ・上場準備企業においても株主間株式売買価格決定や税制適格ストックオプション行使価額決定において税法評価が使用される場合があります。

税制適格ストックオプション行使価額決定に使用される税法評価特例方式(いわゆるセーフハーバールール)についてはスタートアップのためのストックオプション入門④コラムをご参照ください。

IPO準備企業における実務上の使い分け

IPO準備企業では、評価目的に応じて手法が使い分けられます。

ストックオプション発行時

ストックオプション発行時には権利行使価額決定および会計目的(株式報酬費用算定)のために株価算定が実施されます。

DCF法を中心に算定され、IPO直前の場合にはマルチプル法も折衷される場合があります。

シードからアーリーステージにおける権利行使価額決定には税法評価特例方式(いわゆるセーフハーバールール)も多く用いられます。

増資発行時

VCからの資金調達価格決定ではマルチプル法とDCF法を併用し、マーケットとの整合性を確認する事例が多いです。

上場申請直前期・直前々期の増資は価格妥当性が上場申請時の開示対象となるため、上場審査に対応するように第三者評価が必要となります。
その際にはDCF法が用いられることが多いです。

優先株式発行の場合はDCF法に加え、オプション・プライシング・モデル等も使用して優先株価を算定します。

M&A価格決定時

M&A価格の決定プロセスは双方の利害が対立し複雑になることが多いため、単一の算定方式のみでは価格交渉の妥協点を見出しにくい場合があります。

そのためDCF法に加えマルチプル法、修正簿価純資産価額法を併用し広い価値範囲を提示することが多いです。

小規模企業の買収時には収益還元法や年倍法が使用される場合もあります。

重要なのは、単一の方法に依存するのではなく、複数アプローチによるクロスチェックを行い、評価レンジの妥当性を説明できる状態にすることです。

まとめ|評価手法の選択は「目的」で決まる

非上場企業の株価算定に万能な手法は存在しません。

ご説明したように利用目的やステージに応じて3つのアプローチを使い分けることが非常に重要です。

さらにIPO準備企業では、評価方法選択だけでなく評価にあたり複合的な専門判断が求められます。

事業計画の合理性検証、割引率の設定、類似企業の選定、税務・会計・会社法との整合性など、多面的な検討が必要となります。

そのため、会計・税務・ファイナンスを横断的に理解する公認会計士による株価算定書の作成は、企業価値の信頼性を高め、上場審査対応の合理性説明に資する重要なプロセスであります。

株価算定に関するよくある質問

Q1 ストックオプション発行を計画していますが第三者株価算定書は必要ですか?

A1 株主、監査法人、証券会社とご相談ください

発行される時期や権利行使価額の決定方法により必要性が変わります。

上場申請直前期・直前々期の発行時や、セーフハーバールールを利用した発行時には、算定機関作成の株価算定書を求められる場合が多いようです。

Q2 優先株式での増資発行を検討しています。優先株式株価算定は可能ですか?

A2 可能です

優先株式株価算定時にはインカム・アプローチやマーケット・アプローチでの株価算定に加えて、オプションプライシングモデルを使用した優先分配金額価値算定が必要になります。
優先株価算定については別の回でご説明します。

Q3 どの算定方法を使用するかは自社で決定するのですか?

A3 最終的には算定機関(公認会計士等)が決定します。

算定目的や企業のステージに基づき、最適な手法を選定します 。

非上場企業の株価算定・企業価値評価は専門家への相談が重要

ここまでお読みいただき、次のような不安や疑問を感じられた方も多いのではないでしょうか。

・株価算定が必要と言われたが誰に頼めばよいか分からない
・いつ頃に株価算定すれば良いか迷っている
・手続等が複雑そうで不安

株価算定は、資本政策イベント時の条件が適当であることを示すための重要なプロセスです。

監査法人監査や証券取引所の上場審査で提出を求められることもございます。
経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・圧倒的な算定実績: 累計1000件超、直近2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。IPO準備企業特有の複雑な資本政策にも精通したエキスパートが直接対応します。

・上場審査を見据えた品質: 2014年以降、累計30件超の新規IPOに関与 。監査法人レビューにも多数対応しており、算定を実施した案件について責任をもって最後まで対応します。

・最新税制への完全対応: ストックオプションのセーフハーバールールなど、最新の税制改正を踏まえた最適なアドバイスが可能です 。

Gemstone石割公認会計士事務所では初回30分無料相談を実施しております。

『まだ具体的なスケジュールが決まっていない』『概算費用だけ知りたい』という段階でのご相談も歓迎です

まずは弊所にご相談ください。

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。