新規IPO企業のストックオプション活用状況 2026②イノバセル

新規IPO企業のストックオプション活用状況コラムをご覧頂きありがとうございます。

「ストックオプションプールは何%くらいが標準ですか?」
「役員と従業員の比率はどの程度が適当でしょうか?」

ストックオプション評価・株価算定を多数支援してきた中で、特に多いご質問です。

ストックオプション導入を決めた後も制度設計で悩まれる経営者・CFOは非常に多いです。

ストックオプションは報酬制度の一環として検討すべきなので正解は各企業によって異なるというアドバイスを実施していますが、それでも他社動向が皆様気になるようです。

本コラムはそういった皆様に向けて新規IPO企業がストックオプションを導入しているか、どのように活用しているかを1社毎に検証します。

IPOに成功した企業の事例を知ることで、IPO準備企業のストックオプション設計の参考となれば幸いです。

【ご注意願います】
なお、本コラム上の数値は全て公開されている新規上場申請のための有価証券報告書の数値を使用しております。一部推定も含まれておりますので事実と相違している可能性もございますのでご了承ください。

2026年2回目の事例は、株式会社イノバセルです

この度の上場を心よりお祝い申し上げます

会社概要

上場申請書上の概要は以下の通りです。

社名イノバセル株式会社
コード504A
業種医薬品
市場東京証券取引所グロース市場
主幹事野村證券 
承認日2026/1/19
公開日2026/2/24
事業内容便失禁、尿失禁疾患などを対象とした再生医療等製品の開発、製造及び販売
会社設立年月日2021年1月5日
監査法人監査法人アヴァンティア
初値1,248円
公開価格1,350円
時価総額(公開)56,343 百万円
時価総額(初値)52,086 百万円

2021年1月設立から第4期(申請期)に上場しており、設立から比較的短期間でのIPOとなっています。

ただし上場申請書記載の沿革によれば、オーストリアで2000年に創業した会社を三角合併により子会社化するという沿革になっておりますので、実質的な創業からは26年目ということになっています。

また再生医療というディープテック企業なので事業収益0円、営業損失での上場という特徴があります。

ストックオプション導入状況

ストックオプションを導入しています

潜在株比率(ストックオプション比率)の水準

株式の総数に対する新株予約権による潜在株式の割合は希薄化後ベース12.69%です

ただしこのうち6.16%はThe Prudential Assurance Company Limited向けに資金調達目的で発行した新株予約権の比率になります。

従ってストックオプションの比率は6.53%となります。

一般的な10%前後と比較するとやや低い水準です。

ストックオプションの発行回数、種類、内容

ストックオプションの発行回数、種類

発行回数は4回です。(そのうち1回は申請期以降の2025年8月発行です)

第1回:税制適格、第2回:税制非適格、第3回:有償、第4回:税制適格(一部非適格)と推定されます。

ストックオプション発行内容

ストックオプションの内容についての開示資料は以下の通りです。

分かり易いように執筆者が加筆・省略してあります。

発行回数は4回です。(そのうち1回は申請期以降の2025年8月発行です)

1~3回は同タイミングで発行されていますので、1~3回と4回を分けて比較します。

回号第1回第2回第3回
ストックオプション種類(執筆者推計)税制適格ストックオプション税制非適格ストックオプション有償ストックオプション
決議年月日2022年12月13日2022年12月13日2022年12月13日
付与対象者の区分及び人数(名)当社取締役5名
当社従業員6名
当社監査役1名
当社子会社従業員28名
当社取締役3名
当社監査役2名
当社従業員1名
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
1,121,200
[856,960]
983,200
[867,500]
168,300
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  1,121,200 
[856,960]
普通株式  983,200 
[867,500]
普通株式  168,300
権利行使価額(円)720720720
新株予約権の行使期間自  2024年12月14日
至  2032年12月13日
自  2024年12月14日
至  2032年12月13日
自  2024年12月14日
至  2032年12月13日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価格及び資本組入額(円)※発行価格        720
資本組入額    360
発行価格        720
資本組入額    360
発行価格        729.9
資本組入額    365
新株予約権の行使の条件   
①継続勤務条件ありありあり
②上場条件ありありあり
③相続人行使条件不可不可
④業績条件なしなしあり
ICEF15の薬事承認(※)
⑤株価条件なしなしあり
719円でノックアウト

※ICEF15は当社開発中の再生医療等製品を指します。

第1回が税制適格ストックオプション、第2回は税制非適格ストックオプション、第3回が有償ストックオプションと推定されます。

第2回は条件的には税制適格と概ね同様ですが、対象者が監査役およびオーストリア子会社従業員となっており、日本の税制適格税制が適用されない対象者向けと推定されます。

(子会社従業員向けストックオプションは税制適格ですが非居住者は居住国税制が適用されますので税制非適格となります)

第3回は人数から税制適格ストックオプション付与に加えての付与を有償発行したものと推定されます。

回号第4回
ストックオプション種類(執筆者推計)税制適格ストックオプション(一部非適格)
決議年月日2025年7月24日
付与対象者の区分及び人数(名)当社従業員6名
当社子会社従業員8名
新株予約権の数(個)
[   ]:上場申請時個数
597,800
新株予約権の目的となる
株式の種類、内容及び数(株)
[   ]:上場申請時個数
普通株式  597,800
権利行使価額(円)850
新株予約権の行使期間自  2027年7月25日
至  2035年7月24日
新株予約権の行使により株式を発行する場合の
株式の発行価格及び資本組入額(円)※
発行価格        850
資本組入額    425
新株予約権の行使の条件 
①継続勤務条件あり
②上場条件あり
③相続人行使条件不可
④業績条件なし
⑤株価条件なし

第4回ストックオプションは税制適格ストックオプションですが、子会社従業員向けは国外居住者ですので非適格になると推定されます。

対象人数からは第1回~第3回新株予約権発行後の入社従業員に対して追加発行されたものと推定されます。

権利行使価額について

第1~3回の行使価額は720円、第4回の行使価額は850円で設定されております。

いずれも直近の増資発行価格と同一となっております。

当社は第三者割当増資を普通株のみで実施しているため、直近の第三者割当増資価格を株価の指標とした可能性が高いと推察されます。

権利行使条件について

内容から判明した当社の権利行使条件は以下の通りです

第1,2,4回の行使条件

①継続勤務条件あり(除く任期満了、定年退職)

②上場条件あり

③相続人による行使不可

④業績条件なし

⑤株価条件なし

第3回(有償)の行使条件

①継続勤務条件あり(除く任期満了、定年退職)

②上場条件あり

③相続人による行使可

④業績条件あり:ICEF15の薬事承認

⑤株価条件あり:719円でノックアウト

有償ストックオプションは条件が相違しております。

株価条件はオプション評価額(払込金額)を抑制する目的で設計されることが多いノックアウト条件が付されています。

M&A対応のアクセラレーション条項

また表中には記載しておりませんが第1回~第3回にはアクセラレーション条項が付与されているのが特徴です。

アクセラレーション条項につきましてはこの後でご説明します。

付与対象者別付与状況

最初に注意をさせて頂きます。

この章は上場申請書の【株主の状況】欄記載事項から作成しております。

しかし当社の場合は株主が200名以上いるため従業員株主の人数・持ち株比率の状況が分かりません。

多くの項目については推計も不可能な状況になっており、開示情報の制約上、詳細な分析は困難です。

なお、株主が多い背景としては、当社がクラウドファンディングによる資金調達を実施しているためと推定されています。

階層別の付与数状況

代表取締役・取締役・従業員のうち明細の判明している付与人数、個数、持ち株比率、一人当たりの個数は以下の通りです

人数株数合計比率1人当たり株数
代表取締役2272,4000.71%136,200
取締役2(総数3)291,5000.76%145,750
従業員3(総数13)240,1000.63%80,033

一部明細のみ判明しておりますので、開示情報の制約上、詳細な分析は困難です。

付与のばらつき状況

開示情報の制約上、全体像の把握は困難です。

在職者に対する付与割合

「従業員全員にストックオプションを付与しなければいけないですか?」実務上よく受けるご質問です。

在職者のどの程度の比率に付与されているかを推計しました。

在職人数推定付与人数
代表取締役22
取締役33
監査役32
従業員1312
子会社従業員3536

推計ですので付与比率は記載しておりません。

推計上、ほぼ全従業員に付与されていると考えられます。

なお子会社従業員は在職人数よりも推定付与人数が大きくなっていますが、退職者を含むためと推定されます。

推定の前提は下記の通りです。

※推計前提
第3回は第1回、第2回付与者に含まれている。
第4回は第1回~第3回付与者は含まれていない(中途入社者への付与)

当社のストックオプションの特徴

当社のストックオプション特徴は以下の通りです

税制適格、税制非適格、有償ストックオプションの3種類を使い分けている

子会社従業員に付与している

M&Aエグジットに対応するようアクセラレーション条項を付与している

3種類のストックオプション使い分け

1回の発行で3種類のストックオプションを使い分けています

区分方法は以下の通りと推定されます

【第1回】税制適格対象者には税制適格ストックオプションを発行

【第2回】監査役、海外居住者といった税制適格対象外付与者には税制非適格ストックオプションを発行

【第3回】取締役等の幹部には【第1回】の追加分を有償ストックオプションを発行

税制適格と税制非適格は条件面は同一のようですので、混在しての発行も可能ですが管理上の要因から別回号での発行になったものと思われます。

子会社従業員への付与

税制適格要件の対象者要件では一定の要件を満たす子会社役員・従業員等を対象とすることも認められています。

実際に持株会社形式を取られている会社では一般的に子会社従業員向けのストックオプション発行が実施されています。

今回は海外子会社従業員を対象としている点、子会社従業員全員を付与対象としている点が特徴的です。

当社が再生医療という研究開発型の企業であり、子会社が研究開発機能を担っていることからこのような付与形態になったものと思われます。

アクセラレーション条項

アクセラレーション条項とは、買収されることが決議された場合には、権利行使条件には拘束されずに権利行使することが可能となる条項を意味します。

買収の際に権利行使を加速させるという効果からアクセラレーション条項と呼ばれています。

具体的には以下のような条項になります。

アクセラレーション条項例

上記の定めに関わらず、本新株予約権者は、当社の買収について、法令上必要な当社の株主総会その他の機関の承認の決議又は決定が行われた日以降当該買収の効力発生日の5日前までの間に限り、本新株予約権を行使することができるものとする。

「上記の定め」とは各種権利行使条件を指します。

特に東証グロース市場の上場維持条件見直し以降は、M&Aエグジットも選択肢として想定されるスタートアップ企業様が増加しており、この条項に関するご照会も大変に増加しています。

当社はいち早く2022年の段階でこの条項を適用しておりました。

本事例は、以下の点で示唆に富む事例といえます。

・税制区分の使い分け

・海外子会社従業員への付与

・アクセラレーション条項の早期導入

200名以上の株主が存在するというかなり特殊なIPO形態でしたので、開示情報の制約上、分析に限界がある点はご容赦ください。

第3回はギークリーの予定です。

非上場企業のストックオプション設計は専門家への相談が重要

ストックオプションは、発行して終わりではなく、
設計段階での判断がその後の会計・税務・上場準備に大きな影響を与える制度です。

特に報酬制度としてのストックオプション位置付けは効果発現の成否を左右する重要な判断となります。
経験豊富な専門家に相談されることをお勧めします。

Gemstone石割公認会計士事務所が選ばれる理由

・非上場株式株価算定、スタートアップ向けストックオプション評価・設計支援の専門事務所

・累計1000件超、年間100件超の株価算定、ストックオプション評価実績

・2014年以降累計30件超の新規IPOに関与

・豊富な監査法人監査・上場審査対応経験

30分無料相談を実施しております

ご相談内容に応じて、次のような点を整理します

  • 貴社の状況で、税制適格ストックオプションが利用可能かの整理
  • 税制適格SOが使えない場合の、有償SO・税制非適格SOの選択肢比較
  • 有償ストックオプションの評価額(公正価値)の考え方と実務上の留意点
  • 権利行使価額設定のための株価算定
  • 現時点で取るべき次の実務ステップの整理

制度設計に着手する前のご相談をおすすめします。

この記事を書いた人

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

長谷川好彦(公認会計士・社会保険労務士)

非上場株式株価算定、ストックオプション評価・設計支援を専門とする公認会計士・社会保険労務士
公認会計士(日本公認会計士協会東京会 正会員)
社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)

大学卒業後メガバンク勤務を経て、Gemstoneグループに入社。
株価算定およびストックオプション評価業務を中心に担当し、2025年には年間139件の算定・評価業務を担当。