1.株価鑑定の判断が異なってくるポイント

未公開会社の株式の評価が問題となる局面として以下のようなケースがあります。

Ⅰ.株価鑑定における全体的なポイント

1.判例と傾向と対策

最近の判例は、DCF方式を目にする事が多くなってきました。
かつては、DCF方式による判例はほとんどありませんでした。
DCF方式の重要性が高まっているという傾向を踏まえ、株価鑑定を行う時の留意点として、どのような事が考えられるでしょうか。
DCF方式が増えてきたという事は、DCF方式の特徴を理解する必要があります。
DCF方式の一番大きな特徴は、DCF法式は将来の事業計画や割引率等の仮定に依存する部分が
多いという事です。そのため、その仮定の妥当性を検討する能力が必要となります。

2.依頼すべき鑑定人

依頼すべき鑑定人を決める上で、考慮すべき重要な点は下記の点です。

(1)鑑定人の経験や判断に大きく依存するという点

株価鑑定は単に計算を行うだけではなく、裁判の流れを読み取り、定性的な要素も鑑定額に反映をさせる必要があります。

例えば、DCF方式の適用を検討する際、事業計画書の提出がないといった場合、本当にないのか、ないという事を当事者同士はどのように考えているか、仮に、当該計画がないという事を一方当事者が納得していない場合、一概にDCF方式での鑑定を止めてしまうべきなのか、といったような点です。裁判の流れを読み取れなければ適切な鑑定額を算定する事は難しいです。そして、そういった能力は鑑定人の経験や判断がものをいうと言えます。

(2)最終的に責任を負うのは、裁判所、弁護士であるという点

鑑定人は交渉の最前戦にいるのではなく、裁判官や弁護士先生のサポート役です。そのため、鑑定人は、裁判官や弁護士先生に適切な説明を行うことが必要となります。鑑定人の中には、裁判官や弁護士先生との適切なコミニュケーションを怠る方もいます。また、裁判官や弁護士先生は裁判・法律の専門家ですが、株価鑑定の専門家ではないという点を留意する必要があります。

私たちは、鑑定人として、裁判官や弁護士先生との適切なコミニュケーションを通じて、合理的かつ公正な判断のサポートをしたいと考えています。

3.裁判所に提出する鑑定額は、あらかじめ折衷すべきか

株式の買手側、売手側にはそれぞれ理想とする株式の売買価額があります。
売主側はより価額を高く、買主側はより低くしたいと考えます。
鑑定人の心理としては、売主側、買主側の鑑定額を折衷させようとする心理が働きます。理論的には、鑑定人独自に売主希望より高く、買主希望より低い、鑑定をすることも考えられますが、利害調整の観点からは実務上、そのような鑑定が行われる可能性は低いでしょう。

4.鑑定額をレンジで示す事は可能か

裁判における株式鑑定価格は、M&A等の株価算定のようにレンジで出すのではなく、一点の価格を出す必要があります。
M&A等における株価算定は、両当事者の交渉の材料として算定を行うのに対し、株価鑑定は、両当事者の折り合いをつける価格を決定する必要があるためです。鑑定価格をレンジで出せば、いつまでたっても決着がつかない事になってしまうためです。

5.株価鑑定人選定のポイント

鑑定人には、訴訟人等への十分な資料の催促も行わず手を抜いたようなケースが散見されます。安易に資料不足を理由とした純資産法適用等のケースです。
鑑定人選びは、鑑定人の知識や経験を重視すべきですが、大前提として、何よりもまず誠実に鑑定に取り組む職人気質の鑑定人を選ぶべきです。また、最近の裁判例は、案件ごとに算定方法の妥当性の判断を行っており裁判における株価鑑定は、裁判官の裁量により算出(鑑定人の評価額を含む)されます。
そのため、鑑定人は、裁判官を納得させるための、高度な経験や技術を持ち合わせている事が重要になります。

株式公開支援の石割公認会計士事務所 株式公開支援の石割公認会計士事務所

Ⅱ.DCF方式におけるポイント

1.事業計画が存在しない場合におけるDCF法採用の是非

DCF法は、基本的には両者の間でコンセンサスのとれた事業計画を基に鑑定を行うべきです。しかし、様々な事情により事業計画を入手出来ない場合があります。そのような場合であってもDCF法の採用の可能性を模索する必要があります。その理由は下記の通りです。
(1)事業計画は、過去の業績傾向に基づき作成される事が多く、鑑定人側で独自に作成を行う事が可能である場合があります。
(2)両当事者のそれぞれの売買の決断は、合理的経済人として、独自に将来の利益や投資に関する経済性計算を行った上での事と考えられ、その計算は、会社が作成する事業計画だけに左右されるものではないと考えられるためです。
(3)「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」においても、過去の実績値を参考として将来のキャッシュフローを予測する手法が紹介されており、事業計画が存在しなくてもDCF法が適用される余地があることを示しています。

2.エクイティリスクプレミアム

エクイティリスクプレミアムの算定については、どの期間を採用するかという事が重要となります。
一般的には、(1)安定したデータであり、かつ、入手可能な(2)長期的なデータを使用する事が望ましいとされます。

(1)安定したデータという点で問題になるのは、ブラックマンデーやオイルショック、バブル崩壊等の株式市場の混乱を算定の期間に含めるかといった点です。

(2)長期とはどの程度の期間を指すかという点ですが、問題になるのは、戦後の株式市場の混乱期を算定の開始時期とするかといった事や、サブプライムローン危機前を算定期間の終了時点とするべきかといった点です。

これらの判断は、過去の判例を見ても画一的ではない点に留意をする必要があります。

3.サイズ・リスクプレミアム

サイズ・リスクプレミアムとは、企業の時価総額の違いに応じたリスクプレミアムです。例えば、東証一部上場企業と非上場企業とでは、概ね上場企業の株式を保有することによるリスク(破産や買収)は非上場企業のそれと比べ低いです。そして、リスクが低い分そのプレミアムは低いと考えられます。そのような時価総額の違いに応じたリスク・プレミアムは、通常のWACC(CAPM等のリスクプレミアムの計算)の式には含まれておりません。
したがって、当該プレミアムを加算することには一定の合理性があるといえます。しかし、未だプレミアムの推計の方法は確立されているとは言えず、恣意性が加入するとの懸念もある事から、裁判等において、当該プレミアムが加算されるという事例は多くありません。

4.マイノリティ・ディスカウント及び非流動性ディスカウント

対象となっている株式の性質(支配権がない事や株式の流動性が低い)に応じて株式価値にディスカウントを加える方法です。両社とも一定の合理性がある考え方ですが、通常は、M&Aにおいて、売買当事者の価格交渉において使われる調整事項です。

5.継続価値

継続価値とは予測期間後のキャッシュフローの現在価値です。
この継続価値の算定には様々な方法があります。また、継続価値は、鑑定額へのインパクトが大きくその算定は、経験豊富な鑑定人の元、慎重に行う必要があります。

Ⅲ.純資産価額方式におけるポイント

純資産価額が、鑑定額の下限であるという事の是非について純資産価額は、会社の清算・解散価値を意味します。一方で、DCF法式や配当還元方式は将来の会社の価値に基づいており。したがって、DCF法等の将来の価値が、純資産価格である精算・解散価値よりも低ければ、もはや会社を続ける意味はないと考えられるという議論があります。この議論からは、純資産価格が株価鑑定を行う際の最低限の価格を表しているとも言えます。
これは、法学者の立場からの主張が多いようです。しかし株主が利益配当や将来の株式売却の期待をし、また会社が、現実的に解散・清算を全く予定していない場合もあります。この場合、現実的に全く予定のない解散・清算の価値を最低限の価格とする事は、矛盾が生じているのではないかと考えられます。また、現実の上場会社であってもPBR(株価純資産倍率、株価が純資産に対して何倍の値であるか)が、1を下回る場合も多くあります。最近の多くの裁判例では、純資産価額は鑑定額の下限という考え方は支配的でなくなりつつあります。

Ⅳ.配当還元方式におけるポイント

配当還元方式は、少数株主の株式を鑑定する際に多く使用されます。当該方式のポイントとしては、下記の通りです。

(1)少数株主の判断基準

株価鑑定においては、どのような場合を少数株主というかが重要です。
一般的には、会社法上の特別決議(議決権の3分の2以上)を阻止出来るかという点を基準にします。阻止出来ない場合、意思決定機関を支配しておらず少数株主と考えられます。したがって、株式保有割合が3分の1未満である場合、少数株主といえる可能性は高いです。しかし、これはあくまで形式的な基準でありますので、実際の裁判においては、このような形式的判断に加え、実質的な判断を加える必要があります。

(2)少数株主の利益と配当還元方式

少数株主は、会社の意思決定機関を支配しておらず、その保有利益は配当及び残余財産の分配(解散が全く予定されていない場合を除く)の2つといえます。したがって、少数株主の株式を鑑定する際は、配当還元方式や純資産価額方式が使用されるケースは多いです。
しかし、配当還元方式は、下記のような性質がありますのでその適用にあたっては十分に注意をする必要があります。

純資産方式には、簿価純資産法、時価純資産法、時価純資産プラス営業権法、再調達時価純資産法、清算処分時価純資産法、国税庁時価純資産法等があります。これらの方式は、企業の収益性、成長性、配当状況を考慮していない静態的な価値評価である点、また債務超過の会社に適用できない欠点があります。


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